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事例で学ぶ認知症の知識とケア⑩認知症の人の暮らしとパーソン・センタード・ケア

今日も質問が来ていました。
認知症の人が在宅で生活していて、何に気を付けたらよいのですか?その後どうなるのですか?というご質問でした。


認知症の人の通る道は多様

認知症は、これまでできていた生活機能、社会的な機能が脳の病気によって低下している状態を指します。そしてそれは進行性であると定義されています。ですから、認知症と診断されて、進行が認められれば、いずれはできることがどんどん少なくなっていきます。

その機能の低下が、どのように進んでいくのかは、脳の病気の影響だけではありません。その人の持つ持病、手術歴などの健康状態や聴覚障害、視覚障害などの併存症も影響します。またその人の生活歴、性格、環境や人間関係も影響します。

私たちが見ている認知症の人の姿は、以下のものが組み合わさっている最終系を見ているとも言えます。

認知症の経験=脳の障害
      +心と体の健康状態
      +生活歴
      +性格傾向
      +今の生活環境や人間関係

キットウッド 認知症のパーソン・センタード・モデル


豊かな生活を送れるかどうかは、周囲の人も影響する

私は、最重度の認知症になった人を多く看取ってきました。その中で感じたことは、この認知症の経過は、同じ病気が原因の認知症の人であっても、それぞれ大きく異なるということです。キットウッドの公式はそれを解釈してくれるツールであると思っています。

脳の障害に対して、その人に合った適切な治療がなされている。脳の障害、つまり記憶の障害、実行する障害、道具がうまく使えない、見えない、時間や場所がわからない、言葉が理解できない、コミュニケーション困難などに対して適切な配慮がなされている。また進行に応じて支援を変えている。

健康状態への配慮。癌があれば緩和ケアが施され、難聴があればスピーカーなどで聞き取りやすくしてもらい、皮膚症状に対応され、便秘や下痢にも適切に対応してもらえている。

生活歴を知っている人がかかわってくれる。”本来の自分でいる”こと、これまでの人生についての積み重ねを知っている人が周囲にいる。それは幼少期・思春期から学校生活、成人した後のことも含まれます。それを知ろうとするプロセスを周囲の人が行うことに意義があると感じるチームでかかわっている。
その人の生活スタイルにあった食べ物や飲み物、衣服、身の回りのことに関して毎日行うこと、活動、他の人との交流などがその人の症状に応じて提供されている。

その人の性格傾向は、独自のもの。脳疾患のせいとばかり考えず、周囲の人がその人の性格を理解しようという心持ちが必要となる。

そして、その人が今ここに生きることについて”実感”していることをわかろうとする努力をすること。その人の5つの心理的ニーズ、くつろぎ(やすらぎ)、たずさわること、愛着、結びつき、アイデンティティ(自分が自分であること)、共にあること、が満たされるようなかかわりがなされていること。


事例

80代女性、次女夫婦と人暮らし
レビー小体型認知症で、在宅療養中。訪問看護の支援を受けながら生活している。1年ほど前から座位になると血圧低下から意識が低下するため、ベット上の生活を送っている。次女がケアを担っている。
症状は多彩であるが、レビー小体型認知症の特徴的な症状である、幻視は薬剤により適度にコントロールされ、本人の不安は少ない。睡眠障害についても本人の生活パターンに応じた形で長時間の睡眠がとれるように生活を変えている。褥瘡ができないようにエアマットが導入されている。
嚥下の機能が低下しており、柔らかい食事の提供方法について栄養士や言語聴覚士から指導してもらっている。
週2回の訪問入浴サービスを利用して、体は清潔に保たれ、適切に保湿されている。
好きな音楽を流してもらい、ベットの上でくつろいでいる。

次女は、長時間にわたるケアで疲れているが、母親のケアが続けられることに満足している。幻視や不眠の症状が少なくなったことから、落ち着いて休めるようになった。今のところヘルパーなどは利用は希望されずに様子を見ている。

複数の事例をもとに創作


それぞれの人に応じたケアを

上記のように、一人ひとり、ケアの環境は異なります。この人にはこのケアが良くても、他の人には適応できないことがたくさんあります。治療に使う処方薬も一人ひとり調合が異なります。
施設におけるケアでも同じだと思います。一人ひとりのケアがあると思います。施設によっても異なるでしょう。
誰も好きで認知症になるわけではありません。予防していなかったから認知症になったわけでもありません。歳を重ねていく中で、他の病気にならなければ、認知症の状態になるともいえるかもしれません。これを遅らせることはできたとしても、早かれ遅かれ起こることであると感じています。
私も医師ですが、ケアを提供する一人です。これから認知症となる一人であるかもしれません。かかわる人たちが、その人の状態を把握して、その変化に対応し、豊かな暮らしを維持できるようにかかわっていければと思っています。




最近出版した認知症に関する本です。認知症に1人で向き合わない!を合言葉に、こんな症状が出たら、誰に相談するか、どんなサービスや制度を使うかに焦点を当てました。よろしかったらお手に取っていただければと思います。Kindle版もでました。iPADなどのタブレットをお持ちの方には結構お勧めです。


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