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『おばあちゃんは猫で(以下略)』

世界のことわざを集めた紀行である。
素朴で可愛らしい雰囲気のイラストが魅力的で、世界各地の文字も美しく書かれている。
短くテンポのいい文章は読みやすいだけでなく、トリビア的なネタや豆知識、歴史、文化に溢れていて楽しい。


日本語のことわざ「鬼に金棒」は、朝鮮語では「虎に翼」になる。

日本でいう「鬼の居ぬ間に洗濯」は、
世界に目を転じると猫とネズミが活躍することが多いらしい。
英語やモンゴル語では「猫がいないとネズミが騒ぐ」、
フランス語やイタリア語では「猫がいないとネズミが踊る」、
(ちょっと似てるのに、違いにお国柄が出ているのが愉快)
台湾では「家に猫がいないと、ネズミが足を組む」、
(足を組むのはくつろいでいるってことなのかな?)
ネパールでは「猫がヴァーラーナシーに行って、ネズミが悪さをする」になる。
「ヴァーラーナシー」はヒンドゥー教の聖地だそうだ。
きっとそれなりの長旅なのだろう。

似ているものがある一方で、ちょっと考える必要があるものもある。
タイ語の「表面に振りかけたパクチー」は「中身はともかく、表面だけ取り繕う」、
エチオピアの「ヒョウの尻尾を掴むな。掴んだら手放すな」は「危険には近づくな。でもいざとなったら最後まで粘れ」という意味だという。

とはいえ、どちらも、言われると「確かに」と納得できる。
「これから友達が来ちゃうから表面に振りかけたパクチーでいいから、片付けて!」みたいな使い方をするんだろうな、と予想もできる。
ヒョウの尻尾を掴んだら、そりゃ、最後まで粘らないと…な。
命に関わるもんね。

また、説明されてもピンとこなくて、寧ろ疑問が増えるものがあるのも興味深い。
特にフィンランド語の、
『「やり方はいくらでもある」と、おばあちゃんは猫でテーブルを拭きながら言った』
…本のタイトルにもなっているが、まるごと全部でひとつのことわざらしい。
「意外なところに道がある、解決策はひとつではない」という意味なのだそうだ。
いや、意味は納得できなくもない…けど、どういう場面で、どう使うのよ…?
絵のおばあちゃんの頼りがいのあるドヤ顔と、堂々とした佇まい、拭かれる猫のまんざらでもない表情といい、インパクトはやたらあるけど、考えるほどに疑問が尽きない。


文字のない文化圏でも、ことわざはあるのも興味深いし、気になることわざ、単語のある国にはどんな人がいるのか、どんな空気なのかぜひ行ってみたくなる。
先の「おばあちゃんは猫で(以下略)」のフィンランドには「外出の予定がなく、自宅でひとり、下着姿でお酒を飲んでいる時の気持ち」を表す「カルサリカンニ」という単語(単語!)があるらしい。
話しが合う気しかしないではないか。

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