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今後の動向が気になる「事業承継・M&A業界の最新事情」

1.事業承継を取り巻く環境

 中小企業の事業承継が深刻な問題だ。経済産業省と中小企業庁の試算によると、「今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定」といわれている。「このまま現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる」 可能性 があるという。特に地方において、後継者問題は深刻な状況であり、このままでは地域経済の担い手である中小企業の減少により、地方経済の衰退を加速させてしまう恐れがある。
 同時に休廃業・解散企業の中身についても注目し、後継者不在で廃業を選択する企業が増加していること、廃業を選択する約5割の企業が黒字であることから、事業承継は喫緊の課題であることが分かる。
 政府はこのような状況を問題視し、H29年7月に中小企業庁は今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする「事業承継5ヶ年計画」を策定した。中小企業経営者の高齢化の進展等を踏まえ、地域の事業を次世代にしっかりと引き継ぐとともに、事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極的にチャレンジしやすい環境を整備する。
 こうした状況を鑑みた国の事業承継対策は、事業承継税制の特例制度や事業承継補助金、事業引継ぎ支援センターの設置、事業承継ネットワークの構築等、拡充され続けている。
このような背景をベースに、後継者がいない場合の解決策の一つとして、中小企業のM&Aニーズは増加傾向にある。
 しかし、従来メガバンクやM&A専門会社といった民間企業の手掛けるM&Aは、年商数億円以上のディールが多数を占め、中小企業とりわけ小規模事業者のM&Aは手数料の問題から、なかなか進んでこなかった。地域金融機関による事業承継支援も、近年まで年商3億円以下の領域は、ほとんど行われてこなかった。
 そうした中、従来型M&Aの常識を覆す企業が今注目を浴びている。株式会社トランビ(以下TRANBI)である。

2.オンラインで情報オープン 

 通常M&Aは情報の秘匿性の観点から、クローズした環境で行なわれる。そのため一般的には、初期の情報提供時に使用されるノンネーム情報(譲渡対象となる会社・事業を特定できないように匿名ベースでその概要を簡単に要約したもの)に関しても、一般開示されることは従来なかった。
 しかしTRANBIでは従来の常識を覆し、これら情報がオンライン上でオープンになっている。誰でも売り手候補の情報を閲覧することが可能となっているのである。すなわち、事業を譲りたい方(売り手)と事業を引き受けたい方(買い手)をWEB上でマッチングする、日本初のインターネットを活用した事業承継・M&Aマーケットを構築したのである。売り手候補の案件は常時800件を超えているという。(2019年1月末日現在)

3.想像を超えるめぐり逢い

 「TRANBIから生まれるのは想像を超える『めぐり逢い』」であるという。想像を超えるめぐり逢いとはどういうことか?
従来、後継者不在等の理由から事業売却を考えている事業者にとって、自ら引受先を探すことや関係機関への相談だけでは、条件の合う承継候補者を複数見つけることは困難であった。しかし、事業売却を考えている売り手がTRANBIに案件を登録することで、平均11社(2018年11月現在)の買い手を無料で見つけることが可能だという。事業を大切に育てた経営者にとって、複数の候補者と巡り合えるということは、経営者の大切な思いを紡いでくれる可能性がそれだけ広がることを意味する。
 登録ユーザ数は20,572件、累計M&A案件数2,202件、累計マッチング数は9,336件となっており、マッチングは日々成立している。また提携している M&A専門家数は71社(金融機関含めると173社)となっており、サポートを受けることも可能となっている。(2019年1月末日現在)

4.創業の思い 

 TRANBIが生まれるきっかけはどういった経緯からだろうか?
 代表取締役の高橋氏自身も事業承継を経験しているのだが、このビジネスを始めたきっかけは、事業承継を通じて自身が目の当たりにする惨状にあった。
 高橋氏はアクセンチュア出身であり、父親が創業した家業を継ぐため2005年に長野に戻り、2010年に代表となった。そこで目にしたのは、毎年のように後継者不足を理由に廃業をしていく仕入先・取引先であった。これらの会社は黒字の企業も多く、中にはオンリーワンの製品を持つ優良会社も少なくなかった。しかし多くの企業は売上が数億円未満の中小企業であり、この規模の会社のM&Aによる事業承継を引き受けてくれるM&Aの専門家はいなかった。小規模事業者のM&Aは、かかるコストに対して得られる報酬が少なすぎるためである。そこで、小規模事業者でもマッチングが可能な方法を模索する中で自らTRANBIを立ち上げた。
 現在、国内の法人等数の80%超は、小規模事業者が占めているが、TRANBIのプラットフォームを活用することで、そうした小規模事業者でもM&Aを活用した事業存続可能性の道が開かれたのである。

5.売り手は手数料が無料!

 中小企業のM&Aでは、売り手と買い手をマッチングさせるための相手探しに時間とコストが最もかかっている。そこで、そのボトルネックを解消するために、ITの力を活用しオンライン上で売り手と買い手をマッチングすることで、相手探しにかかるコストを従来の10分の1以下に下げ時間を劇的に短縮化しているのである。
 マッチングサイトの多くは仕組みが曖昧であったり、金銭的な負担が多かったりしたのだが、TRANBIは日本に多い中小企業とりわけ小規模事業者にも取り入れやすいよう、売り手側は無料という仕組みを取り入れている。さらに、買い手も成約価額の3%という従来では考えられなかった破格の手数料となっている。

成約までの流れは以下のようになっている。
ステップ1:案件の登録
M&A案件を登録することにより、TRANBI上で即時に匿名のまま公開される。ノンネームデータはだれでも見ることができる
ステップ2:匿名での交渉
買い手候補の中から、適した相手を選び交渉に入る。最初のやり取りは、SNSの匿名のやり取りのイメージである。
ステップ3:実名交渉の申請・承認
具体的に交渉に進むため、実名交渉の申請や秘密保持契約の締結に入る。買い手から実名交渉依頼が入れば社名が開示されるシステムになっている。
ステップ4:実名で交渉
実名交渉に移行し、電話や面談でお互いに条件を確認し、買い手との具体的な交渉を進める。
ステップ5:最終合意・譲渡契約の締結
最終契約の締結に移行。事業譲渡契約や株式譲渡契約行なう。

6.M&Aは地域経済存続のために必須

 事業の存続はそこで働く従業員やその家族、取引先や仕入先といった事業に関わる全ての関係者にとって重要なことは言うまでもない。過去にはM&Aがマネーゲームなどと揶揄されて久しいが、M&Aは地域経済存続のために欠かせない選択肢の一つとなっている。
 企業の規模に関係なく事業者の目線に立つTRANBIのような企業によって、事業承継が促進され、地域経済が救われることを期待してやまない。

※本記事は筆者が月刊企業診断で連載中の記事より抜粋しております。

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