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詩集:どこにもいけない

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行き場もなく日々わだかまる言葉達は、詩の中以外はどこにも行けない
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2018年5月の記事一覧

詩:沈黙する草原

詩:沈黙する草原

草は呼吸するとき

音も吸い込む

だからそれらがこすりあうさざめきの中に

宇宙の真実を思わせる無音の瞬間が訪れる

それをいつまでも聴いていると

次第に耳の中で何かが生まれて

やがては頭の中を貪りつくしてしまう

だからまぶたをとじてみる

すると不確かな記憶のそこで

何かが揺れていた

幻のような光が

瞳孔

水晶体を通って

分光して

角膜に到達して

いま

像が結ばれる

詩:もう、とっくに春なんだよ

ふとんから抜け出して
裸足で床をふむとき
足の裏にわずかに真昼のぬくもり
そういえばとっくに春なのだと
あなたは気づく

未だに冷える夜に漂う
わずかな昼間のぬくもりとして
あなたの春はそんざいする

あらかじめ炊けるように
セットしていた白米の上に
レトルトのカレーをかけて
暗い部屋の中で
電気もつけずに黙々と食べる
隣の部屋からはテレビの音が
壁越しに伝わってきて
上の部屋からは
仕事を終えて

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