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目指すのは、人口減なのに幸福度の増すまちづくり【小国町・渡邊拓磨さん】


「お前ん地元、ジャングルみたいだな!!」

友人たちに言われた言葉に突き動かされた熱い男が山形県小国町には、いる。

渡邊拓磨さんは、小国町に生まれ中学を卒業するまで小国町の「樽口(たるぐち)集落」で過ごし、進学を機に小国町を一度離れた。

拓磨さんが小国町で暮らすことを意識したのは彼の高専時代。

友人を地元・樽口集落を一望できる絶景スポット、樽口峠に連れていった時の出来事だった。高専時代まで地元に戻ることを特に意識していなかった拓磨さん。ある一言を聞いて、拓磨さんは、

「よその人は樽口をそんな風に感じてくれるのか。面白い!!!小国でやっていくのもいいかもしれない」

と決心し、高専卒業後に帰郷。きのこ農家である父親の正義(まさよし)さんときのこの栽培を始める。

彼を小国町に戻した一言とは……

「お前ん地元、ジャングルみたいだな!!」

▲樽口峠は、その全体が日本初の観光農園と言われる「観光わらび園」だ。上の写真はわらび採りの様子。頂上から見た景色は、まるで「ジャングル」のように見える。

「バチ当たっていい」

山形県小国町樽口集落に生まれた渡邊拓磨さんは、子ども時代を思い出しながら私たちに語ってくれた。

「オレが小学生の頃、(樽口集落の)じいちゃんばあちゃんが優しくて、あるばあちゃんが登校時には麦茶を、下校時にはおにぎりを持って家の前で待っていてくれた。それを今でも覚えているから、何かお返しをしたいなってなるよね」

拓磨さんが小学生だったころから、樽口集落に小学生がいることは珍しかった。
子どもや若者が少ない地域は一般的に、暗いイメージを持たれるかもしない。が、頃合を見計らってよその家の子のために麦茶を片手に待っていたおばあちゃんがいる。そんな集落を、温もりや思いやりの集まりの様には感じられないだろうか。

そんな温もりは土地由来のものなのかもしれない。

樽口集落には、樹齢800年以上推定40数メートルの御神木があったそうだ。御神木は文字通り、神の宿る木だから基本的には伐採してはいけないとされる木。けれど100年程前、やむをえず御神木を切ってしまった。そのやむをえない理由とは一体何だったのか?

「よく、『残ってたら観光名所になったんじゃない?』と言われるが、これ今残ってたら樽口もオレもいない」と拓磨さん。

というのも、御神木が切られた理由は、樽口集落が当時水不足に悩まされていたことにある。山を貫通させ、樽口の反対側の山から水を引く大規模な工事の資金を得るために樽口の人たちは苦渋の決断で御神木を切ったそうだ。

▲樽口神社にある「御神木」の跡。写真に収まりきらない大きさだった

「昔の人が考えてるのが自分たちのことだけじゃないんだよね。これから孫の孫の代まで、集落を存続させるために。『バチ当たってもいい、神木を切らないと』と決意した。オレからしたらどんだけ先見てんだよと。これはオレはちょっと堪えられない……と思って」

「孫の孫の代まで」考えて生きた樽口の先人たちの歴史に自分が生かされていると感じる拓磨さん。昔の人の思いやりの偉大さ。次世代への意識が薄く、自分中心に考えがちな若者の一人として、じわじわ感じさせられた。

「息子が後を継ぐのは当然だ」

渡邊拓磨さんより上の世代、父親の正義さんが20,30代の若い頃はそう言われていた。

一般的にも、一昔前まではいわゆる世襲が現在よりも圧倒的に厳しかった。

拓磨さんは高專卒業後、ふるさと樽口集落で生きていくことを決め、帰ってきた。拓磨さんの帰郷を喜んで町の人が拓磨さんにこう声をかけた。

「(小国に帰ってくるなんて)すごいねえ……」

拓磨さんはこの言葉に違和感を覚えた。

「『なにが?』って思ったよね。オレの場合は、好きで帰って来てるだけなのに、なんで『すごいねえ』と言われるのかなと」

なぜ、町の人はそう言ったのか?

もしかしたら、あの人は小国を好きではないのかもしれないと拓磨さんは想像した。好きだったら「よく帰ってきたな」と言う程度ではないかと。

「小国を好きでいることが大事なんじゃないの」

拓磨さんは強調する。自分が帰ってきたのは小国が好きだから。そして、小国で暮らしたいという意思が気持ちの多くを占めていたからだ。

好きなこと・やりたいことをやって生き生きと人生を送る。このような考えは、当たり前に聞こえるかもしれない。しかし、地方社会ではまだまだ理解が進んでいない。

そんな地方社会の中で、拓磨さんは「オレは、好きだからここにいる」を唱え続けている。目指すゴールは、小国町民が「小国が好きだ」と言い、よりフレキシブルに、より自由に発想できる“人口が減っても幸福度が増すまちづくり”だ。

文:北澤嵩人


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