別の人の彼女になった友達の話

中学の同級生に美大の友達がいる

確か彼女はもともと、私の友達の友達だ
中学の2年か3年で同じクラスになるまでは、
あまり会話をするような関係でもはなかったと思う

いつも本を読んでいて、どちらかと言えば地味な雰囲気
物静かに見えるメガネの子

｢うっかり｣ その中学に入学してしまった私は
中学を卒業してからというもの、
ほとんどの同級生と連絡を取っていない

でも何故かその彼女からは、
定期的に 遊びに行こうよ と連絡が来る

同じクラスだったとはいえ

部活も家の方向も違う

確か中学３年の冬くらいに同じ班になることがあって、
そこからラジオの趣味やお笑いの趣味を共有するようになったんだっけ

卒業以来連絡をとっているごく僅かな友人の中では、
いちばん共にした時間が少ないかもしれない
不思議な関係だ

彼女リクエストの店で食事をしながら
今何をしてるのか、どこでバイトをしてるとか、そんな近況報告をし合う
大概の近況を話終わると、最近はどの芸人が好きだという話をして、あとは少し中学の頃の思い出話をするくらい

穏やかで緩やかな時間である

彼女は物静かに見えるが口を開くとズバズバとものを言うし、
他人のことをよく観察しているおもしれー女なので、基本的には何でも話してくれる

中学時代から唯一聞いたことがないのは、恋バナくらいだろうか
男子と話さないタイプでもないが、いつも女の子の友達に囲まれていて恋愛には見向きもしていないようだった
この間も「なんか良い話ないのー」と聞いてみたが、「あるわけないじゃん」とサッパリ切り捨てられた。
まるで恋愛の影がないどころか、興味すらないかのように。

たらふく食べたあとは、いつもカラオケに行く

この辺りの地元民なら行ったことがあるであろう、綺麗でも汚くもないまねきねこ。
春休みなので、同じく休み中の同級生とすれ違うんじゃないかって少しドキドキした

彼女はだいたい一曲目にSHISHAMOの「僕に彼女ができたんだ」を歌い、盛り上げてくれる

｢恋バナはさっぱり無い｣って言ってたのに、彼女ができたことを喋りたくてたまらない歌を歌ってくるのは少し気になるが、
彼女の悪戯っぽいところが曲の雰囲気に合っていて、私は結構好きだ

そして盛り上げたにもかかわらず、2曲目には何故かaikoの「カブトムシ」を歌い、早くも場の空気をしっとりさせてきた

いわゆる｢カラオケでaikoを歌う女子｣というキャラでもないのに、カブトムシを歌う
「恋バナはさっぱりない」らしいのにカブトムシだ。
良い恋が終わった歌だ。

しかも何故かこの難曲を上手に歌い上げてくる

3曲目にはwacciの｢別の人の彼女になったよ｣

そう、何が言いたいのかというと
中学時代も、さっきも、
あれだけ恋バナに淡白な態度の彼女のセットリストは
何故か恋愛係数高めなのである

元美術部の彼女と元合唱部の私
私の歌い方が劇団四季だとしたら彼女は下北沢
これがかなりいじらしくて可愛いのだ


さらにコレサワの「あたしを彼女にしたいなら」を歌われるとそろそろ「本当に何もないのか？」と邪推してしまう

だって見えたぞ、その可愛いマイクさばきに男の影が。
ほんとうに何もないらしいのが悔しいけれど

別にたった一回カラオケに行ってこのセットリストを聴かされても何も思わないと思う
でも彼女の場合このセトリをすでに2回は聞いている

彼女と最後にカラオケに行ったのは1年ほど前のだが、
20そこそこで「別の人の彼女になったよ」を十八番に入れられる彼女の思想が気になって仕方ない

道を分かれてはや７年以上。
果たして空白の期間に彼女は何を読み、何を経験したのだろうか

次にカラオケに行ったときには、さとうもかの「melt bitter」を歌っていてくれると大変助かる。