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20歳 女 大学生 ひとり焼肉

小学5年生で ひとりファミレスデビュー を果した私は、1人でどこへでも行ける、ひとり旅好きの女だ。

ラーメンはもちろん、メイド喫茶もジャズバーにも気になった場所には一人で参加してきた。そんな私が唯一行ったことのない1人アクティビティがある。
それは、「ひとり焼肉」だ。

別に避けてきた訳では無い。
単純に、実家住み女子大生には行く機会を作るだけで不可能性が高いのだ。
だが、その機会は白馬に乗った王子様の如く 突然やってきた。

毎週、この日は夕方7時前まで講義を受けていて、帰りに友人と何かを食べて帰るのが定番コースだ。だから家にもお夕飯は要らないという旨をつたえてある。
しかし、今日は友人が「眠いから帰る」と家に帰ってしまったのだ。
仕方がないな、帰宅したところで両親は仲睦まじくディナーデート中だろう。

これはついにアレを決行する時が来たということか。

訪れたのは大学近くの商店街にある焼肉店。
看板にはチーズダッカルビの写真がでかでかと飾られている。

本当に行くのか?

店内を覗くと、きれいなお姉さんがボックス席に一人で座って冷麺を啜っているではないか!
一人旅好きとはいえ、「おひとり仲間」がいると安心してしまう小心者、作戦決行だ。

ひかえおろう、あたくしのご入店であるぞ!!

出迎えたのは韓国人らしい男性、清潔で落ち着いた雰囲気の過ごしやすそうなお店だ。
例のきれいなお姉さん同様、4人がけのボックス席に通され、ウキウキでメニューを開く。

が……さすがは焼肉…高い。

「人のお金で焼肉に行きたい」というのはこういうことだったのか。しかし今日は生憎一人焼肉だ。スポンサーが居ては一人焼肉では無くなってしまう。

とりあえず味付けもやしと、シマチョウを注文する。
店主が「ドリンクは結構ですか?」と勧めてくるが、
すまない。
しかしこの店には温かい飲み物はお湯割り以外ないんだろ?
今日は練習のし過ぎで喉がやられている。だから酒も冷たいソフドリも頼めないんだ。分かってくれやマスター。

そんなわけで今、シマチョウを焼き網に乗せて、もやしをつついている。

ホルモンは焼けるまでに時間がかかるので、その間にこうして独白をつづっている訳だが、
今のところ客は私とお姉さんと、奥の方に座っている これまた1人焼肉の婦人の3人だけだ。
もしやこの店はファミリー向けの店構えをしながらも一人焼肉専門店なのか?

だとしたら、ひとり旅の意味が無い。
一人旅は、カップルや家族などの「幸せそうな客」に囲まれ、惨めな思いをしてこそ 自由と背徳が感じられる遊びなのだ。
それこそが私の一人旅の美徳である。
だからせめて、店内でかかっている この歌詞の分からない韓国語の歌だけは恋愛ソングであってくれ。
頼むから、

おっ、やっと「幸せそうな客」が入ってきた。

櫻井タカヒ…いやオーイシマサヨシ似のカップル。
彼らは兄弟と言うにはちょっと違う。どう見ても彼氏彼女なのにどうしてそんなに顔が似ているんだい?お次は仲睦まじい初老の夫婦がご来店。なんと予約までしてきてらしい、悪いな隣の席が私でよ。

いかん、人間ウォッチングに夢中になっていたら、目の前のシマチョウが焦げているではないか……
いつまで経ってもホルモンの焼き加減はわからん。
誰か焼きに来てくれ、ひとり焼肉だけど。

問題は、この焼けたホルモンを何で皿にとるかだ。生肉を触ったトングか?木でできた割り箸か??
私は箸が燃える方が怖いのでトングの先を炙って使うタイプだが、これが正しいのかは分からない。
高校の頃、生物の先生が大の苦手で、テストの点数は赤点ギリギリで生き延びてきた私にとってはモンティホール問題と同じくらい分からない。
やっぱ誰か焼きに来てくれ、ひとり焼肉だけど。
焼肉代は渡すからさ、食事は隣の焼肉屋に行ってきな。

焦げた分だけ脂身がなくなってしまったもの、やはりシマチョウは格別である。
免疫力がブルブルと回復していく音が体の底から聞こえた。
少食の私は既にもやしとシマチョウでお腹がいっぱいなのだが、
さすがにもうひと皿の肉を頼まねば、酒もソフドリも頼まぬ女に対する店主からの視線が痛い。
しかも心做しか、壁一面に貼ってあるお酒のポスターからの視線も感じる

…井川遥よ、ハイボールは今度でも良いかね?

重い腰を上げてまたメニューを開く。
とはいえお腹がいっぱいなのに高い肉を頼むのは我が脳内の大蔵省が許さぬ。
3番目に安い肉を探すんだ!安すぎる肉を頼んでは決まりが悪い…

…「すみませーん!豚バラカルビください」
「豚バラカルビね 」

ほかの注文は?、と言いたげな店主

(さも当然)という顔でメニューを閉じて牽制する。
なぁ、私はもうおなかいっぱいなのよ、許せマスター。

そうして、もやし、シマチョウ、豚バラカルビを平らげ、お会計は2090円となった。
予算は2000円だったし、これゴチならニアピン賞では?
悪くないな、
2090年はPSYCHO-PASSの世界線なら須郷、六合塚、縢の3人が生まれた年だ。
てか、弥生さんと縢くんって同い年だったのか。

さて、念願の一人焼肉が叶い、私はルンルンで家路につく。
そうだ、まだ夜は長いし、繁華街へ買い物にでも出かけようか。
今なら大学の図書館がやっているから映画を1本観てきても良いな…と、最高に上機嫌な私に「何を食べたの?こちらはパパと中華でーす♡」と母からのLINEが。

しまった、今夜の私は、「友達と食事をしてきた」ことになっているんだった……まずいぞ、なんて説明しようか。友達が帰ってしまったので1人で食事をしましたと素直に話すのはなんとなくカッコ悪い。
という訳で、今から私は存在しない友人との 楽しかった食事の思い出を創作しなくてはならない。そうだな、アイデア募集中だ……。


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