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【寄稿】「伝統」を解体する際に/小田原のどか(仕事文脈vol.23)

「伝統」と聞くと、ひるんでしまう。往々にして、変化への希求を抑圧するために用いられるように思われるからだ。「日本人の伝統」「伝統的家族観」と言われるときには、「日本人」なる区分がいかなる暴力とともにあったか、婚姻制度が性差別の温床としての天皇制の問題に直接的につながっていることなどを想起して、考え込んでしまう。

 私は東京を拠点に、彫刻家・評論家として活動しながら、現代美術に携わるアーティストによる労働組合「アーティスツ・ユニオン」や、美術家、映画監督、演劇指導者、役者など様々な表現の現場に関わるプレイヤーによって構成された「表現の現場調査団」の活動にも関わっている。一見、自由で制約がないように思われる表現の現場は、つくられた「伝統」の宝庫でもある。

 2022年8月、表現の現場調査団は「表現の現場ジェンダーバランス白書2022」をウェブサイトで無料公開した。きっかけは、表現の現場で生じるハラスメントの実態を調査した「表現の現場ハラスメント白書2021」だった。1,449名のアンケートでは、「(何らかの)ハラスメントを受けた経験がある」は1,195名、「身体を触られた」が503名、「望まない性行為を強要された」との経験が129名であった。極めて深刻なハラスメントが、現在進行形で起きている。ハラスメントの実態調査を経て、こうしたハラスメントが横行する構造を調べる必要があるとの判断から、ジェンダーバランス調査が始まった。

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