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成田 くうこう (小説、詩、エッセイ)
2019年6月13日 00:06
空き地が好きだと思う。スーパーからの帰り道。何とはなしに近所を歩いているとき、唐突に何もなくなった空間と出くわすと、かつてそこに誰かの生活があった事を知る。実際に、家があった時は気にも留めなかったし、どんな家かも全く覚えていないのだけれど、なくなった瞬間に思い出したくなるのだ。空き地ではすっかり何もかもが取り払われて、黒土だけが剥き出しの状態になって広がっている。例えば時間と共に雑
2018年7月29日 10:35
最初の場所には、もう最初の面影がない。広場にたくさん繁っていた枇杷の木も、太田のおばちゃんも、長南さんも、優しかった人は皆どこかへいってしまった。こんなに建物は多く、整然としていたか。駐輪場はひっそりとしていたか。道は滑らかに舗装されていたか。全く記憶がない。懐かしさは全て消えてしまい、そこにあるのはただただ現在の人々の生活の気配である。磨りガラスの向こうは暗く、人の気配はしない。ただ
2018年8月3日 15:41
かつて母親によく連れて行かれたスーパーの敷地内に、紙コップ式の自販機が並んでいた。今でもあの種のタイプのものがどのくらいあるか定かではないが、お金を入れてボタンを押すと機械の中に紙コップがポコンと出てきて、ジーッという音と一緒にジュースがぴゅぴゅぴゅうと注がれる。最後に細かく砕かれた氷がガガガガガっと入って、ランプの点滅が終わると取り出しオーケーとなる。ジュースは異なる味でミックスにもでき