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外食業界の最新事情             テクノロジーで顧客体験を追求するCRISP

 皆さんはクリスプサラダワークスというサラダ専門店をご存じですか?サラダ専門店は、近年増えつつありますが、普及前から牽引しているリーディングカンパニーと言えるでしょう。
 私も何度か食べたことがありますが、そのボリュームと食感は本当に癖になり、近くにあれば毎週食べたいと思っています。※23区内の展開中心で、近くに無いのが残念です。。。
今回はそんなクリスプサラダワークスさんについての考察です。

1.外食産業の動向

 外食業界の市場規模は、人口減や高齢化、低価格化の進展、中食市場の拡大といった要因から、1997年をピークに減少傾向で推移していましたが、2011年を境に、インバウンド需要の取り込み、食材費の高騰や人件費の上昇による商品単価の引上げといった要因から、市場規模は拡大基調に転じました。
 しかし、2020年の新型コロナウイルスにより状況は一変し、外食業界に深刻な影響がでたことは記憶に新しいところです。一般社団法人日本フードサービス協会[i](以下JF)の調査によると、2020年の外食産業全体の売上高前年比率は 84.9%と、1994年の調査開始以来、最大の下げ幅となったようです。
 業態別では、テイクアウト・デリバリー需要に支えられた「ファーストフード」(96.3%)のような業態も一部ありましたが、時短要請や休業要請の影響が最も大きい「パブレストラン/居酒屋」(50.5%)を筆頭に、店内飲食を主とする「ファミリーレストラン」(77.6%)、「喫茶」(69.0%)、「ディナーレストラン」(64.3%)等、外食産業全体へのダメージは大きかったようです。
 外食産業本来の姿は、店内で食事を楽しんでもらうことです。しかし、時短要請、感染を避ける消費行動、テレワークなどの働き方の変化により、「店内飲食」「ディナー時間帯」などの業態・店舗から、「テイクアウト・デリバリー」「ランチタイム」等への業態・店舗にシフトする傾向がみられました。
 また、以前から推進されていたキャッシュレス化がさらに加速しました。感染予防のために電子決済の利用者も増え、券売機、セルフオーダー端末、セルフレジやモバイルオーダーも進展しました。

2.サラダ専門店のリーディング企業CRISP

 こうした中で、斬新なアイデアとデジタルを駆使し成長を続ける企業が存在します。日本ではほぼ認知されていなかった「チョップドサラダ」をアメリカから持ち込み、カスタムサラダ専門店「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」を展開する株式会社CRISP(代表 宮野浩史氏)です。
 同社のHPでは、「熱狂的ファンをつくる」というミッションのもと、ボリュームのある高品質なサラダを提供するサラダ専門店のリーディング企業です。メニューは「シグニチャーサラダ」と「カスタムサラダ」、それにドリンクのみのシンプルな設定ながら、都内を中心に年間70万人以上の顧客に利用されているとのことです。
 2014年に麻布十番に一号店を出展してから、現在は東京都内に21店舗(2023年3月現在https://crisp.co.jp/location)を構えるほか、オフィス配送のCRISP BASEを約70拠点展開している。
 従来、国内でのサラダに対する位置づけは前菜や付け合わせという概念が強く主食とはなりにくかったのですが、主にアメリカではデリを中心に主食としてよく食べられており人気となっています。

3.テクノロジーで外食の顧客体験を再定義

 同社はテクノロジーで顧客体験を最大化し、非連続な成長と高い収益率を実現する新しい外食企業「コネクティッド・レストラン」を目指しています。
 レストランの価値源泉である「商品力」「業態力」「接客力」をコアに置きつつ、テクノロジー・デザイン・ヘルス・ロボティクス・ロジスティクスの力を加えることで、外食産業を飛躍的に成長させることが可能と考られています[iii]。
 但し同社が目指す「コネクティッド・レストラン」の価値の源泉はあくまでも「料理(商品力)」「空間(業態力)」「人(接客力)」であり、外食業界においてDXがどれだけ進展したとしても、これらは不変とのこと。
 機械が出来る事はとことん機械に任せ、人にしかできない顧客体験の提供こそが価値の源泉であると考えられています。

4.データドリブンなレストラン

 飲食店の評価というと回転率や人時売上高など様々な指標がありますが、顧客体験を重視する同社は、CAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)、とLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の2つの指標を重視しています。
 ですが、LTVを計測するのは実は容易ではありません。ところが、同社の店頭には「CRISP KIOSK」と呼ばれる受注システムが整備され、殆どの店舗でキャッシュレス化が進んでおり、購買履歴が把握しやすい状況にあります。
 さらに、2021年10月にはCRISPでサラダを購入する際、店頭KIOSKでも電話番号の入力とユーザー登録が必須となりました。[ii]
 さらに、同社では常識を覆すユニークな取り組みを行なっています。通常データを重視する企業では、データは最も重要な資産です。しかし、同社では、通常非公開となっている、店舗売上やHP閲覧数、顧客来店回数など重要指標をリアルタイムでホームページ上に公表しているのです。
 代表の宮野氏は公表理由を次のように述べています。(以下筆者による要約)
 「数年後にはデータを駆使したIT企業のような外食企業は増えてくるが、(公開することで)それが少しでも早まらないか。また、データに関心を持った優秀な人材を採用したい。」「外食業界に優秀な企業は増えてほしい。いまのフェーズでは、隠すよりオープン化し、互いに情報共有し合う方が、メリットがある。」[iii]
 これは、オープン戦略に基づいた戦略であるといえますが、何とも大胆な戦略ですね。

5.熱狂的なファン獲得と本質的価値の追求

 現在同社は、定期配送型サブスクリプションサービス「CRISP REPLENISH(クリスプ・リプレニッシュ)」など新しい取り組みを進めています(本サービスは2022年6月終了)。
 そして、2021年11月には、さらに常識を覆す取り組みをスタートした。レジ会計のない全くない、サラダストア「CRISP STATION(クリスプ・ステーション)」1号店を東京・丸ビルにオープンしました。
 サラダはどれも同じ価格であり、今日の気分で好きなサラダを選び冷蔵庫から手にとって出ていくだけという。好きな場所で食べたあとはパッケージのQRコードからワンタップで決済。顧客の大切な時間を少しでも長くサラダを楽しむために使って欲しいという思いの結果、レジ会計を省いたのです。
 現段階では実証実験的な位置づけのため、盗難などの課題も残りますが顧客体験を最優先課題としている同社らしい取り組みです。
 従来までの外食産業の常識を覆し続ける株式会社CRISP。その根底には、「熱狂的なファン」の獲得と「本質的な価値」の追求が存在するのでしょう。

※本記事は月間企業診断2021年6月号を基に加筆修正して掲載しています。


[i] http://www.jfnet.or.jp/index.html
[ii] https://note.com/hiroshimiyano/n/nfa8798bbb0e6
[iii] https://note.com/hiroshimiyano/n/n79182b1d5a58



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