アキレス腱炎に対する治療戦略【第1部】
こんにちは、だいじろう(@idoco_daijiro)です。
今回から3部作で「アキレス腱炎に対する治療戦略」について解説していきます。
後述もしますが、アキレス腱炎は難治性に移行するとアキレス腱断裂を引き起こすリスクもある疾患です。
早期に適切な介入をして、難治性に移行させないことが重要となります。
本noteがその一助となれば幸いです。
※今回3部作に分けたのですが、それでも相当なボリュームになってしまいましたw
▶ アキレス腱炎とは?
まずはアキレス腱炎の基本的な病態について解説していきたいと思います
—病態の定義
その名の通り、アキレス腱(踵骨付着部や実質部)が炎症を起こした状態で、運動時痛を主症状とする疾患です。
臨床所見として圧痛がみられ、その疼痛部位によって内側型・中央型・外側型とに分けられます。
—疼痛発生メカニズム
「下腿三頭筋の過剰収縮やそれに伴う柔軟性の低下」「足部の可動性低下」「後足部のマルアライメントもしくは動的不安定性」によってアキレス腱に対する伸張ストレスが増加している方が陸上長距離や剣道、体操競技など、繰り返しの底屈運動を強いられた場合に発生することが考えられています。
中央型では「下腿三頭筋の過剰収縮やそれに伴う柔軟性の低下」「足部の可動性低下」が主な要因となり、内側型や外側型ではこれらに加えて「後足部のマルアライメントもしくは動的不安定性」も要因となります。
▶ アキレス腱炎に対する治療法
アキレス腱炎に対する基本的な治療法について解説していきます。
ー薬物療法
主に消炎鎮痛の目的で、内服薬としてNSAID(非ステロイド系抗炎症薬)や外用薬として湿布などが処方されます。
—リハビリテーション
保存療法としてリハビリテーションを行います。リハビリテーションでは炎症に対する管理を行いつつ、前述した機能不全への対応と、それらの機能不全を引き起こしている要因に対して介入していきます。
前述した機能不全を引き起こしている主な要因として「足部機能の低下」と「体幹・股関節機能の低下」が挙げられます。
—手術療法
手術療法として、アキレス腱の炎症を起こしている部分を切除する手術が選択されるそうですが、切除に伴う疼痛や機能不全も残存してしまい、予後も良好とは言えないため、保存療法が第1選択となっています。
▶ アキレス腱炎に対する評価
アキレス腱炎に対して私が臨床で実施している評価を流れに沿ってご紹介します。
※本noteは第1部として足部に関する評価をご紹介し、体幹・股関節機能の評価については第2部でご紹介していきます。
—問診
まずは問診にて疼痛発生動作やその程度について聴取していきます。
アキレス腱に限らずスポーツ障害では、どういった動作で疼痛が出るのかを聴取し、その動作を分析することが大切です。
しかし、運動後に痛みが出現したり、長時間運動していると痛みが出現したりするケースでは、評価時の動作が問題になるとは限りません。
長時間運動しているうちに疲労によって動作アライメントが変わってしまうこともあるからです。
そういった動作はスポーツ現場で実際に練習や試合を確認しないと判断できません。
その場合は、圧痛所見と動作アライメントに関連性があるかどうかを考えていきます。
そのため、どういった動作で痛みが出るのかだけでなく、痛みの程度が以下のいずれかを聴取することが大切です。
軽度:運動した後に痛みが出る
中等度:運動していると痛みが出る
重度;運動前から痛い
※運動するとだんだんと痛みが軽減するケースもあるので要注意。
—圧痛評価
続いて、圧痛評価にて「内側型」「中央型」「外側型」かを鑑別していきます。
アキレス腱の踵骨付着部や実質部の圧痛をみていきますが、その圧痛が内側にあるか、中央にあるか、外側にあるかを評価していきます。
「内側型」「中央型」「外側型」によって疼痛発生メカニズムがある程度特定されるので、丁寧に評価していきます。
「中央型」の場合は「下腿三頭筋の過剰収縮やそれに伴う柔軟性の低下」「足部の可動性低下」といった矢状面における問題が、「内側型」「外側型」の場合はそれに加えて「後足部のマルアライメントもしくは動的不安定性」といった前額面・水平面における問題が影響していきます。
本noteでは「後足部のマルアライメントもしくは動的不安定性」に関する機能不全の評価方法について解説していきます。
—疼痛誘発動作の確認・分析
問診にて疼痛誘発動作が確認できたら、その動作、もしくはそれに近しい動作を分析していきます。
ランニング動作や剣道の蹴り出し動作、体操のジャンプ動作などが疼痛誘発動作として訴えの多い動作です。
それらの動作分析を行い、動的アライメントを評価していきます。
アキレス腱炎では下腿三頭筋の収縮が強いられる状態でさらに伸張力が加わることでメカニカルストレスが増大します。
「中央型」では踵骨は背屈傾向、「内側型」では後足部は回内傾向、「外側型」では後足部は回外傾向にあるのが特徴的です。
圧痛評価の結果と照らし合わせて動的アライメントと関連性があるかどうかを評価していきます。
—カーフレイズテスト
疼痛誘発動作の確認・分析では実際の競技動作に近しい動作での評価を行いました。
そのなかでざっくりとした動作時のマルアライメントを評価したのですが、カーフレイズテストでは同じ条件下で前足部に荷重した際の後足部の動的アライメントを評価していきます。
①足幅は股関節幅(=ASIS幅)とする
②つま先の向き(第2列の向き)を正面に向ける
③最大底屈位保持を指示する
④軽度底屈位保持を指示する
⑤③・④の肢位でのアライメントを評価する
足幅や足の向きの設定は任意とされることが多いかと思いますが、正確性や再現性を考慮し、ここでは足幅は股関節幅(ASIS幅)、つま先の向き(第2列の向き)は正面と規定します。
最大底屈位での評価が一般的かと思いますが、日常生活やスポーツ動作で最大底屈位となることはそれほど多くなく、軽度底屈位での機能の方がより病態を反映することも少なくありません。
実際に評価していくと、最大底屈位では問題ないけど、軽度底屈位では不安定性を呈するケースも多いので、軽度底屈位でも評価をしていきます。
最大底屈位・軽度底屈位のそれぞれのアライメント評価を行っていきます。
前面からみたときには、『荷重位置』と『趾噛みの状態』をチェックしていきます。
まずは『荷重位置』です。
正常であれば第1列と第2列の間のMP関節部分に主に荷重されています。
不安定性を有する症例では小趾側に荷重したり、母趾球の内側に荷重したりすることがあります。
母趾球に適切に荷重するためには長腓骨筋が適切に機能しておくことが大切です。
つまり母趾球への荷重が適切に行えていない場合は長腓骨筋の機能不全が考えられます。
また『趾噛みの状態』もチェックしていきます。
足関節の底屈筋には、腓腹筋、ヒラメ筋、長母趾屈筋、長趾屈筋、長腓骨筋、短腓骨筋、後脛骨筋などがあります。
主動作筋は腓腹筋とヒラメ筋なのですが、それらが十分に機能していない場合は長母趾屈筋や長趾屈筋が過剰に働かざるを得なくなります。
その結果、趾噛みが生じてきます。
腓腹筋やヒラメ筋が十分に機能しない原因として最も多いのはクロスサポートメカニズムの破綻です。
側面からは『長・短腓骨筋のディンプルサイン』と『足関節底屈角度』をチェックしていきます。
『長・短腓骨筋のディンプルサイン』では、下腿外側部に位置する長腓骨筋と短腓骨筋の収縮によるえくぼの有無(ディンプルサイン)をチェックします。
長腓骨筋の収縮では下腿外側近位1/2部分に、短腓骨筋の収縮では下腿外側遠位1/2部分にえくぼができます。
このディンプルサインにより長・短腓骨筋が機能しているかどうかの予測ができるようになります。
次に『足関節底屈角度』をチェックしていきます。
実際に可動域を計測できると一番良いのですが、なかなか計測できないかと思います。
目測になるかと思いますが、非荷重位での足関節底屈角度との差をみていきます。
非荷重位での足関節底屈角度よりもカーフレイズ時の底屈角度が小さい場合は、底屈筋力の発揮が十分に行えていないと判断できますので、その要因を探っていくことになります。
後面からは『腓腹筋の筋腹』『後足部アライメント』をチェックしていきます。
『腓腹筋の筋腹』では内側頭と外側頭の収縮具合を確認します。
とくに足関節の不安定性を呈するケースでは外側頭の収縮が十分にみられないことも多いです。
また『後足部アライメント』では最大底屈位ですので、軽度回外位にあることが正常となります。
前面からみたときの『荷重位置』と関連してきますが、外側に荷重が偏位している場合は後足部は過度な回外位を呈しますし、母趾球の内側部に荷重が偏位している場合は後足部は回内位を呈します。
これは後足部の不安定性の指標となりますので、前述したクロスサポートメカニズムが大きく関与していきます。
—振り向きテスト/逆振り向きテスト
振り向きテストや逆振り向きテストでは後足部の不安定性の有無を評価していきます。
荷重時の運動連鎖を評価します。
早期に足部内側の浮きがみられ、足部・足関節外側の機能低下があると判断された場合、回旋の動きを股関節や胸郭で制動しようとするため、それらの可動性・柔軟性の低下が生じます。
内側縦アーチの機能を評価することで、膝や股関節、腰部・骨盤帯など、上位関節への影響をみていきます。
—筋機能テスト(PL・PB/TP)
後足部の安定性にはクロスサポートメカニズムが大きく関与してきます。
クロスサポートメカニズムが機能するためには長・短腓骨筋(PL・PB)と後脛骨筋(TP)とが適切に機能している必要があります。
ここでは筋機能テストとして「PL・PB」と「TP」をそれぞれ評価していきます。
長腓骨筋は母趾球への荷重を促したり、足関節の内反制動に大きく関与したりする重要な筋です。
その長腓骨筋が正常に働くためには短腓骨筋が外側アーチの剛性を高めておく必要があります。
つまり長腓骨筋の機能低下は長腓骨筋自体の機能低下だけでなく、短腓骨筋の機能低下に伴って起こる可能性があるということです。
ですので、臨床では腓骨筋群の評価は短腓骨筋テストと長腓骨筋テストとに分けて行います。
足関節底屈位で短腓骨筋の走行が直列化する肢位で評価します。
短腓骨筋付着部(第5中足骨底)に対して牽引+内転の力を加え、ブレイクテストに準して判断します。
下腿外側遠位1/2のディンプルサイン(収縮)も確認します。
足関節底屈位で短腓骨筋の走行が直列化する肢位で評価します。
短腓骨筋付着部(第5中足骨底)に対して牽引・内転の力を加え、同時に母趾球に対して伸展・回外の力を加えます。
ブレイクテストに準じて判断し、下腿外側1/2のティンプルサイン(収縮)も確認します。
こちらの記事も参考にしてください。
後脛骨筋の筋機能を評価していきます。
足関節を底屈・内反位にし、後脛骨筋の走行が直線化する肢位にします。
舟状骨近位部(後脛骨筋付着部)に手をあてがい、牽引+外反方向に抵抗をかけます。
ブレイクテストの判断基準に準じて筋機能を評価していきます。
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今回は第1部として「アキレス腱炎の基本的な病態」と、「足部・足関節の機能評価」について解説していきました。
第2部では「下腿三頭筋の過剰収縮を引き起こすメカニズム」と「体幹・股関節の機能評価」について解説していき、第3部では「アキレス腱炎に対する機能的アプローチ」について解説していきます。
長編になりますが、臨床に役立つ情報をお届けしていきますので、ぜひ楽しみにしておいてください!
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以下では「臨床でよくみられる足部痛とその捉え方」について詳しく解説していきます。
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