楽天市場から退店したら、社員が活き活きと働きだした話

こんにちは。ワシオ株式会社の三代目、鷲尾 岳(たかし)です。
実は今年の5月に、はじめてnoteを書きました。
自分なりにたくさん考えて取り組んだ結果、1.5万字を越えるボリュームまでふくらみ、これは超大作に仕上がったぞと思っていました。
ですが、これは流石に長すぎてあんまり読んでもらえないかもなぁ、、と思いつつアップロードしたところ、大好きな友人たちや尊敬する方々が反応してくださり、小さな輪から始まった発信が、どんどん大きく広がっていきました。その様子を眺め、どこか現実的な感じがせずフワフワとしていたことを覚えています。

そして、noteのコメント欄や各種SNSなど、いろんなところで沢山の方から肯定的なコメントをいただき、大きな大きなエネルギーをいただきました。
読んでくださったみなさんへ、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
興味をもって読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。

さて、今回はあの時の決断が会社に与えた良い影響について、その後日談を少しお伝えできたらと思って筆を取りました。
ご興味もっていただける方に、読んでもらえると嬉しいです。


【前回の記事_概要】

【ワシオ株式会社】
1955年に創業。1970年に防寒肌着の自社ブランド「もちはだ」の製造・販売をスタート。他社では真似できない特許技術を用いてつくる「ワシオ式起毛」が特徴で、防寒において一般的な生地とは一線を隔す高い機能性を誇る。
その分、製造には手間がかかり、リードタイムは長く生産量も少ないため、原価が必然的に高くなり、日本製の肌着としては高級品の部類。
2001年に中国に工場をつくり、ビジネスモデルが少しずつ変化、製造&販売の商流ともに薄利多売化していき利益が残らない体質へと変化、大量の負債が積み重なり2016年には倒産寸前の状態に陥る。

【時系列】
・2016年、ワシオ株式会社の窮境を聞きつけ、跡継ぎの岳が入社する
・2017年には単年度黒字化、2019年まで順調に再生していく
・2020年、コロナ禍&暖冬でまた業績悪化、また倒産の危機に陥る
・2022年にはまた黒字化できたが、2023-24年に記録的な暖冬が訪れ、また業績が悪化
・2024年1月、抜本的な経営改革のために岳が社長に就任する
・2024年2月、大掛かりな組織変更、4月には楽天市場からの退店を実行、いまに至る

【楽天市場を退店した理由】
大きく端折りますが、要点だけ押さえると、

「自分達の強みが活きない市場(楽天市場)が主戦場だったため、結果的に現場が疲弊し利益が残らない構造になっていたので、楽天市場を退店し、各自が価値を実感し力を発揮できるように組織を変えた」

といった感じです。


①【もちはだ卒業式】が開催中!

タイトルの【従業員が活き活きと働きだした】ひとつの結果がこちらの企画です。

ページはこちら

【卒業式】って聞くとなんのことか分からないと思いますが、一般的には【クリアランスセール】や【廃番セール】と言われる取り組みです。

楽天市場から退店するにあたって、その影響で増えすぎていた商品ラインナップを適正量にしよう!という話から始まり、自分達らしい届け方を模索した結果がこの卒業式です。

【売る!】ということを目的にしたら、分かりやすく”セール”と銘打てば良いのですが、意地でも”廃番”とか、”セール”とかの言葉を使いたくないという社員の声を尊重することにしました。
それは、ひとつひとつの商品には開発秘話があって、愛着があって、、、「売れないからやめる」みたいな判断はしたくないなぁという思いが社内共通の認識であったからです。

なので、実際にはお買い得だということを表に出すのではなく、それぞれの商品に対して卒業証書をひとつずつ作り、スタッフからの寄せ書きを集めたりと、商品への愛情が半端ない企画になりました。

ということで、せめて笑って明るく送り出したいよね、ということで【もちはだ卒業式】と題した企画が立ち上がったのです。
8月19日(月)までの期間、下記のような取り組みをしていますので、良かったら見ていってください。

今回は、この企画が立ち上がるに至った経緯から、お話ししていけたらと思います。

②売上じゃなく、価値に比重を置くための組織変更から始まった

今年の2月末、会社の方針発表として楽天市場からの退店と同時にスタッフの皆に伝えたのは、大掛かりな組織変更でした。

以前の組織図は、既に稼働している現場の動きを後から組織図にしただけで、経営者が意志を持ってデザインしたものではありませんでした。
なので、どの部署が何を担当しどんな責任を持つのかが明確に決められておらず、そこに存在する【人】のできることがベースでした。
その結果、極めて属人性が高く、説明がつきにくい上に、部署をまたいだ仕事がいくつも発生しており、ワシオの場合は、業務負荷が特定の個人に集中して大変だし休めない、といった悩みがいくつかの現場に蓄積していました。

実際にはこんな感じです。

○○部が、異なるレイヤー(階層)で存在しているのはおかしいし、通販部と営業部がそれぞれ独立して存在しているのもなんとなく違和感があります。

まぁ要するに、運営上の上下関係は表現できていますが、業務内容は表現できていないということです。

この組織をより良い形にまず再設計することが、自分が社長になって最初の大仕事だなと思い取り組みました。
その結果がこちらです。 ※1枚でつくったら細かくて見にくかったので、2枚に分けました

①価値提供部を展開したもの

②価値生産部を展開したもの

いま行っている業務の実態を現場に確認し、【業務】ベースで関係性を捉え直しました。
特定の個人に頼るのではなく、【チームと仕組み】の力で仕事を処理していくことを目指したのが、新しい組織図です。

行った変更をばっくり書くとこんな感じです。
①通販部と営業企画部を統合し、価値提供部とした
②製造部を価値生産部とした
③業務ベースで課を分けた
④1チームごとの人数を管理職1人あたり4人までにした

ここの意図を細かく書くと、またとても長くなってしまうので、最も悩み、最も重要だと思ったことについてだけ少し書かせてください。

それは、部署の名前です。

価値提供部とか、価値生産部ってなんやねん。」と思う方は一定数いらっしゃるかと思います。
それは至極まっとうな意見だと思いますし、僕もこんな名前の○○部っていうのを見たことありません。
でも「名は体を表す」という言葉もあるように、名前ってその存在を定義するのに非常に重要なものだと思うんです。
経営管理は別として、「営業、通販、製造」って価値を届けるための過程のアクションが名前になっていますよね。業務としてはそれでよいですが、何のために?という目的にはなり得ないよなと思いました。
なので、自分が属している組織は何を目的としていて、自分が引き受けているのはそのための業務なんだ、とあまり考えなくても分かるようにするためにこの形を選びました。

我々は、「製造&販売業」から「価値提供業」へと変わっていきたいという想いで、それを常に意識し、忘れないように部署名にしたということです。

また後述しますが、効果は実際に出ていると感じていて、スタッフみんなの思考の起点が、僕が望んでいた方向に変わってきているように思いますので、いまのところ狙い通りと言えそうです。

ちなみに、この新しい組織図もまだ発展途上の暫定的なものなので、おそらく今年中にもう一度手を加えると思います。

③企画・広報課の発足

組織の話について、お話したいことを全て書いていくとまた膨大な量になってしまうので、今回は全く新しく立ち上げた【企画・広報課】の活躍をピックアップしてお伝えしていきたいと思っています。

実はワシオにはこれまで、明確に広報の責任を負った部署がありませんでした。
業務が確立されておらず、そもそも担当が居ないというのは地方の製造業だとあるあるではないでしょうか。

ということで、イチから広報の仕事を学び、社内に実装しよう!というチャレンジが始まりました。
企画・広報課の課長には、通販部の主任として活躍してくれていたTさんに白羽の矢を立てたのですが、これまでは電話での顧客対応や物流を担ってくれていた彼女にはとんでもない無茶ぶりだったに違いない、、、ごめん、、、!

でも、外部の専門家たちの力を借りたりしながら、できるかぎり学ぶ機会を提供していくと、企画・広報課の彼女たちは、水を吸収するスポンジのようにどんどん知識やスキルを身につけていってくれました。

【REACHREACH】のセミナーに参加したり、

(MBSと博報堂が展開する、主にスタートアップ向けの発信力向上プログラム)
※詳しくはこちら

慣れない読書をしてくれたり、

(広報メンバーが勉強に使っている本たち)

そもそも論から考えたり。

(コンサルタントの先生と企画を練っている様子)

僕が個人的に何よりもすごいな、とずっと感じているのは、彼女たちは仕事のノウハウを教えてもらって実行していくのではなく、自分達の頭で考えて、興味関心をもって仮説検証することを当たり前のようにやってくれている事です。全く思考停止せずにずっと考えてる

まあでも正直それは分かっていた部分もあります。なんでかというと、ワシオの通販部で行われていた顧客対応業務は、現場の全員がお客さんのことを心から想って全く手を抜かずに取り組んでくれていた、ということを知っていたからです。

僕としては、そらそうなるよね。と思っていた通りですが、それでも全くやったことのない仕事に対してえげつない努力をしてくれてると思うしほんと尊敬する。

④社内研修【もちトーーク!】の始動

僕の「なんかおもろい形で社内研修したいなぁ。社員みんなが自分達の仕事の価値を楽しみながら感じられるような。」という発言を元に、企画を組み立てていってもらいました。

そして提案してもらったのは「僕が尊敬している経営者の方々をお呼びして、ご自身と事業について話していただき、そんな凄い人からワシオはどんな風に見えているのか?を番組形式で聞いていく」という内容でした。

その研修名は「もちトーーク!
大丈夫なんかこれ、、、と思いながら、もうおもろいからやってまえとGOを出したところ、社内にスタジオをつくるところから真剣にやってくれました。なんでも本気。ほんとにすごい。

手作りのスタジオ背景

そして、僕の友人で映像制作できる人とちょっと話したら「どうせなら動画も録ってYoutube載せようぜ」という話になり、、、、

※第一回、THE株式会社さんの動画はこちら
HPはこちら

はい。やりました。もしかしたら怒られるんじゃないかこれは。良い意味で悪ノリが過ぎる。

そしてこちらは実際の研修の様子⇓

この日は木村石鹸の木村社長にお越しいただきました
木村石鹸さんHP

まぁでも、少しまじめなお話をすると、めちゃくちゃ良いですこの企画。
以前の記事でも、まず「僕たちは既にとっても素晴らしい」と思えるようになりたいと書いていました。

僕たちは既にとっても素晴らしい
まず自分たちがそう思えるようになるところから始めたいと思いました。
そのためには会社が何を評価するのか客観的な指標が必要だし、従業員の皆がしっかり言葉にしてお互いに「いいね!」を送り合える土台があった方が良い。

前回の記事から

で、それがほんとそのまま叶っていっているように感じています。
自分達の仕事や生み出した製品たちを、いろんな凄い人から高い精度で言語化しフィードバックをもらえるということで、「これでいいんだ。」「いまやっている事は価値があるんだ。」と思えるようになってきた、という感想を述べてくれるスタッフもいました。

短期的な目先の利益のためではなく【価値】を大事にした考え方が身につき、健全なプライドが育まれていっているように思います。

⑤もちろんSNSにも注力し始めました

これまでもSNSのアカウントはありましたし、ちょこちょこ投稿もしてくれていました。
ですが、しっかりと学んで戦略的に運用を考えるようなリソースが無く、一方的なイベント告知や新商品の発信などにとどまり、目的や目標をもって効果的に運用することはできていませんでした。

でも、精力的にいろいろ学び、新しい仕事にも少しずつ慣れてきた4月ごろから、実験的に投稿を始めてくれました。

instagramの投稿

これまで、ただの告知や報告でしか使えていなかったinstagramが、我々の価値を発信するための媒体へと変化していきました。
まだまだ経験が浅く、いまPDCAを回していろいろ試しているフェーズなので、熟達した方から見たら多数のツッコミどころがあるかもしれません。
ですが、これまで仕事で発信した経験がないメンバーが、自主的に沢山インプットして、相談して知恵を絞り、チャレンジし続けてくれているということは本当に素晴らしいことだと思います。

⑥ただ、季節柄なかなか分かりやすい結果が出せない

もし良かったら、もちはだのインスタアカウントを見ていただきたいのですが、4月の投稿以降、ほぼ休まずにいろんなパターンをつくって試行錯誤しながら投稿を続けてくれています。

製造工程を紹介するリールを作ってみたり、

※実際の画面

社員が実際に使っているアイテムを紹介したりとか。

※実際の投稿画面(画像は大ベテランの経営管理部長です)

いろんなパターンを試しながら、自分達に合ったやり方を探してくれています。

ただいかんせん、今年の夏も非常に暑いです。
こんな時期にあったかアイテムの紹介なんて要らんよ、とそんな声が聞こえてきそうな状態なので、なかなか思うように結果が出ませんでした。

そんな中「もちはだ」はどんなシーンで価値を発揮するのか?を探るワークショップを行いました。

10人以上のスタッフが参加、それぞれもちはだが使えるシーンを書き出す
その中に「夏冷え」の文字が。

あ、これめっちゃ困ってる人いそう、、、!
実際、うちのスタッフに確認すると、冷房で冷えるからと足首など末端用のウォーマーなどを使っている方がとても多かったです。
足首ウォーマーをバッグに忍ばせておいて、冷房が効いたところにいくと履いているそうでとても重宝していると。いやぁ、盲点でした。

⑦夏のもちはだ企画!

夏場においても、冷房に対してもちはだがしっかり価値を発揮していることが良く分かりました。
そこから爆速で準備してくれて、instagramでリールが投稿されたのです。

リンクはこちら

おもろい。良い。笑
関西人にはおなじみの「あるとき・ないとき」のパロディですが、振り切ってやってる感が最高だと思います。
これが4.7万回再生(8月9日時点)と、プチバズとなりました。
更に、自社サイト再構築の準備でめちゃくちゃ忙しい状況のHP製作・運営課のメンバーも頑張ってくれて、冷房対策の特集ページも作ってくれました。

こちらにたくさん人が来てくれて、企画としては大成功と言えると思います。
本当にみんな良く頑張ってくれました。すごい。

⑧改めて、卒業式の取り組みについて

以上の流れから、冒頭で触れた卒業式の開催に繋がります。

開催にあたって、僕に対してもいきなり「校長先生やってください。式辞も書いてください。」と依頼がありました。最初ちょっと意味がわからなかったのですが、どうやら校長のコスプレをして欲しいとのことで、写真撮影が始まりました。
その結果がこちら。

いや、どこに対して本気やねん。

髪をシルバーにするスプレーを買ってきて、6人体制くらいでヘアメイクして撮影して、なんか本当に良い卒業式をしたいんだなぁとひしひし伝わってきて、企画に対しての本気度に少し感動しました。

繰り返しになりますが、そんな卒業式は8月19日(日)までやっております。
見るだけでもおもしろいと思いますので、よかったらぜひ覗いてやってください。 →卒業式リンク

⑨自社サイトの構築状況をチラ見せ!

そしてこちら、現在構築中の自社サイトの様子です。

いろいろ考えてます

まだまだ細かいところは調整中なのですが、シンプルに読みやすく探しやすく、そしてしっかりと価値が伝わることを目指して日々デザインの相談をしています。

いまのところ10月初旬にオープンになりそうです。お楽しみに。。。!

⑩さいごに

長くなりましたが、一番お伝えしたかったのは、うちのスタッフがめちゃくちゃ活き活きと楽しそうに働いてくれているということ。

まだ途中経過でしかないですが、楽天市場から退店して自社サイトにフルコミットする!そして従業員がもっているポテンシャルを信じてそこに投資する!ということが生み出した結果を知ってもらいたかったのです。

僕は、入社時点で会社の経営状況がかなり危機的だったこともあり、アトツギとして、経営者として、自分が頑張ってこの会社をなんとかするんだ!と思って鼻息荒く全部を自分一人でなんとかしようとしていた時期が長らくありました。

でもいま経験を伴う実感として、一人でやれることなんて本当にたかが知れてるよなぁと思っています。
スタッフの皆を信じ、活躍できるように環境を整えていくことに注力すれば、自分一人では叶えられそうになかった夢が叶えていけるんじゃないか、とそう強く感じています。

まだ組織を作り直して半年くらいしか経っていませんが、この先どうなっていくのか楽しみでしかありません。
どうかこれからのワシオに乞うご期待ください。

ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。


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