見出し画像

仕事と介護の両立支援(読書感想文)

仕事は辞めない!働く×介護 両立の教科書 
日経BP (2023/9/15)
https://amzn.asia/d/dMV4dQm

この本の良い点は、介護について人に頼ることを肯定的にとらえている点だ。介護は家族でするものという2000年代までの考え方と一線を画している。介護は家族だけでやるものではないと明言している。

また、介護休暇は、休んで介護するためのものではなく、仕事と介護の両立体制を組むために利用するものだと述べている。これは、両立支援を促す部署や介護休暇を取得する従業員にとって、大きなヒントになるだろう。

さらに、在宅介護と施設介護の両方について、具体的な事例を挙げながら解説している。これは、介護の選択肢を検討している人にとって、非常に参考になる内容だ。

この本の気になる点は、冒頭の事例だ。大腿骨頚部骨折を起こした親の介護について、早期に包括支援センターに相談して、介護認定を受け、暫定でヘルパーのサービスを利用することを勧めている。しかし昨今、介護認定のための訪問調査にはかなり時間がかかり、現実的でない部分もある。また、大腿骨頚部骨折では一人で生活できない状態であれば、回復期リハビリ病棟でのリハビリ継続が行われることが多い。医療機関のソーシャルワーカーや医師、看護師の情報提供が非常に重要である。これは介護の問題というよりも医療と介護のはざまの問題ともいえる。

また、認知症に関しては、多数の疾患が含まれて多様な症状が出現すると記載されている。一方でアルツハイマー型認知症の進行についての記載が、認知症の進行のように記載されている。そのため、認知症の種類によって異なる症状への対応や制度についてのポイントが、わかりづらい印象を受けた。

この本は、介護と仕事の両立支援クラウド「LCAT」を開発しているリクシスのCCO(チーフ・ケア・オフィサー)が著者で、日経クロスウーマンが編集している。そのため、従業員の人に役に立つ部分と、両立支援を担当する部署向けの記述が半々ぐらいであろう。

この本は、介護と仕事の両立という、身近な課題に挑む人たちの、参考になると思われる。

≪目次≫
はじめに 介護の始まり

第1章 介護と仕事の両立
1 あなたの介護リテラシーをチェック
 「早期発見・早期対応」とは、どれくらい早く?
 何はともあれ「地域包括支援センター」に相談
 介護リテラシーチェック
2 仕事と介護の両立のために ~なぜ仕事を辞めてはいけないのか?~
 介護休暇は介護するための休暇ではない!
 会社の介護支援制度はニーズに応えているか?
 いざというときに「上司に相談」したけれど…
 必要なのは休みやすい職場より、休まずに介護をこなす知識
 無理は続かない

第2章 これだけは押さえたい「働く×介護の両立」基礎知識
1 介護にとって最も重要なこと
 本人の強みを理解することで介護を受ける人の生活の質が上がる
 なぜ親の人生への理解が介護の質や家族の負担に影響するのか
 直接聞きづらいとき、どうやって切り出すか
2 在宅か施設か? 介護サービスの知識
 介護=施設に入居、ではない
 介護保険サービスの仕組みを知ろう
 介護保険で使える在宅介護サービス
 介護施設の種類は多種多様
 「老人ホームは順番待ちで入れない」は本当?
 在宅と施設の中間? 地域密着型サービス
3 今から考えておくお金の準備
 介護って結局いくらかかるんですか?
 介護費用を左右するのは介護方針 
 介護方針を決める条件とは
 お金は誰が出す?

第3章 「健康寿命」を延ばすには? 
1 老いのメカニズムを知る
 「高齢者の健康」は「現役世代の健康」とは別物
 要介護状態になる原因は2つ 「老化」と「生活習慣病」
 ゆるやかな衰え「フレイル」
 フレイルの兆候を見逃さないために
 健康寿命を延ばすには「栄養」「運動」「社会参加」
 入院がリスクに? 10日寝たきりで9%の筋肉が消える
2 健康寿命を延ばす「食」
 認知機能低下も? 最大のリスクは低栄養
 「健康的な体形」は年齢によって変わる
 歯の健康が健康寿命を左右 
 高齢者の一人ごはんはリスクに 
3 認知症と向き合うために
 生活に支障がなければ認知症とは呼ばない?
 認知症の原因疾患は80種類以上! 原因によって症状も違う
 認知症の初期対応、どうすればいい? 
 家族が認知症と分かったら

第4章 ケーススタディ  
 ケース1 離れて暮らす親の介護 カギはチームづくり
  母の認知症、父の入院をきっかけに介護サービス導入
  周囲の人に状況を知ってもらうことで協力を得る
  両親の自立した生活を守り、仕事も自分の人生も諦めない 
 ケース2 3人の介護をフルタイムで働きながら! カギは各種サービスの利用 
  各種申請手続きに空き家問題。効率化が最大のカギ
  施設に入った父と兄の生活基盤の整備を一人で担うことに
  家族や親戚のサポートに加え、有償サービスも積極活用
 ケース3 「認知症は怖くない」最初にこじらせた私だから言える
  良好な関係だった義母の性格が突然変わった  
  言ってはいけなかった一言  
  対処法が分かっていれば、認知症は怖くない 
 ケース4 遠距離だから冷静に 「親不孝介護」成功のポイント
  母のたわいのないうそに怒りが抑えられない
  母の異変に頭をよぎった「同居するべきか否か」
  母が倒れた! 医療と介護のスムーズな連携のカギはかかりつけ医
  施設入居で精神的にも経済的にも楽に

第5章 介護でぶつかる5つの壁
1 家族の壁 親子・きょうだい関係をこじらせないために
   木場 猛 リクシスCCO、介護福祉士
 介護方針、お金、不公平感…。家族間で起きやすいトラブル
 事例から学ぶ家族間コミュニケーション 
 介護をする家族をどうサポートできる?
2 お金の壁 いざというとき使えない? 認知症とお金の問題 
   村山澄江 司法書士
 本人の代わりに契約行為を行う「成年後見人」
 法定後見制度を使ったことを後悔する家族も
 元気なうちにできる対策、「家族信託」と「任意後見」
「これしか道がない」ではなく、多くの選択肢を持ってほしい
「お金の壁」よくある疑問に村山さんがお答えします
3 距離的な壁 離れて暮らす母を見守る。市販のIT機器で実家をスマートホーム化
   和田亜希子 見守りテックコーディネーター
 父が他界、認知症の初期症状が出始めた母の見守り体制を強化 
 古い実家でも工事不要でスマートホーム化
 子どもの言葉に反発する親も、AIには耳を貸す
4 医療の壁 高齢者にとっては、入院することはリスク
   佐々木 淳 医療法人社団悠翔会理事長
 どこまでが「病気」で、どこからが「老化」なのか
 高齢者に「食べ過ぎや塩分の取り過ぎはダメ」は大間違い!
 限りある「最後の時間」をその人らしく過ごすために
5 介護する側の心の壁 介護うつにならないために
   橋中今日子 介護者メンタルケア協会代表
 日常に追われ、自分に向き合う余裕もなく追い詰められた
 うつは、エネルギーが尽きたという体のサイン
 努力で成果を出してきた人ほど人に頼れない 

おわりに
大介護時代がやってきた! なぜ今、仕事と介護の両立について考える必要があるのか

記事が価値がある思われた方は、書籍の購入や、サポートいただけると励みになります。認知症カフェ活動や執筆を継続するためのモチベーションに変えさせていただきます。