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アメとムチとモチベーション

今回は「モチベーションの心理学」の中から、「アメとムチ」の項目についての読書メモを書いていきます。


「モチベーションの心理学」の概要

「モチベーションの心理学」は、私たちが日常使う「やる気」「意欲」といった言葉を、学術用語「モチベーション」として学べるモチベーション心理学の入門書です。

本書によると、一般的な心理学によるモチベーションの定義は、

特定の行為が始発し、持続し、方向づけられ、終結するというプロセス


モチべーションの心理学(鹿毛雅治 著)

とされています。

第1章はモチベーションの概要、第2章は、モチベーションのグランドセオリーを、第3章~7章では代表的なミニセオリーが解説されています。

今回は第7章で取り上げられているミニセオリー「環境説」の中でも、「賞罰」について考えてみたい。

ムチについて

まず、環境説は、外的要因、環境には人のモチベーションを生み出したり、変化させるパワーがあると考える説のことです。今回は、環境説の中でも「賞罰」、つまり「アメとムチ」に着目しました。

体罰に限らず、上司部下、親子、法律など様々な場所で「罰」は使われています。重大な犯罪、違法行為だけでなくモラル違反に対して、もっと厳しい「罰」を与えるべきだ、との論調になることがあります。社会として「罰」はある種必要なものとして許容されています。

しかしながら、本書では

罰は望ましくないと行動分析学では結論づけられている

モチべーションの心理学(鹿毛雅治 著)

と強調しています。

なぜ罰に対してこのように批判しているか、本書ではいくつかのポイントを説明していますが、私が特に重要だと思った点は以下の3つです。

  • 罰の効果により、望ましくない行動が減るが、望ましい行動が増えることはない

  • 罰の効果を持続させるために罰をエスカレートせざるをえない

  • 改善情報を与えるわけではないので、単に回避行動、逃避行動のみを促す(むしろ、叱られずにすむ行動が強化される)

そのほかにも罰は一時的な効果しかないことや、ネガティブな感情や行動を引き起こすことも説明されています。さらに、体罰や言葉による罰の望ましくない効果は長期にわたる点も影響を及ぼすことも分かっています。

アメについて

では、ムチと相対するアメ(報酬)についてはどうなのでしょうか?アメの代表格である金銭報酬について説明されています。

金銭報酬は明らかにモチベーションを高める効果はあり、また分かりやすいが必ずしも良い面ばかりではありません。本書では報酬システムの弊害をいくつか挙げていますが、私が特に重要だと思った点は以下の通り。

  • 報酬にちょうど必要なだけの行動を行い、それ以上はやらない

  • 最小労力、最大報酬を目指すため、「手抜き」や「取り結い」が横行する

  • 報酬を使いだしたら簡単にやめられない

  • アンダーマイニング効果(第5章に以下の説明あり)

楽しい活動、つまり内発的に動機づけられている行為に対して報酬が約束されると、その後、モチベーションが低下すること

モチべーションの心理学(鹿毛雅治 著)

これらの弊害の最たる事例として、成果主義の目標管理が挙げられています。1990年代の日本で多くの企業が取り入れた成果主義、その代表格である富士通の失敗事例は、本書に限らず多くの書籍で取り上げらています。

本書では成果主義はモチベーターにならないと一蹴し、当時の富士通社員の発言を引用して締めくくっています。

「仕事をやりとげる」という目的意識が、いつの間にか、「単に目標を達成する」というドライなものに変わった。

富士通社員(当時)によるこの発言は、成果主義と目標管理が人にもたらす悪影響を端的に示している。仕事に対する熱意が不適切な報酬システムによって奪い取られてしまったのである。

モチべーションの心理学(鹿毛雅治 著)

それでもアメとムチは必要

ここまで、本書ではアメもムチも問題点があると批判的に述べられていることを書いてきました。

ここからは本書を読んでの私の雑感です。

とは言え、現実社会や企業で働く環境の中で、アメともムチとも向き合わざるをえないでしょう。

残念ながら、モチベーションの問題に関しては、いつでも、どこでも、誰にでも通用するような「ハウ・ツー」は存在しないのである。本書で明らかにしてきたように、「やる気」や「意欲」は一般に考えられているよりも、ずっと複雑で微妙な現象だからである。

モチべーションの心理学(鹿毛雅治 著)

自分の働く環境、会社についてあてはめれば、上記のアメとムチの問題点を十分に理解しつつ、一般的な解ではなく、自分の会社における解を設計しないといけないのでしょう。

自社の解を導きだす中で、「現場が動き出す会計」はオススメの一冊です。

本書は会計が、単なる情報だけではなく、働く人々に様々な影響を与えることを教えてくれます。

たとえば、アメーバ経営で有名な京セラでは以下のように考えていると解説されています。

ヒトが努力をする源泉には、ボーナスのような金銭的インセンティブだけでなく、周囲からの尊敬などの社会的インセンティブも含まれる。稲盛氏も指摘するように、前者に頼りすぎると、長期的には社内の雰囲気が悪化する恐れがある。業績を厳しく管理するからといって、必ずしも業績と報酬を大きく連動させればよいというわけではないのである。

現場が動き出す会計(伊丹敬之 、青木康晴 著)

個人的には業績と報酬を大きく連動させないという意見に共感します。そして、私のコンサルティングでは、基本的にはその考えに従っています。

しかしながら、一方で大きく連動させることを経営者も従業員も理解、納得した上で実施している企業にも肯定的です。やはり一般的な解ではなく、その会社や働く人にとっての解を見つけることが大切なのでしょう。

また報酬制度や会計情報に限らず、企業にルールは様々な人に影響を及ぼします。ときに予想外の影響を及ぼし、大きな失敗につながることもあります。

この本は、表紙に「なぜ、人は想定通りに動かないのか」とある通り、ルールを設計したからと言って、設計通りに動かないことは多々あります。

導入したルールが上手く機能しているかを、いつ・どのように評価するかを事前に決めておき、評価の結果に応じてルールの改善、または撤回を行えるようにしておく

数理モデル思考で紐解くRULE DESIGN(江崎貴裕 著)

企業における「アメとムチ」の設計は、過去の知見からメリット、デメリットを学びつつ自社に合った解を設計します。

とは言え、必ずしも想定通りに機能するわけではないので、しっかり評価、フィードバック、改善や撤回する仕組みを作っておくことが大切でしょう。

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