見出し画像

【イ・ラン×いがらしみきお 往復書簡・登場作品紹介4】『パリ、テキサス』『オアシス』『ふつうのきもち』

韓国のアーティスト イ・ランさんと『ぼのぼの』の漫画家いがらしみきおさんによる往復書簡『何卒よろしくお願いいたします』。お二人の手紙に登場するさまざまな映画や本をご紹介します!

***

✉️いがらしさん → ランさん

映画『はちどり』をめぐる手紙の返信を受け、いがらしさんは「ふつうとは何か」というテーマで手紙を書き出します。そこで登場するのが、いがらしさんが描いたこの漫画。

『ふつうのきもち』
(いがらしみきお、双葉社、2020年)

2年ぐらい前から、小学生の男の子を主人公にした『ふつうのきもち』という漫画を描いていたんですね。この前『はちどり』の話をしていて気がついたんですが、「これってオレの『はちどり』じゃないか」と思いました。ウソつけって言われるかもしれないけど、主人公の少年に託して、自分の少年時代を描いたというか、少年の心象風景を描こうと思ってはじめた漫画なんですが、描いていて一番苦しかった。

いがらしさんがこの漫画を描いたのは、「ふつう」を描けない漫画家だと周りから思われていたし、自分自身でもそう思ってきたからだそう。とはいえ「元々が極端に走りがちな作風だった」ため、自制しながら描き進めるのは無謀だったかもしれないと本作を振り返ります。

そして話題は、ランさんの大学の講師でもある映画監督のイ・チャンドンへ。ランさんと同様にイ・チャンドン映画の大ファンだといういがらしさんは、手紙の中でこの映画を取り上げます。

『オアシス』
(イ・チャンドン、2002年、韓国)

イ・チャンドン監督の映画は全部好きですが、一番好きなところは、韓国の風景の撮り方です。日本人の私から見ても、他の韓国映画とはちがう詩情がある。イ・チャンドンの映画を観てから、韓国に行ってみたいと思ったし、映画って物語以前に風景ですよね。どうやってもその国の風景が映るし。

この映画を最初に観たとき、いがらしさんは「映画を志した人の作り方ではないような気がした」といいます。後から調べると、イ・チャンドンは「文学」それから「詩」の人だということが分かって腑に落ちたそう。

さらに、いがらしさんはこの映画を観たときにも「映画の舞台に行ってみたい」と思ったと振り返ります。

『パリ・テキサス』
(ヴィム・ヴェンダース、1984年、ドイツ)

(この映画を)観たあと、猛烈にアメリカに行きたくなったのを憶えています。結局、行かなかったけど。私はメキシコも好きなんですが、行ったことがない。それで今年、ある人からメキシコに誘われてたんですが、コロナのこともあって、結局行かないことになりそうです。

いがらしさんは最近、「行きたいところはあるんだけど行かないヤツ」である自分のことを、漫画も同様に「頭で考えて、手で描いてるだけのヤツ」なのかもしれないと自己嫌悪に陥っていると語ります。

まさか、この歳になって、自分の生き方で悩むことになるとは思ってもいませんでした。

30歳以上も歳が離れているランさんへの手紙に、自身が悩んでいることを隠すことなく綴るいがらしさん。この本が多くの読者の共感を生んでいるのは、お二人の格好つけない素直な言葉のゆえんなのかもしれません。

そして手紙の話題は、コロナによって大きな影響を受けたおカネの話へと続きます。気になる方はぜひ書籍を手に取ってみてくださいね!

(椋本)

お読みいただきありがとうございます。サポートいただけましたら、記事制作やライターさんへのお礼に使わせていただきます!