研究室

Fish in the tank(3)


雄二と青柳が研究室に戻ると、時間を潰しにどこかに行っていたはずの美雪が先に部屋に戻ってきていた。

美雪は壁に向かって並んでいる本棚から何かの資料を探している様子で、青柳はその痛々しい搔き傷が重なったアトピーの首元を、思わずじっと見つめてしまっていた。

「ねぇ、茄子川さん。先生来た?」

 雄二がそう話しかけると、考え事に集中していた美雪は二人がいつの間にか部屋にいることに一瞬驚いて、少し間があった後に、「まだ来てないみたいだよ」とその質問に答えた。

「…自分で今日しか時間取れないって言ってたのに」

雄二は非難めいた口調で言いながら荷物を作業机の上に乱暴に置くと、その中からプリントアウトされた論文の草稿を取り出して、パラパラと目を通し始めた。

「…何か急用かもよ?」

美雪がなだめるように言っても、「…そうかもね」と気のない返事を返すだけで、やがてウォークマンのイアフォンを耳に付けると、むっつりとしたまま何も話さなくなってしまった。

 ……小林君、またカリカリしてるなぁ。

そう思いながら美雪は本を壁際に設置されている本棚に戻すと、窓の外に視線を移して大学構内をぼんやりと眺め始めた。

西向きの窓のすぐ外は運動部専用の芝生のグラウンドになっていて、窓で区切られたそのライムグリーンの風景の中に、白くて冷たい冬の空気が満ちているのが部屋の中からも分かった。



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