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壊れた人 役所広司

TBSのドラマ「VIVANT」が完結した。

わたしは連続ドラマを観続ける耐性がないので、テレビドラマというのを20年近く見なくなっていたが、本当に久々に全話をほぼリアルタイムで視聴した。

このドラマにここまでの重厚感をもたらしたのは、物語の中盤以降の最重要人物、ノゴーン・ベキを演じた役所広司ではないだろうか。




わたしは役所広司のファンである。

とりわけ、90~00年代の黒沢清監督作品に登場した役所広司は、怪演としかいいようがないパフォーマンスを見せつけている。この時期に名だたる映画賞を受賞しまくっているのも納得できすぎる。

少し前で言えば、ドラマ「半沢直樹」や「クリーピー」(これも黒沢清監督作品だ)に登場した香川照之のような感じだろうか。とにかくすさまじい存在感である。


わたしの好きな作品での役所広司は、冷静で常識人に見えながらどこか狂っている「壊れた人」なのである。


「CURE」では、連続殺人犯を追い詰める刑事・高部を演じている。
仕事では常に冷静、家庭では病んだ妻を大切にしているように見えながら、じつは彼は、全てを見放している。だから妻が死んでも、親友が事件に巻き込まれても、何の驚きも見せない。あらゆる事件に直面しているように見えて、じつは彼自身は何も心を動かされない。
だからこそ、彼だけが殺人犯の洗脳工作を唯一はねのけることができ、殺人犯を始末した後には、自身がその能力を受け継ぎ洗脳者となって世界を揺るがす存在になれる。

「CURE」の役所広司


「降霊」は、妻の霊能力をきっかけにある事件に巻き込まれてしまう、夫役を演じている。
だんだんと壊れていく妻に歯止めをかけようとする夫のように見えて、じつは彼自身が一番深く、狂ってしまっている。
ブチギレた役所広司が少女の幽霊をバットで物理的にボコるシーンは、世界のホラー映画史に残る屈指の名シーンだ。

「降霊」の役所広司


比較的最近の映画では、中島哲也監督作品「渇き。」で、サイコパスな娘に翻弄される元・刑事役で主役を演じた。
これは映画のテイストもあいまって、どちらかといえばアッパー目なバイオレンスだったが、それでも「壊れた人」役所広司の健在ぶりに、わたしは胸が熱くなった。

「渇き。」の役所広司


「VIVANT」が傑出した作品であることは論を俟たないが、役所広司ファンとして一つだけ思ったのは「もっと壊れた役所広司を観たかった」である。

いや、これまで数々の「壊れた人」を演じてきた役所広司だからこそ、抑制のきいた演技の奥に潜む狂気の片鱗が、ノゴーン・ベキの重厚感をもたらしたのかもしれない。

いやしかし、最後はもっと派手に壊れてもよかったんじゃないの・・・。


とにもかくにも、最後まで役所広司の存在感から目が離せない3か月間だった。めっちゃ面白かったです「VIVANT」。

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