見出し画像

副業は人を幸せにするのか?『「副業」の研究』を読んでみた

企業にとっても、個人にとっても、ますます身近な存在になってきた副業。大手企業の副業解禁、副業者募集のニュースは、すでに珍しいものではなくなってきました。また、副業で活躍の場や収入が増えた方の個人での発信を目にする機会も増えました。

しかしながら、こちらの記事にあるように副業には難しさやしんどさも存在するはずです。

私は「人生を豊かにしたい」と思ってはじめた複業が、いつのまにか生活を圧迫し、自分を疲弊させるものに変わってしまっていました

『「副業」の研究』とは?

本当に副業は人を幸せにするのか?人生を豊かにするのか?そんな疑問に真正面から向き合った研究をまとめたこちらの本。

Amazonで目次の「第8章 副業は人を幸せにするのか――主観的幸福度の分析を見た瞬間」に思わず購入を決めてしまいました。

【目次】
序 章 なぜ、いま副業について考えるのか
第1章 働き方のなかの「副業」
第2章 労働経済学で副業を捉える
第3章 現代日本の副業――政府統計で副業を捉える
第4章 収入を得るための副業
第5章 様々な動機による副業
第6章 副業は本業のパフォーマンスを高めるのか
第7章 法的課題と企業の対応
第8章 副業は人を幸せにするのか――主観的幸福度の分析
終 章 副業のこれからについて考える――まとめに代えて

今回は、第6章と第8章の内容を中心に考えてみたい。

本題に入る前に「第5章 様々な動機による副業」で触れられている副業の動機分類を押さえておきます。本書ではリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019」をもとに動機を3つに分類しています。

金銭的動機
「生計を維持するため」「生活を維持する最低限の費用以外に、貯蓄や自由に使えるお金を確保するため」
スキル動機
「転職や独立の準備のため」「様々な分野の人とのつながり、人脈を広げるため」「自分の知識や能力を高めたいため」
その他動機
時間にゆとりがある、社会貢献したい、など上記以外の動機

そして、副業をしている人、希望している人ともに、金銭的動機が圧倒的な上位2つの動機となっています。

副業は本業のパフォーマンスを高めるのか

さて、企業はどんな理由で副業を推進、容認しているのでしょうか?リクルート・キャリア「兼業・副業に対する企業の意識調査」をもとに読み解いています。
(※同書では2018年版に基づく記述だが、下記グラフは2019年版より抜粋)

兼業・副業の導入をしている企業の導入理由や背景

上位2位の「社員の収入増につながる」「特に禁止する理由がない」は変動なく約40%だが、企業に直接的なメリットがあるわけではなく、積極的に副業を認める動機ではないと考えられます。

企業の利益に直接的につながると思われる「人材育成・本業のスキル向上」、「社員の離職防止」、「イノベーションの創発・新事業の促進」などは、伸びている傾向はあるとは言えど、上位2位と10%以上の差があります。

そこで、「本当にスキル向上効果があるのか?」について、先行研究をもとに独自の研究がされています。

スキル向上効果を計測する指標として、「賃金率の上昇」と「主観的なレベルアップの実感」の2つを用いています。

本業職業を「分析的職業:管理、専門、技術」「対話的職業:事務、販売、サービス」に、副業動機は「スキル動機」「金銭動機」に分けて調査分析されています。

分析結果から、すべての副業者がスキルアップ(賃金上昇、主観レベル)するわけではないことが分かりました。

「分析的職業&スキル動機」による副業者のみが、スキルアップ効果が検証されました。(なお、あくまで平均的な効果測定であり、その他を否定するものではないとの注釈があります。)

本書はここから「そもそも、なぜ副業にスキルを高める効果が存在するのか」について考察を進めており、一つの答えが「越境学習」だと述べられています。

スキル動機の副業者は、副業で得た経験や知識を能動的に本業に持ち帰るため、学習効果としてスキルアップしていることを示唆していると筆者は考察しています。さらに、経験学習モデルをもとに副業経験を振り返り(内省的省察)、その経験を概念化し他の状況で応用可能に自らつくりあげる(抽象的概念化)ことで、副業経験が本業のスキルアップとして効果を発揮するとしています。

第8章 副業は人を幸せにするのか――主観的幸福度の分析

本題に入る前に、「副業は人を幸せにするのか?」を分析の方法を確認しておきます。

データについては、本書で何度か取り上げられている「全国就業実態パネル調査(リクルートワークス研究所)」を用いています。そのうえで副業非希望者、副業希望者、副業保有者の三者間で主観的な幸福度が異なるかどうかを分析しています。

幸福度は動機に寄らず、希望者より保有者が高い結果になりました。つまり、副業を希望するが何らかの制約でできない状況は幸福度を下げ、実際に副業を持つことで幸福度は高まることが分かります。

(幸福度)
収入目的 :
希望者 < 保有者 << 非希望者
スキル目的:非
希望者 ≒ 希望者 << 保有者

副業動機による差についても分析されています。(正社員でもアルバイト・パートでも傾向は同じとのこと)

収入目的では、希望者は非希望者に比べて大きく幸福度は低い。副業保有でやや緩和されるもの効果は小さいです。

一方で、スキル目的では希望者と非希望者で幸福度に有意差はない。そして副業保有は、金銭的目的以上に幸福度が上昇しています。

この差の要因として、収入目的が動機となる場合、そもそも平均的に幸福度も満足度も低いことが挙げられます。そして、希望者にくらべ保有者は改善を示すものの、十分ではないとの分析結果になっています。

幸福という観点でいえば、メンタルヘルスについても重要です。本章では副業保有がメンタルヘルスに及ぼす影響についても分析がされています。

メンタルヘルス:希望者 ≒ 保有者 < 非希望者

副業希望者と副業保有者にメンタルヘルスについて有意な差はないものの、非希望者に比べスコアは低下することが分かりました。

収入目的動機は本業労働時間に関わらず、スキル目的動機は本業労働時間60時間以上の場合、著しく低下することが分かります。

副業は実際にする以前に希望する時点でメンタルヘルスが低い状況にあるため、副業を始める上では本業の仕事の負担を考慮に入れた上で自分の健康を維持できる副業を選択する必要があると指摘しています。

読み終えて

副業は今後も多くの会社で解禁、推奨されていく上で、副業者のスキルアップ、幸福度についての研究は大きな意味があると感じました。一方で読み終えて感じる課題が2つあります。

①副業と企業、上司の向き合い方

一方で、副業を解禁、推奨する企業が、スキルアップなどの恩恵を最大限享受するにはどうすれば良いのだろうか?

実際に副業を解禁している企業のマネージャーの声を聞く機会があった。会社としてもマネージャーとしても、本人が希望した副業をすることには賛成している。だが、実際にはどのようにマネジメントして良いか悩んでいるマネージャーは多いとのことです。

副業する本人も、その上司、会社もまだまだ経験の浅いエリアであり、時には課題を抱え苦悩するはずです。だからと言って、実際にスキルアップ効果が認められ、幸福度も上がる副業を止める理由にはならないでしょう。

副業に挑戦し、組織と個人が失敗をしながらも学習をし続けることが大切だと思います。人事制度は一度作ると変更には慎重になりがちです。しかし。だれもが経験の浅い副業にまつわる制度は学習し必要に応じて、臨機応変に素早く変更することが求められるでしょう。

また、副業に限った話ではないですが、上司と部下による1on1ミーティングを高頻度で行い、お互いに本音で対話し学習することが有効ではないでしょうか?

②副業選択で気を付けること

副業が広がりを見せる中、副業マッチングなど副業関連ビジネスも増えてきています。副業関連ビジネスは今後の世の中で大きな価値を生む可能性がありますが、ごく一部ですがやや違和感を持つビジネスもあります。

副業ではメンタルヘルスの問題が発生しかねないことを考えると、安易に副業のメリットだけを鵜吞みにせず、冷静に判断することが望ましいでしょう。

また、「人事の組み立て」によると、日本企業の正社員は、賃金が緩やかに上がる階段になっています。しかし残念ながら、現状では一度外れると戻りにくいのです。

本来は副業してようがしてなかろうが、成果や今後の期待値で正当に評価されて昇給や昇格がなされるべきでしょうが、副業についてはまだまだ人事も上司も慣れていおらず必ずしも望ましい評価ができるかは不透明です。

そのため、副業者は本業での成果について、副業で労働時間減による減少分よりも、副業によるスキルアップでの増加分が明らかに多くしなければなりません。そのためには、副業を振り返り、学習効果を発揮しなければならないでしょう。そして成果や貢献がきちんと評価されるように主張し、認められる必要があります。そのためにも、上司との1on1ミーティング、同僚や人事とのコミュニケーションはますます重要になるでしょう。

筆者は、賃金、スキルアップだけでなく、ウェルビーイングも考慮するべきと書かれています。ウェルビーイングの観点からも階段を上りつづけるかどうかも含め長期的なキャリアプランも考えながら副業を選択した方が良いのでしょう。

いろいろ書きましたが、副業で個人のスキルも幸福度もあがり、より良い社会になっていくヒントが詰まった本書の価値は大きかったです。

ますます副業が広がる中、さらに研究や現場での実践が進み、企業にとっても働く人にとっても、より良い副業のあり方、働き方が見つかっていくことを期待していますし、少しでもそのお役に立てるよう頑張りたいです。


(宣伝)
『マンガでわかる!チームが強くなるためのOKR』など、OKRお役立ち資料が当社ホームページで無料ダウンロードできます。ご興味ある方はぜひお申し込みください!

ダウンロードバナー


この記事が参加している募集