【就農3年目のジレンマを越えて】なぜ秋庭農園は畑の拡大をとめたか 【前編】
畑を広げないと、家族の暮らしがもたない。しかし、畑をこれ以上広げると、家族の労働力がもたない。こんな就農者の「3年目のジレンマ」を、現場の農家さんはどう乗り越えているのか。その先に、どのように進化を遂げていくのだろうか。
茨城県古河市の秋庭さんは、米やハーブを育てるだけでなく、就農から3年間で500人のファンを農園に受け入れてきた。若手農家の注目の人だ。
ところが2019年、秋庭さんは「3年目のジレンマ」に直面し、最悪の経営難に陥っていた……!何が起こり、どう対処したのか。現場のリアルを聞いてきた。
語り手:秋庭さとるさん
聞き手:森山健太
◆ ヒロコさんが倒れた!
いや〜もう大変だったよ。“ナス事件”があって。
この前の夏は、本当に暑かった。その炎天下でナスの農作業をしていた妻のヒロコが、熱中症で倒れてしまったんだ。
ある日、いつも2人でやっていた仕事を「今日は一人で頼む」とヒロコに伝えて、ぼくは家から離れた畑で仕事をしに行った。
ヒロコは、ナスの収穫を朝5時からはじめていた。だけど、いつもは8時で終わるのが正午になっても終わらなかった。きつかったのは作業量よりむしろ、灼熱の中の孤独感だったと思う。ヒロコはそのトラウマからしばらく畑に立てなくなった。
一方、野菜の被害も大きかった。暑すぎて、収入源のブロッコリーが半分しか発芽しなかったんだ。さらにタイミング悪く、高価な農業機械が4台も壊れてしまった。
来年このまま行ってしまったら、家族が終わる。そんな気持ちを察したかのように息子が言った。
「あきばのうえん、やめないで」
◆ 畑を広げるべきか?
“ナス事件”は、こんなことを問いかけていた。
農業を一生懸命やっていれば、地域の人が信頼してくれて、畑を任せてくれる。うちも、3年目で、東京ドーム1.5個分(約7ha)まで広がっていた。一方で、畑が集まれば集まるほど、小さな家族経営はどんどん圧迫されていく。
これはまさに、就農3年目のジレンマというべきものだった。つまり、「畑を広げるべきか、広げないべきか」「家族経営のままか、人を雇う法人経営に切り替えるか」。
そんな時、声をかけてくれたのは、先輩農家の中山さんだった。
◆ 農家に向いてない
「秋庭くんは、農家に向いてない」
ズバリ、秋庭農園は生産だけで稼いでいくタイプじゃない。中山さん自身、イタリア野菜を作って飲食店に直接販売する、量より質のスタイルだった。
そのころ、ヒロコもあることに気がついていた。「私、農業が好きで農家になったんじゃない」。そうじゃなくて、「農家のライフスタイルが好きで農家になったんだ」と。野菜を作りたくて農家になったのではない、という気づきだった。
いったい、ぼくらは何のために農家になったのか。最大の結論は、就農1年目にTABETAIに取材してもらったときと同じだった。
挑戦していく中で、事業の形は変わっていく。でも変わらないものがあるとするなら、それは自分たちの原点なのだと思う。
では、どんな農家の形が考えられるのか、3つ考えた。
1つ目に、家族経営のままで、これ以上畑の面積を広げないこと。
2つ目に、同じ労力と資本で、売上アップ・支出ダウンを計ること。たとえば、農協価格の1.5倍のお米「ふくまる」の面積を広げて売上をアップさせる。農業機械に新車を買わない、壊れないようにこまめにメンテナンスをして支出をダウンさせる。
このふたつによって、「家族をど真ん中におく」ライフスタイルと、それを支える収入を守ることができる。
3つ目に、秋庭農園らしい新規事業で攻めていく。そのひとつが、ふるさと古河のメッセンジャーとなる『農園ケータリング』という挑戦なんだ。
後編に続く
※この記事は2019年2月に作成されたものです
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