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神銃(かみじゅう)~六つの弾丸~

あらすじ

「あたし」は中学の養護教諭。
子供時代「アナタ」から六つの弾丸が入った神銃を渡される。
その銃によって撃たれた者は一生不幸になるという。神銃によって自分を虐待してきた父親を半身不随にする。
父親の入院費を払うために母親が闇金に頼り、結果夜逃げする。資産家の祖父母に引き取られた「あたし」は教員となる。
銃弾を使っても幸せにはなれなかった「あたし」は拳銃で「アナタ」を射撃しようとするが……。

馬鹿じぇねえのってつぶやいたらさ言葉がそのまま尖端がヘラのように拡がった小山金属ののみみたく皮膚に突き刺さってきて抉れてくることこの上なしで痛え痛てえよ痛てえのなんのってよ肌を斑縞の尾っぽが蜷局とぐろを巻いたスジオナメラっぽく匍いやがるんだよなあたしは眼底がチカチカしてきてよほら疲れたとき飛蚊症っぽく光の筋が水晶体のなかを縦横無尽に走るのを知ってるだろそんな感じだよ辛くって辛くってさずいぶん我慢してきたねえって思えてきたらもう馬鹿らしくて馬鹿らしくて一番馬鹿なのはあたし自身だってことに気付かされざるを得ずに仕方がなくって耳垢はちゃんと掻いてるからないはずなのに耳の中が痒くなってきやがるんだわよ阿呆陀羅が。そもそも始まりがことのおこりが腐れ縁の濫觴があたしが中学に進んだばかりの頃に子供部屋の中に一つの翳が現れたことだったんですがね訊いて頂けますかねえアナタ拝聴してくださいますかアナタアナタアナタと言う訳で我が目の前にいらっしゃる保健の授業が引けた後の教卓に両肱突いて顔を見せびらかすかのように両手の間に挟んでいらっしゃる御身であらせられるお前のことだよボケ部屋の隅に坐り込む癖がつくと壽算が縮まるって子供だった時ほんの餓鬼でした時に訊いたことがあんのだがその隅の方にアナタがいらっしゃった時は驚くことすら出来なかったね。やがて翳は小さな女の子の高校生ぐらいの娘めいた姿を取りやがりましてずっとこっちを何か見詰めてくるような雰囲気を発散していらしてしかも萬勇のランドセルか兵式飯盒やらしれやしないその黒光りする鞄らしきものから翼を生やしてたら幼い眼にはかなり威圧的に見えるよねえわかってるだろうかアナタがあたしを蜿蜿とビビらせ恐がらせているってことがよ日頃白衣を身に纏いまともな養護教諭を完全に演じきっているあたし様でもアナタを見た瞬間その一秒のコンマすらたがわないうちにアナタの前では子供のように縮こまっちまうんだよただでさえ年齢は永遠に変わらず容貌の衰えも口元の小皺の一つも見せはせずに何年も十何年もあたくしの生徒さまでいらっしゃいますウザいことこの上ないアナタに対して怯え続けなければならない身にもなって欲しいとこなんだよどこ行ってもどの場所に出入りしてもいてくる。けっきょくのところあたしの心の中にある存在で空想にしか過ぎないんだと思い込もうとしてもアナタの姿が脳にこびりついていて虹彩の中に受像されてしまうから目を瞑ったとしてもアナタからは離れられず遁げることすら出来ずに嫌な嫌な嫌な記憶を繰り返し繰り返し繰り返し眼の前で繰り広げられることになっちまうんだよボケそもそもあたしは母親がドイツ人で旧ハンザ同盟都市の中核を占めたとかいうリューベックって街からやって来たゲルマン系の女だからその娘であるあたしは日本で暮らして行かざるを得ない都合上生まれもっての金髪が非道く嫌で仕方なく最近までそんな街訊いたことも行ったこともなかったんで什麼どうせなら音楽隊で誰でも知ってるそうでなくてもわりかし訊いたことある有名なブレーメンにして欲しかったと心から思ってるよブレーメンブレーメンいやハーメルンでもいいよななんかいなかったかハーメルンのヴァイオリン弾きってあっただろいやなんか違うなそんなアニメを子供の頃見たからよハーメルンの笛吹き男だってわかったわかったわかったからわらうのはもうよせ馬鹿野郎ピューピューとあたしは欲しくてもお金がないからって買って貰えなかった象牙のように白いヤマハのリコーダーを吹く余裕をブッこかれたアナタの顔を撲りたいと思ったときはいつもそればっか考えてたよ。まあそんなことは什麼でもいいんだ子供だったあたしはそんな自分のルーツがリューベックにあったなんてこと知る術がなくて大人になって社会の極まり一式を宜しく諒解奉った後で戸籍や色色取り寄さなきゃそんなことわかるわけがねえだろうがボケまわりから苛められてましたね撲る蹴るはされてましたね今ならお前ら何をするんじゃって言い返せるぐらい強くなったけど反吐を吐いてるときは口の中に苦い汁が満ちるばかりでさ辛いという言葉すら忘れていて社会常識なぞ習う余裕なんかとっくに捨ててきてたよでもそんななかでアナタを見たことは全くの恐怖でしかなくここで殺されても世の中楽しいことも何もなかったし仕方ないななんて思っちゃって諦めの境地に到るほんの手前でそんなの嫌だやっぱり死にたくないよとおもっちゃって余計恐怖心が煽られてきやがったんだでもアナタはあたしに声を掛けて来てその内容は一言一句違わず記憶してる。「力が欲しいでしょ」咲っちまうねえありきたりなセリフ過ぎるよ漫画を読めばすぐに見つかりそうな言葉だがあたしは欲しいって答えたよ当然ながら欲しかったし全てを殺してしまいたかったそんなことばかり日頃っから考えてたさ子供の時にはでもそれぐらいみんなに苛められてたしそれには実力行使が必要だとは考えていた力のない者は力を持たなければならないそうしないと大きな力には刃向かえないし舐められて終わるんだよ世界史の授業でそれぐらい習わなかったかアナタみたいに授業に参加しやがりません成績不良な生徒様でもよ。でもアナタにその時差し出しされた銃はあたしにとってはとても魅力的でアナタの鞄と同じような黒い艶のある回転式拳銃リボルバーで撫で擦ると氷河期の頃からやってきたような皮膚をそそけ立たせる寒さが襲ってきたこれは神によって作られた神銃なのだとアナタは言った悪魔みたいな恰好してるのに神なのかよボケあたしは抽選によってこの銃の所有者たる運命に際会したのだとアナタは言葉を続けて「狙った相手に向け射撃てばその相手には不幸なことが起こるよ」と語ったけれどもその不幸なことと言うものの内容を具体的に教えちゃくれなかったなんでくれないんだよくれなきゃ困るよこう言うのはわかりきってるんだぜよくあるパターンだ何か代償が必要なんだろうあたしは死後アナタに魂を奪われるとかそんな類いのことを覚悟しなけりゃならないとめ付けるとアナタは首を振って「代償は何もなくただキミの人生が虚しくなるだけだ」と言ったんだったな。何がキミだ今やあたしの方がアナタよりも年上だいや年上に見えるそう言うところまで来ちまってるのに嗚呼忌忌しいなその顔にずっと見詰められると嗚呼赤い光線が蛍光灯に波打ち寄せてアナタの頭頂から朱を差していきやがりますと髪の色まで染められたように見えてくるんだよ夕方じゃない今はまだ夕方じゃねえのに光だけは赤く差す逆に放課後を迎えてしっかり鍵は閉じられて窓が白く光るその向こうでは生徒が牧歌的に午後の時間を堪能するまるで対蹠的な風景の絶え間なさ校庭で生徒が遊ぶ声が聞こえなくなって罅割れた煉瓦で囲われた花壇に隣った榎の老木に留まる蝉の音も教室の机の上のキャンパスノートの表紙で蠢動する壁蝨だにの通過も聞こえずじまいになりやがる赤い光が頭の中で立体的に数を増してこの神銃をお前に向けたくなる嗚呼シリンダーが廻るシリンダーが廻るるるるるるるるるるる外す弾を込める撃鉄を起こす三十八口径の六つに穿たれた穴に填められた弾丸の数だけあたしは射撃てたいや今だって射撃てる一発だけこの金色こんじきいろした弾丸を填めさえすれば長らく抜いて置いたのにあたしの人生を決して幸せな物にしちゃくれなかった銃からはお別れするつもりだったのに何でアナタはこうもあたしの眼の前から立ち去らない。銃を学校で射撃てば什麼なるあたしは教員の座が危うく良いことはないし自殺行為であるってことは眼に見えている弾を撃ち込まれた相手は什麼なるか死なないだが不幸になるその人生の終わりまで嘆き続けて死ぬいいじゃねえかあたしは憎む相手が多かった物珍しいこのツラで当時は今見たく糞多様性なんざ囁かれていなかったから相当に馬鹿にされた話がくどいだと何度だって言ってやるよそればかり考えている考えているのにでもこの銃で運命は好転なんかしなかったただ眼の前にあった障碍が消えたぐらいってだけだそれだけでもずいぶんとさっぱりしたもんだぜまずその第一号は親父だったろくでもないやつだった日本語教員をやってた母親のヒモ見たくなりやがってよ年がら年中酒ばかり飲みやがったあの2DKのボロ臭いアパートのなかでテレビの前でシャツ一丁で畳に寝っ転がりやがってサッポロヱビスビールの茶色の瓶を片手に何かあるとあたしをいつも怒鳴りつけやがって言うことを少しでも聞きそうでないとわかるといやこう言うやつは聞いていても何か気に食わないことが頭の中にあれば腹いせであたしの顔をぶん殴り瓶が割れて先がぎざぎざになっているときは顔はさすがに撲りはしなかったが腹へと何度も打ちつけられた。不幸になっても差し支えない相手だったから喜んで一発目の銃弾を使うことにしたのさ貴重なものだったがそうじゃないとあたしの生存権も貞操も危ういからだって畳に押し仆されそうになったんだよ露骨な言い方をすりゃあ犯されそうになったわけさ「おめえそろそろ色づいてきやがったなあ」と酒臭い息を浴びせてきやがるので急いでその時着てたユニクロで買った灰色のパーカーの前のポケットに入れていた銃で額を撃ったんだオヤジは凄い勢いで天井まで吹っ飛ばされた板張りがわずかに軋っただけでのめり込みはしなかったが結局そこまで衝撃を与えても死にはしなかった射撃ち込んだはずの金色の弾丸は影もかたちもなくなっていた確かに命中させたはずなのに痣すら残さなかった親父は病院送りになった後一生半身不随になって白いベッドの上で磔になった身体で暮らすようになりやがったのさざまあみやがれ犯人をあたしだとは特定出来なかったので少年院送致されることもなかったこれがあたしなりの第一に手に入れた幸運だがお袋にとっては不運だったなぜだか知らないがオヤジの入院費をずっと払い続けていたからだ第二の機会はすぐにやってきた苛められていたって話したろうクラスの中であたしを苛めていた奴らがいたそのなんつうか頭目だいやリーダーか什麼でもいいが花子は性格が絵に描いたようにねじくれたやつだった机の上に落ちないパイロットの油性ペンで書かれたよ今から思えば幼稚だがその時は「死ね」というのが堪えたもんだだってあたし自身自分を無価値でこの世にいてはならないもののようにかんがえていたからでねあえてそれを再演再演何度も何度も繰り返し文章で口頭で表現され続けたらそりゃあだんだん殺意も芽生えそうなもんじゃねえかいつやってやろうと考えただって皆の前でやったら他の奴に仕返しされるかも知れない弾はあと五つだなら考えに考えて熟考を重ねる必要があるの言うまでもないことだろうがよ花子にはちょっとした愉しみがあった飼育小屋の鶏の脚を踏んづけてその苦痛の叫びをしばらく聞いている趣味だその時だけは友達から隠れて一人で愉しんでやがる今がチャンスだと破れ目が開いた金網の檻の入り口から身を乗り出して引き金を引いたら前方へ勢いよくぶっ仆れやがるそのまま死んだかと思ったが泡吹いて唇で大地とキスして気絶しているだけだったやはりこの銃で人を殺すことは出来ないらしい大したもんじゃねえなと我ながら犇犇と感じ始めていたんだがそれならさあ不運の賽の目だ投擲して何が出るかな何が出るかなと仆れている花子を尻目にワクワクドキドキ期待してその日は引き下がった。次の日から花子は学校に来なくなった什麼も病気らしい教師からそれを告げられたときあたしは嬉嬉として立ち上がり日頃より大変有り難く懇切叮嚀に接してくださっている花子さんがご病気と訊きお見舞いに行きたく願い上げ奉り候と意思表明すると他は引いた咲い声を漏らすだけで誰も挙手しなかった普段あんなに友達面してる連中なのに悲しいことだねえ咲えてくるねえ涙がちょちょ切れるねえと勇んで自転車で花子の家に行ったら母親は家に上げたがらねえ心を頒かち合った無二の大親友なんだと顔を赤して涙を涕してて力説して差し上げるとすぐ二階に上げてくれたがこれはもう天罰覿面神銃の威力のものすごさを思い知ったねえ自慢だったブリーチが施された茶色の髪は殆ど抜けてしかも何本か抜け残っているあたりがなお一層無惨やなと言う風情を醸し出させやがりますし太腿の肉はげっそり落ちて骨とお慰み程度に張り付きましたる皮ばかりだがその膚すらくすんで鼠の毛のような色の染みが出来てるじゃねえか日頃よりダイエットを望んでいた花子のことだ願いが叶って佳かったねと思っていたところさらに肢体に麻痺すら残っているらしく痙攣させているのを見て思わず失笑してしまったらこちらを涙が滲んで白目の表層で小枝のように充血した眼で睨みやがる髑髏が睨んでるんじゃねえかと思ったほどだぜさらに言葉も喋れないらしく歯のない空洞な口をパクパク開けているだけだ「花子ちゃんあたしたち友達だよねだから家にずっといるなんて言わずに学校へ行こうよ」と何度も何度も何度も何度も何度も耳元で繰り返し言ってやったよもちろん花子はかぶりを振ったがあたしは無理に立たせて翌朝には登校させたあたしと花子が並んでいる姿を見たら誰もあたしを苛めなくなったよやはり暴力には暴力を以て対抗するしかないってわけだあたしは暴力を毛ほどすらも見せず花子のなれの果てをお目に掛けて差し上げた以上あたしに何かやれば同じ眼に遭うだろうということに皆は気付かされてちまったってわけだ。誰も手出ししてこないから花子の細った肋を指で突いたら中で乾燥した酸漿を傾けると中でころころ転がる種のような心臓の音がする殊の外元気で弱り切っておらずここばかりは健康だったこの銃を作った神さんは本当に良く心得ているじゃねえかって心底喜んだよ実際花子は学年の最後まで死ななかった卒業して什麼なったかなんざ知らんがなあはははははははははいつも腕を組んで仲良く友達だと認めて貰えるように歩いたよ皮を引っ掻いたり残り少ない髪の毛を抜いたりするようなささやかなる虐待から始まって足の骨を折ったりはしたけど骨の繊維がスカスカになっていたのか乾いた音が鳴ってた口から涙をぼろぼろ垂らしてそれは文字通り下瞼を湿らせて涙袋が侵蝕していくような感じで青息吐息でこちらを見やがるんだがあたしは終始咲顔を向けていたねぜざまあみやがれ什麼どちらにしろ言葉を発することが出来ねえからあたしのなすがままだっただんだん神銃の使い方が理解できるようになったぜ親父に襲われたときはただ必死で身体を守ることばかり考えてたが花子を射撃ったときは余裕を持って無様な眼に遭ってくれりゃいいと考えてたつまりこの銃は相手に対する憎しみを籠めて引き金を引けば引くほど効果が増すって訳だ。かくして二三年の間はあたしの前から障碍は消えずいぶんと生きやすくなったものだったでもそれは束の間だった高校へ進んだら流石に苛めはなくなりはしたが別の問題が出来してきた借金取りだ親父が入院を続けていたのは前話した親父が長く長く生き続けるんでその入院費が掛かるあんなやつはさっさと離婚して金は資産家の父方の祖父母に払わせればいいとはっきり口に出して言ったがお袋は拒んだ親父をまだ愛していたのだろう自身撲られもしていたのに何であんな奴を愛せるのか不明だったそれで闇金に頼っちまったらしい毎日金貸しが家の扉を強めのノックするようになっちまったんだ頭がおかしくなりそうだった弾丸を使うことを考えたが一人ではないし借金取りを不幸にしたところで何も変わらないのがわからないほど馬鹿じゃないしもっと上にいる連中には手が出せないし撃ちまくって貴重な弾を使い果たす訳にはいかなかった。神銃があるって気が付かないままお袋は夜遁げしたあたしは目が醒めたら狭いアパートで一人ぼっちになってた父方の祖父母が家に来てあたしを引き取って高校はその家から通うようになったが借金は何とか祖父母が工面して返してくれたよでもあたしは消えたお袋を憎むようになっていた親父にはあそこまで金を使ってたのにあたしを愛してくれていなかったのかって辛い気持ちになったよでも銃を向ける気にはならなかったんだなお袋とあたしはとてもよく顔が似ていたから自分の分身みたいに感じていたんだそうこうするうちに高校生活も楽しくなっていってしばらく時間を忘れた友達が出来たんだあたしが今の道に進むようになったきっかけなんだが名前は早苗って言ったとてもとても静かで勉強も出来る子だった騒がしい劣等生のあたしとは正反対で席が隣だったんで少しずつ話すようになっていったんだよ養護教諭を目指してるって話は最初に出たあたしの方は何だよそれってな至極冷たい対応だった親が教員なんだから教えることに不快感を持っていたんだでも次第に仲良くなったあたしの容姿について早苗は何もからかわなかったしそもそも口に出しもしなかっただから心は落ち着いたそれだけで十分だったのに早苗が両親に捨てられた子で血の繋がらない夫婦の養子となって育てられたという境遇を訊いて共感したのもあるんだろうな今まで花子とばかり登校してたあたしはああ言う偽物紛い物じゃない本当の友達を得られて心から喜んだのだったが好事魔多しとはよく言ったもんでまたすぐに腹の立つ出来事が起こった教師の菱岡が早苗に勝手に惚れていろいろと邪魔してきたんだ早苗は音楽部でそこの顧問になってたのが音楽教師の菱岡だったんだがあたしと早苗が仲良くしていることを知ると嫉妬したのか部活に来るように何度も何度も強要しやがったんだ困り果てる早苗の手をあたしは強く握ってやったよ初めて握る掌はしっとり汗で濡れて湿っていた恐怖と緊張から吹き出た分泌物だそこへだなんでアナタは「友達できたね」といけしゃあしゃあとした顔で現れやがったんだそれもあたしが自分の部屋で独りでいるときに限ってだ「什麼せ失うよ什麼せ」アナタは繰り返す微咲みを浮かべてあたしは睨み付けたがその睨みがだんだん強張って恐怖に彩られていったのは部屋の隅に置かれたピンクのプラスティックの縁取りがされてある縦長の全身鏡に映し出された自分の顔からよくわかったなぜってアナタはその鏡には映っていなかったからだただ何もいない空白がそこにあるだけだった「キミに友達なんてできっこないのだから」アナタはあたしに何度も言ったよあたしは何でそんなことがわかるんだ馬鹿野郎実際あたしには友達がいる早苗だ二人は無二の親友だって言い張ってやったんだよこんな純粋で仲のいい二つの魂はいまだかつてこの地上に現れたことはないとその頃読み囓った本の中で発見した言葉をちょっとだけもじって付け加えたんだするとアナタはカラカラと高らかに声を歪ませて「それは本当に確かなのか彼女は本当に心の底からキミの友達か」って訊きやがったんだよボケカスがなぜ疑いを持たせるようなことをあたしに言いやがるこの部屋で赤い光が満ちてくる教室の中でから咲うアナタの咲いはその日から寸分たりとも変わっちゃいないあたしを憎いのでも独占したいのでもなくそう言う欲を一切捨て去ったこの銃を作りたもうた神のような正しさで余裕さでただ「キミの場合悲痛なことは起こるときには起こるのだ」と言った何だそれは什麼う言う意味だこれからあたしが酷い目に遭うって言いたいみたいじゃねえかそれは確かだよああそうだよアナタの言うことはいつだって正しかったよ憎憎しいほどに憎憎しいまでに早苗だってあたしと関わらなけりゃよかったのになって思うんだよほんとうは早苗はあたしの真の友達なんかじゃなくてあたしはただ単に己のステータスのアップに使いたいだけだったんだこれまでの人生さんざっぱら苛められてきて独りぼっちで人間らしい付き合いには飢えていた母親からも捨てられたしなそんななか早苗という超絶成績優良児との出逢いはあたしの自尊心を恢復させたこんな貴重な友達を手に入れたんだから何が何でも守り抜かなくちゃならないと心の底から決意したそれなのにそれなのに何で銃弾を撃つ破目に陥ったんだよあんな奴のために什麼して什麼してこんなことになったんだよ菱岡は色色教師の権限を利用して早苗と密会しようとしていただがあたしはいつも一緒と言ってもいいぐらいに傍を離れなかったからやつはだんだん焦れてきやがったんだ奸計を張り巡らせやがった校内放送であたしを呼び出しやがったそれでも行くのを無視していたら教師が二人がかりでやってきたこれは菱岡がやったことだろあいつが早苗にストーカーしてるんだよそんなこともわからないのかとあたしはわめきながら強引に職員室まで連れていかれたよ確かに呼び出される理由はあったこっそり隠れて煙草ってたからよ証拠は女子トイレの床のブルーで四角なタイルに落ちてたマルボロメンソールの吸い殻だった問い質される名目だけはあったんだ日頃から金髪を指差して染めているのかと訊かれたこともあったしな無駄に他人種に配慮しろと叫ばれる昨今と較べてずいぶん感覚が違うもんだなあだがその隙にその隙にあの糞野郎の菱岡は早苗と二人だけで会うことに成功したんだそれでそれでやっと解放されてマルボロをケースごと没収されはしたがさて自由になってもどこに二人がいったのかわからない他の生徒をびっくりさせながらいそいで早苗の名前を叫びまくって無限に続くような廊下を走る金髪白皙の女を他の生徒たちは奇異な目で眺めてきたがそんなことあたしは十分諒解しながらも走り抜けた走り抜けたよどこまでもやがてどこからか押し殺した叫びがしたドアを引き開ける反射的に声がした方のドアをただ開けたそしたら見たくもない早苗の上に乗っかった菱岡の姿が見えたんだあたしは急いで手許を探したが神銃は家に置いてきていたそりゃもちろん当然だろ学校でそうやすやすと見せびらかしていたら銃刀法違反だ通報されちまうから子供部屋の机の鍵付きの三番目の抽斗の中に深く仕舞っていた花子を仆したときは入念に入念な注意を重ねて遂行したのは言うまでもない今回はいきなりだったしそんな準備なんざできていなかったんだよ菱岡の野郎毛穴が真っ黒で汚ねえ臀を見せびらかしながら腰を振ってやがったがあたしは大声を上げて後ろから飛びかかった菱岡は体育教師じゃねえので強くはなかったが女の力では太刀打ちは難しいだから椅子を逆手に持ち強く握ってそれで頭を何度も何度も何度も撲ってやったんだよ叫びを上げて菱岡は前のめりになった早苗はぴくりともしない死んだのかと思ったが今思えばおそらくきっと恐怖のあまり声が出せない状況だったのだろうあたしが何度も菱岡の頭を殴りつけているところへ教師や生徒が何人も部屋の中に雪崩れ込んできたそこは音楽準備室だったらしい後から知ったよそんなこと最初に飛び込んだときはわかる訳がなかったんだよ馬鹿野郎まずあたしが加害者みたいに扱われたがこれを見て状況がわからないやつの方が什麼かしてるさすがにそれだけは馬鹿な教員連中でもわかったと見えてあくまで菱岡が犯人でわたしは友達を守ろうとしたんだってことになった結局菱岡は免職になりましたが学校側はうやむやにしたがったなしくずしにされた本来なら警察が動くべきなのにレイプされた早苗や親友をレイプされたあたしへのケアも不十分なままに放り出されたかたちだったあたしは別に平気の平左だったが婦人科へ行ってピルを処方して貰ってから早苗は学校に来ない携帯に電話を何度も掛けても返事はない大騒ぎしたあたしだがお陰で学校では敬遠されるみたいな状況になって苛められもしないが誰も話し掛けてきやがらなくなりやがった親友だと思っていたのに実は早苗の家に一度も遊びに行ったことがなかった場所を知らなかったあたしはアナタの吐いた言葉が胸の中で何度も何度も何度も繰り返される始末になったんだよ自分を責めたねそれはもう吐くぐらい神銃で自分を射撃とうと思い始めたのはその頃からだが結局出来はしなかった自分が大好きで大好きで仕方ないあたしは引き金を引くことが出来なかった仮に射撃てたとしてどれほどの不運にあたしは見舞われたことだろう自分を大して憎み切れはしなかったに違いない結局親父のようになっていたのが関の山だあたしは菱岡の処分を考えたあいつが教師を辞めたとしてこうなったらもう怖いものなしだ図書館に行って真っ黄色い皺茶くれたタウンページを引っ繰りかえして市内の菱岡姓を探した珍しい名字ってこともあり当たりはついたそう遠くはない二三十年前に建築されたコンクリート製のマンションの一室だあたしはその前まで行って神銃をマクドナルドの紙袋に隠し出てくるのを待ったさあてどれだけの不運をお前に与えてやろうか早苗と同等の苦しみじゃ生ぬるいてめえのその糞汚い臀の穴を色んな男に代わり番こに犯される程度はして貰わなければせっかくの尊い弾丸を一つ使うのだから地獄を見てもわねえと採算が合わないじきに菱岡は出てきたあたしは「菱岡ぁ」と絶叫して紙袋から取りだした神銃を両手に走り寄ったよ驚愕した菱岡は建物の中に戻ったのであたしは勢いよくそれを追った階段を物凄いスピードで駈け昇りやがるあたしは全速力で追った後数段先まで迫ったズボンの裾を掴んで引き仆してやろうと思ったところで突如菱岡は階段横のアルミ手摺から身を乗り出して真っ逆さまだあたしは近付いたが既に十何階も下に転落していたアスファルトと激突して頭を柘榴のように弾けてたよ幸い防犯カメラはエントランスにも階段にもないマンションの前にすらなかったこの街区は本当に閑散としてしかも今みたいに日本全国津津浦浦到るところに防犯カメラが設置されてある段階には未だちょっとばかり遠かったのもあってなんとか遁げることが出来た菱岡は死んだよ新聞には載らなかったんだから自殺と判断されたに違いない確かにそれだけの状況証拠は十分あったあたしが銃を手に追いかけた姿は見られなかったんだでも結局あたしは大事な銃の三発目を使い損ねてしまった菱岡は自分で死んだんだから地獄まで追いかけていって銃を撃つことは出来ない自暴自棄になったね什麼しようもなかった机に向かって勉学に励もうとしたが心の中は落ち着かないそんな時いきなり早苗から着信があったんだ急いで出ると弱弱しい声で「一度会いたい」だって什麼したのって言うと「先生死んだんだね」どこでそれを聞き知った確かに生徒の間では電話とかで伝わってたからそれでかもしれないしかしあたしは知らなかった祖父母は電話を受けたがあたしには伝えなかったからあたしは知らなかったんだ「あんなやつ什麼でもいい」早苗の声の調子に精神不安定なものを感じ取ったあたしは念を押すように言ったよでも早苗はあたしの答えなど訊いちゃいないようだったそれでも家の場所を訊き出したあたしは急いで横殴りに雪の降る中をユニクロの赤いウールマフラーで顔を埋めて走り続けたしもやけが顔に罅を入れるぐらいだったが構わず走りに走った糞馬鹿野郎なんでその時銃を入れた紙包みを持ったままで出かけていったんだ自分で自分を責めても致し方ない嗚呼扉を開けて駈け上がった早苗の養父母はどっか出かけていたようだこんな時に暢気に南船北馬の物見遊山と洒落込みやがってるのかよ糞忌忌しいとか思いながらあたしは早苗の部屋のドアを開けた早苗は太い縄で首を吊って机から飛び下りたところだったあたしは勢いよく足を掴んだ「早苗が死ぬ必要なんて何もない」あたしは叫んだ身体をコインランドリーの乾燥機の円形の扉の向こうで引き絞られるぐらい引き絞ってだが早苗は死にかけた眼球を光らせてあたしを見るだけだ魂は既に薄墨の煙のように抜けようとしていたあたしは早苗の口の奥にそれを押し戻そうとした縄を外す痛痛しい赤く染まった絞め痕あたしは手を展ばす「馬鹿野郎」と何度も繰り返したけど早苗はもう泣くことさえ止めていた後退後退蹌踉よろよろと窓へ走り征く早苗開けようとした落ちようとするのかまた落ちるのかあたしの前で落ちはさせない紙袋から神銃を取り出していた銃口を早苗に向ける手は震えていた「これ以上動くなら射撃つ」でも早苗は止めはしなかったあたしは射撃っていた早苗は仆れていた何でこんなことをしたのかよくわからなかった死なれるより不幸になった方がましだとそう思ったのだろうが浅墓だった神銃はすぐ紙袋にしまった忘れると言うことがなかったぐらいあたしは妥算的だったんだ嫌になって遁げ出した死ぬ心配はなくなったからだもう早苗の顔を見たくなかった合わせる顔がなかった部屋の中に隠れて閉じこもっているしかなかったまさか早苗を射撃ってしまうなんて救わなければならなかった早苗をだ思ってもみなかったあってはならなかったことが起こってしまったいや起こしてしまったあたしは責任から遁げたでもしばらくして早苗の養父母から電話で家に呼ばれた早苗は身体を悪くして寝込んでいて会えないというけれど言付けがあるらしかったあたしは神銃の弾丸の威力を知っているだけに自室の扉の向こうに隠れた早苗の姿を見ることが出来なかった怖くて仕方がなかったが早苗はあたしに暖かい言葉をくれたもう自分は無理だけどあたしに教師を目指して欲しいそれきりだった二度と会っていないはじめてざまあみやがれとは言えずまずあたしに向けなければならないその言葉が口の中で輪転を繰り返したあたしは泣いた家に帰ってから泣いたよでもそれからは勉強に精を出すようになったたった一人の親友もいなくなったしそれ以外にすることはないじゃないかそうだよアナタはいつもあたしのそんな姿を部屋の隅から咲いのめしてくれたなだが何も言いはしなかったそれがまた憎らしい憎憎しい口に出しこそしないがいまでも怨み続けてるよ一年頑張り続けたこともあって難関大学の保健学科に進学することができた。友達なんか一人もなしで毎日勉強やり続けてたんだからそれぐらい屁でもなかったよ祖父母も泣いて喜んでくれたあたしはお袋と同じように先生になると言う道に進んだんだだがなる前にまた神銃を使わないといけない仕儀になった大学でも高校と変わることなく遊ぶことは一切せず授業を全て履修する日日だったが矢鱈滅多らサークルに誘ってくる男がいる宗教勧誘かと最初は思ったが什麼やらあたしの身体が目当てらしい中学生のころまでは単に珍しいもんとして苛められるだけだったが高校大学と進んでいきゃあ女らしく肉が附いてくる身体に対して付け狙ってくる男も増えたさ痴漢されたことも何度だってあるまさかその程度で神銃を使おうと思ったこたないがな断ってもしつこいので一度はサークル主催の赤い光が放たれる提灯が破れて中の卵黄のような電球が覗くぐらい古くからある居酒屋で開かれた新歓コンパに出席してやった卓を囲む男はしきりに酒を勧めてくるその頃は成人してなかったから断ってたらみんな呑んでるよとか言ってきて確かにあたしと同期生もみんな呑んでいるあたしも呑んでしまったそしたら急に眩眩とめまいがしてきやがって記憶がなくなったそのまま昏倒したんだな気がついたら男の住む二階建てのアパートのボロ部屋だった床板の上に仆されている天井の蛍光灯は今あたしとアナタの前にあるものと同じじゃなく円形だった酒臭せえ息が掛かってきて気付くとブラが脱がされている痛てえのに何度も何度も揉まれてる舌が口の中で強張っていてあこれが早苗がやられたことだなって理解した神銃もその時は持ってなんか来ていなかったし力で男に抵抗出来るわけはないんで犯されるがままになったよ初めてだったが気持ちよくもない不快な経験だけが残っているのに男は什麼だ什麼だ気持ちよいだろと繰り返しやがる酒臭い息嗚呼うぜえ殺したいと思ったが身体がもう動かなかった終わった後また逢いたいと言ってやった出来る限り咲みを浮かべて強張っていただろうかそれは知らん口では咲って心では早く帰りたいと思ってたりってことはよくあるもんだぜアナタは人間じゃないからわからねえだろうがよ自分のセックスに自信を持ったのだろう男は約束した住所と名前ぐらいはハッキリわかっただが今はそんなの覚えちゃねえよ什麼うでもいい酒の酔いが醒めてきたときに記憶した何か薬が入れてあったのだろうそう言う手段で他にもやっているのだと話していたただ素直に来ているだけで怒りも湧かなかったタクシーに乗って帰る途中だ涙もながれない自分に気付いて逆に乾いた咲いが漏れた家に帰ってももちろん祖父母には何も言わず浴槽でシャワーのノズルを使って隅から隅まで洗い流したよ身体全体が機械のようにガタガタ鳴り続けたのはそれから三日ぐらい経ってだもちろん男を処分した後だったがそれでも涙は涕れなかった逢ったのは二日後だまあ大学で顔を合わせるわなこっちを見るなり肩を引き寄せてくるから静かなところまで歩こうと云った午後過ぎで人気のない公園に入ったら抱きしめられたやはり恋人になったとでも勘違いしていたんだろうなあたしは春向きトレンチコートのポケットに突っ込んでいた神銃を男の胸部に向けて射撃ち込んでやったよありったけの憎しみを籠めてね男は悶え苦しんでいた口から涎を垂らして尺取虫みたいに芝生の上を逆方向に匍匐していたあたしは顔も見ずに歩き去ったよ何日か経ってその男がフードを被りマスクをして歩いているのを見た松葉杖を二つ肩の下に挟み込んで顔は疥癬にでも罹ったかのように真っ赤になり皮膚がぼろぼろと落ちてきそうに爛れていた腰を折り曲げ老人のように歩いてきてあたしと眼が合ったらエゾリスのような敏捷さで走っていったよ松葉杖を使ってなすっかり筋肉も衰えきって女の体力でも殴り仆すことができそうな惨めさだったざまあみやがれ残るは弾は三つだもう半分しかないそんなに射撃ったのか早苗を除いてろくでもない相手ばかりだった什麼せなら一国の元首でも何でも射撃ちたかったがとてもそうは上手くいかないねそんなことがあってから大学生活は特に波風立たずに送れたよ平穏たる生活の中でもたまに心と身体の痛みを感じはしたがまだあたしには弾丸が残っている凄い力の持ち主なんだと言い聞かすことで凌いだよだが三年になって教育実習をやるようになって実際の生徒に接するとまた問題が起こってくるわけだ大体人間と関わってもろくなことは起こらねえ全てのトラブルは人と関わることで起こるって極まっていやがるからな母校の中学校つまりあたしや花子が学んでいたとこで実習することになったんでやっぱり何年か経っても糞みたいな生徒どもがいてなあたしの髪の色を馬鹿にして来やがるまあ慣れていたしそんなことは耐えたねあたしも強くなっていていくらでも耐えられようになっただが教師も糞だったもちろんあたしの顔を覚えているやつが一杯いた昔は人と話さない大人しい生徒だったのに何でそんなに顔付きがきつくなったのって言われたよ馬鹿野郎きつくならにゃあ生きていけなかったんだよって言い返しそうになったけどそこはやはりあたし様だ軽く凌いでやったよさて実際の生徒の中であたしは気になるやつを見付けたわざわざ言わせんじゃねえよそれがアナタだあたしをからかうために潜んでいやがったんだよ制服まで合わせて咲みを浮かべたままでこっちを見てくる別にこっちとしたら怒りの感情より呆れの方が先に立ったんだが睨み付けてはいたんだよだから余計怖い顔だと思われるようになったのかも知れねえな「ねえ先生だねそろそろ先生だね」アナタはあたしと擦れ違う度に話し掛けてきやがるだが他にはアナタが見えていないはずでもしそんなこと言い出したりしたら精神科のお世話になんなきゃならんだろボケ「先生先生」そう言いながら」アナタは近付いてくる寄ってくる併走してくる長い廊下を駈ける駈ける駈ける教師となる実習生であるあたしが廊下を走っちゃいけねえだろ止まった無視しろ無視した実際に何も耳に言葉が入らねえように苦労したやがてアナタは消えて廊下を動くだけのあたしが残っていたそんなざまだ他の実習生の皆からは変な眼で見られるしろくなことはなかったまああたしとしちゃ馴れ合うつもりはこれっぽっちもないんで別に良かったけどなやがて実習が終わろうとしたときに事件が起こった実習生仲間の彩香が突然あたしに霊が憑いていると言い出したのだ彩香は生まれつき霊感があるとか称していたやつだった後ろに女の子の影が見えているよみたいなことを繰り返し繰り返し叫びやがるよほどビビってるようだったあたしは気にするなと言ったが什麼も気になって仕方ないようでお祓いして貰ったらと言いやがるアナタは微咲んであたしの耳朶に囁き掛けた「無駄だよ僕は霊じゃないんで」とあたしは馬鹿馬鹿しくなって彩香と話すことを止めたら大学に戻って数日後に失踪したと構内で噂が広がっていたあたしはアナタに何かやったんじゃないかと詰問してもアナタは首を振るばかりだっただが自責の念が憑き纏ってきたあんなやつ友達でも何でもない関係ないのにと思えば思うほど強くなるあたしの背後にいるアナタを見てしまったばっかりに姿を消したに違いないあたしは彩香を捜すことにしただが什麼やって探せば良いだろうか取り敢えず周りに番号を聞いて彩香の親に学校の同期生なんですが心配になっていますと電話したそしたら確かに数日前から彩香は姿を消していたようだそのきっかけがやはり霊が見えた霊が見えたと繰り返し言っていたことと関係があるらしいあたしはやはりアナタが何か関わっているに違いないと断定したでもアナタは嘘は吐かず言うことはいつも正しかったってさっき言ったその通りさだからあいつは何かを見てしまったのだろうその見てしまったものがわからないだからあたしは調べに調べて居場所を探らなきゃならないと決意した。だが什麼やってやればいいのかわからなかったとりあえずGPSとかの機能もその頃出始めていたから捜してみたがはかばかしい成果は上げられないままだった彩香の両親によれば彩香は暗く大人しい子であまり人とは仲良くしなかったらしい両親はとても可愛がって育てているみたいだった実習先で最低限の会話しかしていなかったあたしでもそれは何となくわかったがあたし自身にそう言うところがあったからかも知れない暗く大人しい性格のままで生きられたら什麼なに幸せだっただろうとは思ったけど学業すらまともに受けさせて貰えない子供がいるって事実を鑑みるにつけても祖父母がいてくれて良かったと痛感するのだったあんな酷い親父の親だから相当ろくでもない奴らだと考えていたがあたしの他に孫がいなかったこともあってだろうがあたしに対してはとても優しかったからあたしはずっと幸せだとも言えた彩香に共感はしなかったけど見捨てられも出来なくてしかもこちらに責任があるのだから何とかしなくちゃなって思ってしまっただがあんなことになるのなら捜さなきゃ良かった糞忌忌しい結局あれもアナタのせいじゃねえか何もやってないってそりゃご苦労さんなこったアナタが引き寄せたんだろうアナタがいなきゃやってこなかったアイツが神銃を彩香に渡したやつを。他にも真逆まさかアナタと同じような輩がいるとは思わなかった説明もしてくれなかった糞みたいな奴だなマジで蛆に塗れて死んで欲しいぜ什麼せ死なないのだろうがな永劫普遍に年齢が変わらない存在であらせられまするアナタはいやな咲いを浮かべやがって嗚呼このリボルバーをその口に突っ込んで鉄の味を覚えさせたいにやけた顔だな孰れこの最後の一弾を喰らわしてやるよさて彩香だアイツは神銃を得て悪心を起こしたきっとあたしより世界を憎んでいたのだろう数日後に騒ぎを起こした拳銃を手に持って商店街で暴れたんだそれが明らかになったのがテレビの中継で彩香の名前を見た成人してたから実名報道されてされてたんだあたしはその時食べていた冷凍食品の担担麺をうっちゃって急いでその場所に走り出したその時はっきり見た彩香の後ろに少女のアナタとは別の少女の影が寄り添うように立っているのを見た彩香に取り憑いた霊というのはアナタではなくてまた似て非なる存在だったというわけだ神銃を彩香に与えてよからぬ道に誘いやがったのだ「ほら僕と違うでしょ」アナタはあたしの耳元で囁く「什麼でもいいアイツを止めたいのだが」あたしは言った「皆の前で騒ぎを起こしたら君も捕まるよ」アナタは常識的に答えた小憎たらしいぐらい常識的な答えだな阿呆あたしは彩香に声を掛けた「そんなことをするのは止めろ」ってだが遠くからだったのもあってか彩香は答えなかったまああたしとはほとんど繋がりがないんだから反応が薄いのも仕方ないなだが銃口を向けては大変なことになる警察に任せるしかない彩香は銃口を向けている既に射撃ったらしく銃口からは煙が出ていた実際彩香の横には二人仆れていた彩香は微咲んでいた幸せそうにあたしも初めて射撃ったときにはそうだっただが瞞されてはだめだお前の横に立っている奴らはニヤニヤ咲ってあたしらの人生を食い潰すここにいい見本がいるってあたしのことだ今まで嫌なやつを射撃ってきたつもりだったのに大切な早苗を射撃ってしまったお前が人を傷付けようとすればかならず大切なものを失うこれがアナタの言った人生が虚しくなると言う意味なんだなとはっきりわかったんだそんなことを伝えたかったしかしここは大勢の前だ警官隊が商店街の彩玻璃ステンドグラス張りのアーケードの両側の方面から防楯を手に持ちながら彩香に迫っていたもちろんあたしに近づける余地はない思いを伝えることはとても難しかった結局彩香は皆に押しかかられそうになったその時だ鋭い銃声が響いた自らの頤を彩香は射撃いたのだ凄まじい音を立てて彩香は路面に仆れたそれとともに彩香の横にいた少女は消えていたそして神銃も彩香の手から消えていた警官隊は近付いて彩香は確保されたが死んでいなかったもちろん仆れた人たちも瑕ひとつなかっただが彩香はしばらく留置場に入れられて世間を騒がせた割には起訴されずに釈放されたがあたしは知っている神銃の本領はこれからなのだ実際射撃れた二人のその後は知らないが少なくとも彩香は凄まじいことになった包帯で身体をグルグル巻きにされ片脚を天井から吊られていたどこでそんな骨折をしたのか皆目見当付かない実際彩香の家族も見当が付かなかった気がついたら釈放されて戻ってきたらその帰途に彩香の身体に想像を絶した損壊が加えて血まみれになっていたとの話だ誰がやったのかもわからなかった包帯の間から血走った目があたしを見詰めるばかりだった厭な気分になったよ銃の威力は凄まじいと心の底から思ったねだがそうだったあたしも四発目を使ったんだった彩香を止めようとして撃とうとしても警察の手前そんなことが出来なかったあたしは四発目をなんとか使ってやりたいと言う妄執に囚われ始めた弾を使い切ってこの銃とおさらばしたいと思い始めたんだな自分を射撃って終わらせるという選択肢はもうとっくに消えていた彩香みたいに痛い目を見るのは嫌だ健康で長く生きたいという渇望がわいてきていた今まで辛いことばっかりだったがこれからは絶対に得をする勝ちの側に回るんだという考えが頭の中で固まってきたんだそれで一番悪い奴を撃ってやろうと教師になって就職する前の冬休みは方方駈け回ったもののなかなかぶち当たりはしなかったぜ撃って良いと思えるほどのやつでも有名なやつは護衛もいるだから狙えない少なくとも神銃や撃たれるところを見られてはいけないからあたしが見た中でこいつは許せねえと感じたやつじゃなきゃいけないなかなか捜すのに苦心して結局繁華街で女を引っ掛けようとしていたホストを路地でマックの紙袋に隠していた神銃で射撃ち仆したあたしにも声を掛けて来てうざく感じたからだが一人再起不能にしたところで何にもならないお袋を苦しめた闇金の連中とおんなじだ春になって教師として働き始めたこの時白衣を身に纏った大学ではたまにしか実習先ではまったく着なかったからな例の子供時代からある全身鏡に映すとあたしがあたしじゃないようで偉くなったようで嬉しかったよ最初の勤務先に行くと保健室に毎日アナタがやってきた「あと二発だね次は誰にするの」いつもそう囁き掛けた「キミが好きな相手にしなよもちろん僕でも良いよやってみなよ」罠だと感じた今現在アナタに最後の最後の六発目を撃ち込んでやろうと思い詰めましたるあたしでも当初はそんな気にはなれなかった眼の前にいつもやってくるリコーダーを吹く鞄から生えた羽を動かす中学生の餓鬼の姿をしたアナタなどを撃ったところで何も得られるものはないと考えたからだが運命の骰子は振られてとうとうこんなところまできちまったその前に五発目について話さなきゃならねえアナタ以外に保健室にやってくる生徒に郁美がいた身体が弱いつうか心が弱いんだなクラスになじめなくていつもここに来るらしいあたしは最初になじんでくれた生徒が可愛くって可愛くって可愛くってよ甘やかしているとはわかっていても体調が良くないってことにしてずる休みを許してやっていた早苗の影響で養護教諭になったあたし自身には保健室で休むなんて発想はとても思い浮かばない子供時代だったがきっと早苗も保健室の常連だったのだろうと考えると微咲ましい気分になった繋がりのない人間ばかりの勤務先はとても爽快だったあたしも「気さくで男勝りの先生」って言うキャラでやっていけたし保健室の常連の野球部や柔道部や陸上部の連中も仲良くなった子供の頃は威圧感を覚えた連中だったが普通の人間と同じように嫌な奴もいれば良い奴もいるという単純な理がわかれば邪念なく応対できるようになったなかにはいつきと言う野球部でもびりっけつの少年がいた郁美は最初は恐がっていたが樹にも内向的な部分があることがわかり親しくなっていったようだあたしは微咲ましく見ていたよ二人が付き合ってることがわかったのが一ヶ月ぐらい後だレズビアンのあたしは関心がない分野だったがこっそり応援はしていたよこっそりこっそりとはなだが野球部の他のメンツは決して喜びはしなかったようだ最下級のやつに自分より先に彼女が出来たんで許せるわけがないに極まっている樹はぼこぼこに撲られて保健室に駈け込んできた手当をしてやりながらあたしは腹が立ったよ顔見知りがそんな目に遭うなんて腹が立った部屋の隅で泣き続ける樹を横目に見やりながら什麼他の教師に報告するか考えているとアナタも部屋に入ってきやがったあたしは無視を極め込んだが「学校で騒ぎを起こすの」とアナタがからかうように言ってくるのに対して「真逆」と答えるあたし「でも銃を使うんでしょ」と言われたのでそんなん自分で何とか解決するよと返してやっただがさてなかなかその方法が見つからない第一あたしは野球部の顧問でも何でもないし部外者だ樹とは保健室でしか関わりがない苛められたことは自分が郁美には伝えないでくれって樹は繰り返し言ってたあたしもそれを守っただがそんな情報は孰れ伝わるだろう郁美は心配そうな顔で先生先生言いながらやってきた「什麼すればいいんでしょうか」あたしもそれがすぐに答えられるなら苦労はない言葉に詰まったよだが本人は言って欲しくないだろうから樹には伝えないでやってくれとフォローするしかなかったね郁美も素直な子だ頷いていたよでも樹は繰り返しボコられて保健室に来ると顧問の先生まで馬鹿にするんだと言うではないかあたしは怒ったね部室まで殴り込んでいったら「先生怒らなくてもいいじゃないですかこれぐらい運動部では普通でしてね軽いじゃれ合いみたいなもんですよ」と相手は答える「んなわけねえだろうがよ」あたしは敬語も忘れて怒鳴ったでも顧問は顔を顰めるだけで樹を救ってやろうともしないあたしの後ろに隠れながら樹は暗い顔になっていたよあたしが帰った後事件は起こった樹が大怪我を負って担ぎ込まれたんだ顔をぱんぱんに腫れ上がらせて骨折していたあたしが病院に連れていったら野球はもう出来ないだろうと言われたね昔から思ってたことだ己に力がないと他からは舐められるし酷い目に遭うんだ樹は撲られた顔を当時出始めていたSNSに晒され学校内に知れ渡った「もう死にたいよ」と樹が漏らしていることを郁美からあたしは知った死なせたくない死なせるものかと思ったあたしは担任する生徒でもないのに家に押しかけた後から問題になるかも知れないってことはわかっていたでも什麼しようもなかったんだでも家に行ってみたら泣き腫らした眼で両親が出てきて樹は首を吊って死んだという畜生よりにもよって早苗と同じだなんてそんな早苗は死ななかったあたしに神銃で射撃れたあたしがいても助からなかった樹だって同じだ郁美がいるのになんで死ぬんだよ学校なんかいかなけりゃいいじゃねえかなんでだよなんでなんで幾ら繰り返しても眼の前でアナタが咲うだけだあたしは顧問を神銃で撃つことにしたもちろん学校でやるわけじゃないやつの通勤路を知っているから朝早くから待ち伏せして例によって防犯カメラには気を使いながら初任給で買ったヴィヴィアン・ウェストウッドのポーチバッグから神銃を取り出したら「そんな玩具の銃で先生什麼しちゃったんですか」って咲いながら言うからお前が樹を殺したようなもんだって言ったら「死ぬ生徒なんてある程度は出てしまうものなんです。この世は弱肉強食なんですよ」相手は答えた「全く同感だ」とあたしは応じた「そうでしょうそうでしょう」「ならここであたしがあんたを射撃っても良いな」と言葉を放つと同時に射撃った顧問はぶっ仆れたよあたしは何事もなかったように歩き去ったいろいろ人づてで情報を訊いたけど目玉が飛び出て見えるほど痩せこけてのたくった大腸が腹の皮から透けて見えるようになってもすぐに死ぬことが出来なかったらしく痛快極まりなかったねざまあみやがれ郁美は嘆き悲しんでいたけど三年になる頃にはすっかり元気になって新しい彼氏も出来たらしい悲しいけどそんなもんなんだなって思った。さて色んな学校に勤めるうちにあたしは神銃の弾丸をシリンダーから抜いておいたその頃一人暮らしもするようになったしなもう部屋の鍵付き金庫にしまって二度と使わないと思っていたが彩香の例を見るにつけても役割を果たした神銃は消えると言うことは最後に誰か射撃ったほうが良いんじゃないかと思い始めたあたしは六発目最後の一発で母親を射撃とうと考えたやつはあたしとよく似ているだから今まで撃つ気は起こらなかったが最後の最後に極めるなら母親だなって思ったんだよそれで住民票を取得したり戸籍を謄写したりであたしの生まれのことがよくわかりお袋がどこに住んでいるかすらも突きとめた探偵を使わずにこれだけ出来たんだから大したもんだろで出勤前の朝一番水色のカットソーに白衣の勝負服を引っ掛けてお袋の住んでいるぼろいアパートにいって待ち伏せしたら部屋から顔を出したこっちと眼が合って匆匆足早に遁げやがるあたしは全速力で追いかけたら盛大に蹴躓いてグンゼの黒ストッキングを盛大に引き破いたのさ脚に縫い取られたような赤い瑕を負って血が流れ続けていたけどハイヒールも脱げたけど構わずに追いかけたお袋は疲れてきたのか途中でバテてしまい路上で息を吐いていたがあたしは神銃を取り出して構えたお袋が顔を上げたんで二人は見つめ合った「なんであたしを捨てた」心から叫んだよあの時黙って出ていったりなんかせずにあたしを抱きしめてくれていたらその後の人生が苦しくても耐え切れるものになっていたかも知れないのに什麼してお前はお前はお前はもう言葉も出なかった顔に皺が増したお袋は涙を涕しながら「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」を繰り返すばかりだったその金髪の中には早くも白髪が混じり始めていたあたしは銃口を下に向けた咲ったよだってあたしは弾丸をシリンダーから抜いたままだったんだ弾はもう一発だけだったからそれがないとただの空の銃だ母親を射撃つ気なんて端からあたしにはなかったんだ「馬鹿野郎」と言って走り去ったよ親子らしい言葉を最後まで交わすことが出来ずに辛い辛いしかも今の姿を防犯カメラは捉えていた時代はまさに現代ついさっき前のことだからなあハイヒールすら拾わずに学校に来ていつも通り保健の授業を無事に終えいや生徒は引きながらあたしの白衣を見てた血がこびり付いていたんだなはははははは授業が終わって放課後になるとアナタは姿を現したってわけだこれであたしはアナタに銃を射撃ち込むことに極めたよ銃刀法違反で取り調べされたら言い遁れできないあたしは結局アナタかあたし自身かを射撃ち抜くことでしか神銃とおさらばできないのだしかもあたしには自分を射撃ち抜く趣味なんざこれっぽっちもないからアナタで極まりだアナタアナタアナタさあ弾丸を詰めたシリンダーが廻るシリンダーが廻るぜお前をこれで不幸にしてやれるあたしが射撃ったやつらも時が来れば順当に死を迎え不幸からは解放されただろうがアナタのように死にはしない存在が永遠に不幸になり続けるのは爽快じゃないかさあ照星で狙いを定めました引き金に手を掛けました一発目撃てない什麼してだ空か仕方ねえですね板張りの天井に映る影校内放送の途絶えてスピーカーが唖と化した午後四時になったばかりの瞬間二発目空そうだ思い出した花子の喉が跳ねるように鳴るところをあたしは愉しんでいた全身鏡に映る痩せた己の姿咲みは顔を横に咲くように広がる赤い光が教室を満たしていくアナタの咲いはなお高まる三発目空早苗の歪んで苦しんだ顔をあたしは実は見ていただけど忘れようとした少しでも傍に寄りたいと感じたのに離れないといけない居酒屋の赤提灯の光がここにも届いているのか天井の円形の蛍光灯部屋の隅に転がった酒瓶四発目空弾丸はバレルの内側で螺旋にうねる長い施条を通ってアナタの額で爆ぜるはずだ彩玻璃が陽光を直射して彩香の額に差すここで射撃ったところで什麼なる五発目空樹が吊ったときカーテンは風に戦いでいた昼日中影は長く展びていたさあこれで最後だ五発全て空だったとは運の良いことだなそれなのにアナタは遁げもせずこの場を離れもしないお袋の影そうだあたしは一緒に歩いていた寄り添っていたもうごくごく小さい時だ迷子になってやっと逢えたのが嬉しかったんだ六発目空空空什麼してだ最後の弾丸はどこへいったんだよ糞が薬莢の臭いすらしやがらないいつのまにか教室は遠くに飛び去って光赤い光だけが満ちる窓が開く光が差す満ちる人はいなくなるここはなにもない真っ暗だ独りだあたしは独りだ音はしない音はしないただリコーダーが響くそうだこれが最期の瞬間に近いんだあたしはまだ子供部屋の中にいてアナタの姿を見ている手には神銃が握られている銃口をあたしは頭に当てているこれで終わりだ射撃ち抜く射撃ち抜け射撃ち抜こう射撃ち抜けよ射撃ち抜いた射撃ち抜

#創作大賞2023

#イラストストーリー部門


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