ワクチン接種の「メリット」は相対的

ワクチンをうつか打たないかは自己判断と言われます。メリットがデメリットを上回ると言われますが、どうすれば比較できるのでしょうか。この場合は、メリットとデメリットに分けて考えることですね。今回は、メリット・デメリットは、絶対的でないことについて考えてみます。


まずメリット・デメリットとは何か。例えば、ワクチンの副反応はデメリット。ワクチンで重症化リスクを下げられればメリット。感染リスク(暴露の可能性)を下げるのもメリット。などなど、実は4+1種類に分類してみるとわかりやすいでしょう。

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ここでは、メリット1デメリット1は、感染時の影響。メリット2デメリット2は、普段の行動による感染リスクの増減。そして感染する、というリスクはデメリット0としました。

ここではメリットを右向きの矢印、デメリットを左向きの矢印にしています。デメリットを減らせればメリットであり、メリットが減るならデメリットになる関係ですね。

例えば、ウイルス感染して発症したり重症化するのはデメリット。ワクチン接種でそれを減らせればメリット。また、感染リスクを減らす感染回避行動はメリットになります。

このように分解しておくと、考えやすいと思います。


感染:メリット1&デメリット1に関して
図の左側、感染してしまった時に何が起きるか。最悪は死亡、それ以外に重症化や後遺症があるでしょう。ワクチン接種でこれらが軽減できれば右向き矢印、つまりメリットになります。一方、ワクチン接種で副反応が出たら、これは左向でデメリット。
ここで考えておきたいのは、感染および副反応のリスクの大きさは、その人の立場、居住地、時期も影響する点です。感染した場合の家族への影響、地域が医療崩壊状態なのか、などでもデメリット(リスク)は異なる訳です。副反応のリスクは、基礎疾患の有無だけでなく、その人が普段やっていること、やるべきことがどの程度影響されるかでも変わります。

普段の行動:メリット2&デメリット2に関して
図の右側、普段の行動、つまり暴露の可能性も、メリット・デメリットに関係します。人と全く接触しないなら、そもそも感染リスクはゼロでしょう。一方、医療従事者や不特定多数と密に接する人であれば、暴露の可能性が大きいので、感染のリスクは比較的高いと言えるでしょう。
つまり感染リスクが高い人の方にとってのワクチンのメリットは大きく、デメリットを上回る可能性があります。一方、感染リスクがゼロの人がいたなら、メリットは小さくなり、ほとんどデメリットだけになってしまいます。そして多くの人はこの間になるでしょう。できるだけ人との接触を極力避け、正しくマスク・手洗いを徹底しているのなら、それがメリット2を大きくする行動であり、すでにそれだけで感染リスクを低減していることになります。相対的に、ワクチン接種のメリットは小さくなります。

 感染リスクが高い人の方が、相対的にワクチン接種のメリットが大きい
 感染リスクが低い人は、相対的にワクチン接種のメリットは小さい

なお、これは、実はワクチンの有効性の定義の理解からも結論できます。有効性の数値が同じでも、感染リスクが高い時には感染しなくなる人数が多く、感染リスクが低い時は、感染しなくなる人数は少なくなります。


「ワクチンの有効性」は、ある定義に基づき計算された1つの数値です。しかし、各人にとってのワクチン接種のメリットは相対的です。基礎疾患の影響が指摘されていますが、感染リスクの大きさにも大きく影響されます。それを踏まえ、各人、自分のメリットとデメリットのどちらが大きいかを判断したいものです。

  「ワクチンの有効性」はある定義に基づき計算された1つの数値
  「ワクチン接種のメリット」は、その人次第


雑談:事前確率と陽性的中率で述べたように、検査の感度と特異度の数値は客観な数値であるけれども、事前確率によって陽性的中率は変わってきます。このワクチンの有効性の議論も、その人それぞれの感染リスク(確率)によって違ってくる、という意味で似ていますね。