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歌と、年末

年末なんて明日みたいなもんだよ、と電波越しに誰かが言った。9月のカレンダーに別れを告げてまだ日も浅いのに、それはさすがに極端すぎるのではとマスクの下で笑ってしまったが、鰯雲を見上げながら「夏休みが終わったら年越しまであっという間だよねー」なんて口走った昨日の自分も似たようなものかもしれない。始業式、中間テスト、文化祭、期末テスト、終業式、冬の新人戦、クリスマス、大晦日。学生時代の自分が耳にしたら「秋と冬を瞬殺するな」とでも反論が返ってきそうだが、イベント事とはたっぱり縁が無くなった社会人にとっては光陰矢の如し。大人になるってこういうことなのだろうか、という考えが浮上してなんだか急に寂しくなる。海の見えないキャンパスを卒業してからもうすぐ10年だ。10年。

自然の移ろいを感じ取れる方だとは思う。幼少期を緑豊かな場所で過ごしたおかげもあるだろう。雨の予感、生き物の顔ぶれ、匂い。そういうものに気が付く度に、自分の五感は鈍っていないし、昨日と今日はちゃんと違う1日なのだと思えて少し安堵する。ちゃんとってなんだろうな。とにかく、山と海に挟まれた今の住まいへの引越しは、ここ数年の中でも自画自賛の好プレーだと言い切れる。人工物から少しだけ距離のある生活は、不便はあっても不満はない。強いて言うなら駅前にミスドがほしいくらいだけど、たまの遠出の楽しみとして消化できているし、そう大した問題じゃない。

師走の忙しなさも別に嫌いではない。うまく言えない物哀しさの正体にたどり着く前に、毎日はびゅんびゅん目の前を通過していく。ただ、ただ過ぎる。良いことも悪いことも全部が綯い交ぜにされて、年末だもの、の一言にあっさり片付けられる。いつからか誰かが数え始めた暦、年月、カウントダウン。遠くで鳴る鐘の音を聞きながら冬の海を眺める度に、ちっぽけな自分を突きつけられてなぜかほっとする。きっと今年の大晦日もそんな感じだ。あと数ヶ月。それまでどうか健やかに。


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