レコメンドの怖さを知らない恐ろしさ

レコメンドは便利です。知りたいこと、関連していることをどんどん提示してくれるからです。でもちょっと待て。便利だからこそ怖い。その結果、起きてしまうことを理解していないと大変なことになる。それは、一人ひとりの問題だけではありません。社会全体の分断を招き、社会を崩壊させることことにさえつながってしまう可能性もあるのです。陰謀論へまっしぐらです。2023年初投稿の今回は、このレコメンドについて書いてみます。

(1)レコメンドは何処で使われているか
(2)レコメンドはどうやって行われるのか
(3)レコメンドはなぜ便利なのか
(4)レコメンドがもたらす個人への影響
(5)レコメンドの先に見えること

それでは1つづつ確認していきます。

(1)レコメンドは何処で使われているか
 リアルなお店でどの商品を選ぼうか迷っていたら、これがお似合いですよ、おススメですよと店員さんがアドバイスしてくれます。今回取り上げるレコメンドは、これをネット上で実現されたものをさします。AIと言われる技術の発展と共に、とても広く使われる技術になりました。
 一番わかりやすいのは、Amazon で買い物をすると出てくるおすすめ商品でしょう。これを買った人は、この商品も一緒に買っていますよ、というあれです。確かに一緒に買うと便利なもの、本ならば同じ系統の本をレコメンドしてくれると、買い忘れが減り、少しその分野に関する視野が広がった気がしてきます。Amazon側からしても、受け入れられるレコメンドを提示すれば商品の売り上げ拡大につながるので、頑張りますね。
 それ以外にも、レコメンドはとても広く使われています。YouTubeもわかりやすい例でしょう。ある動画を見ると、その後に出てくるリストは比較的似ているもの、関係するものが続きます。
 ニュースのまとめサイトなどでもレコメンドは使われています。ニュースの閲覧記録に基づいて関連したニュースを続けて表示した方が閲覧回数が増えると分析されているのでしょう。TwitterやFacebookの提示順も同様です。どちらも提示順は提示側が、投稿順は無視して何らかのアルゴリズム(=レコメンドの順番)で決めています。(どちらも投稿順に提示するよう設定を変更することができます。)noteの「今日の注目記事」も、レコメンドと考えて良いでしょう。
 「レコメンド」とは普通は思わなくても、レコメンドに近いことが行われている場合もあります。最も重要なのは、検索機能です。検索で使うのは数個のキーワードです。今やそれらのキーワードが含まれるページは膨大にありますが、それに順番を付けなければ検索になりません。つまり検索エンジンの提供側が、何らかの評価基準に従ってランク付けを行い、順番を作り出しているわけです。検索結果の並びは、検索エンジン側のレコメンドと言えるでしょう。

(2)レコメンドはどうやって行われるのか
 レコメンドは予測です。ビッグデータに基づく予測技術が使われています。店頭でのおすすめと同様、お客の情報と、過去の販売実績、そしてトレンドから、これが売れるだろうという予測を行います。これを「レコメンド」という形で提示すると、それを買ってくれる(読んでくれる)確率が高まる、という訳です。
 過去多くの人の購買データの傾向と、今この人の状況からこれを買う傾向高いのではないか、と予測します。ここから先は想像ですが、顧客ごとに商品それぞれに点数をつける。閲覧記録、購買記録からスコア付けをする。さらにトレンドを少し加える。それによって今見ている分野のものので何を買う可能性が高いかを推測する。こんなことをしているはずです。
 それにはビッグデータとAI技術が欠かせません。AIはデータが大量に蓄積されてきたこと、そして実際にレコメンドを受けた側がどのような行動を取ったからもデータに加えることで、どんどん精度があがっています。これによりレコメンドに従うと自分の欲しいものが得られる、という仕組みができてきました。

(3)レコメンドはなぜ便利なのか
 上記のとおり、レコメンドに従うと自分の欲しいものが得られる、という仕組みができてきました。自分では気が付かなかった関連情報を得ることもできます。
 Amazon ではレコメンドによって、買い忘れや接続できないケーブルを買ってしまうリスクが減るでしょう。トレンドや意見を知るという意味でも有用です。参考になりそうな別の人の考えを簡単に知ることができます。それによって失敗が減り、本来見落としていたかも知れない参考意見を知り、コミュニティーにも参加できるかも知れません。
 外に出かけずとも、パソコンやスマホさえあれば、情報が得られる。欲しいものが買える。満足を与えてくれる便利で重要なツールだと言えます。

(4)レコメンドがもたらす個人への影響
 レコメンドは便利です。しかし便利だからこそ注意が必要です。その最たるものが、エコーチェンバーでしょう。
 Amazon で本を買ってばかりいると、分野が偏ることを実感した人も多いと思います。リアルな書店では、探していなかった本も通路で目に入る。すぐ隣の棚に、ちょっと違うものがある。これによって、思ってもいなかった視点があることに気が付くわけです。
 ニュースも、ネットで見るのとリアル紙面で見るのでは大きな違いがあります。新聞紙面では、その新聞社が一番重視することが1面右上に記載されます。次が左上。このように、紙面では主張の順番を知ることができます。しかしネットでは、たとえ各新聞社のHPを見たとしても、紙面ほどは新聞社の重要度を感じることはできません。
 そしてYahooニュースなどのサイトはさらに影響が多いでしょう。各メディアの重要度などは完全に無視され、情報だけが発信側の都合で決まっているからです。そしてコメント欄にも注意。コメントを行った人の素性がわかる場合は、その責任がはっきりしています。しかし匿名の発信者はどうでしょう。責任なく、根拠のないただの思い込みでも発信できてしまう。場合によっては意図的に嘘も書けます。これがヤフコメに溢れています(あふれていました)。
 SNSでも、同様の問題がおきます。ひろゆきが所有する4chan(昔は2チャンネル)は、自由であるがために言いたい放題。嘘、誤解でも、受けが良ければ何でも良い。こんな世界も形作られました。
 このような世界では、多くの「いいね」が付いたりリツイートが多い情報が、まるで正しいかのように錯覚されていきます。それが実際の事件に発展してしまう事例が、最近はとても多くなっています。

(5)レコメンドの先に見えること
 レコメンドの先には、いくつかの現象がおきています。例えば多くの「いいね」が付いた情報が正しい、という錯覚を持つ人が増えます。自分が得た情報はまわりの人にも受け入れられているから正しいのだ、他の情報は嘘ばかりだ、と信じてやまない集団を作り出してしまいます。
 有名な例では、トランプに先導された議事堂襲撃がありますが、それだけではありません。ワクチン陰謀論も全く同じ構造です。(念のため、ワクチン陰謀論を否定しても、ワクチンが安全だという主張をしている訳ではありません。)コロナ禍、そしてロシアのウクライナへの戦争などをきっかけに、情報を知りたいという心理の隙をついて、陰謀論まで行かずとも、様々な偽情報・誤情報がどんどんと拡散しています。
 心理学では、これはずっと前から指摘されています。フィルターバブル、エコーチェンバーと呼ばれるものです。確証バイアス(人は見たい情報だけを見るという特性)と重なることで、社会の分断を招き、さらに偽情報が拡散されていく。
 

対策はあるのか
 対策はどうすれば良いのか。手元にある本では、公的機関や専門機関の情報を参考にしようという記載があります。これはある意味正しいでしょう。このnoteでも同じような注意が喚起されています。しかし、残念ながら今の世の中は公的機関の情報にも多くの間違い・改竄があります。(だからこそDS=ディープステイトを信じてしまう人も増えてしまうのですが。)

個人的に考える対策は以下のとおりです。
(a) 私たちが得る情報のほとんどは、レコメンドの結果であることを知る
(b) 情報は誰が作り、誰が解釈し、どのように伝わってきたのかを考える
(c) 自分自身に確証バイアスがないかを常に意識する
(d) 用語を正しく理解する
(e) 数学・統計を学ぶ
(f) わからない情報があることも認める
その上で、できるだけ広く情報を見て、自分が納得できる情報を選ぶ。

「(e) 数学・統計を学ぶ」は、私がデータを大事にしたいと思っていることの現れです。統計を学べば、情報とはどのように集められ、作られるのか理解できます(b)。私たちの所に来た情報が一次情報なのか二次情報なのかも考えましょう。そして統計データならば、正誤が断定できない情報よりも「正しい解釈」であるか否かをきちんと判断できます。これによって用語を正しく理解できる(d)、という意味もわかります(「傾向は認められるが有意性は確認できない」の意味)。自分の確証バイアスに気が付くこともできるでしょう(c)。そして時には、今現在ではまだわからないことがある、断言できないこともあることを受け入れる。理解を保留する。特に将来予測など誰にもできないのだから、仮説もなく予測していたらそれは嘘。こんな風に考えています。

なお、数学・統計を学ぶというのは、数学が苦手だと思ってきた人にはハードルが高いかも知れません。それでも、例えば算数・数学の割り算と集合(義務教育で学ぶ範囲)だけでも、見抜けることはたくさんあります(過去記事)。統計でも標本調査とは何かを知るだけで、だまされにくくなります。少しづつ数学・統計で踏み込む範囲を広げれば、理解の幅もより広まります。(d)の用語を正しく理解するとは、そいうい意味も含んでいます。


まとめ:
「レコメンド」という現代では当たり前に使われる便利な技術が、一人ひとりの考え方に与える影響を考えました。特に、レコメンドを受けているのだという意識を持たずにレコメンドされた情報に接し続けることで、様々な分断が起きている。そんな話題と私の考えをまとめてみました。