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認知症の人と調理

今の季節、消防車のサイレンを複数聞くと、ドキッとします。
火の元、初めて使うストーブにご注意ください。ニュースを見ると、80代、90代の人の家が火事になっていることは比較的多いように思います。昔は子供の火遊びもよくあったが、最近は目立たない(印象)。

食欲の秋も終わりかけですが、私の食欲はなかなか落ちません。こまったこまった。

さて、認知症の診察をしているときによく話題にするのは、料理の話です。これは、ちゃんと食べているか、最近食べたものの名前が出てくるか、どういうものを食べているか?職に興味があるかなどなど多くの情報が得られることもあります。また、同席する家族の反応もよく見ています。うなずいている方もいれば、首を横に振る人もいるし、よこから「料理なんてここ1年してないじゃない!」と突っ込みを入れる人までさまざまです。
私としては、事実か事実でないかも後で確認はしたいけれども、本人がどう思っているのかについて知る絶好の機会だと思っています。事実関係が間違っていることも多くありますが、いきなり訂正するとご本人のプライドも傷がつくのであとでまたそっとメモ書きででもよいので教えてもらえればと思います。

脱線しましたが、料理についてはもう一つ聞きます。最近失敗したことはないですか?というと、笑いながらみそ汁を炊いていて、目を離して焦がしたなどの体験を語ってくれます。そうか、火の元のチェックが甘くなってきているのだな、などと少し心配をし始めます。においがわかるかという質問も有効です。レビー小体型認知症では、においを感知することができなくなるケースが多いです。コーヒーのにおいをかがせても、無臭であるということもあります。そういう場合は、煙が目の前に充満しないと気づかず、手遅れになってしまう心配もします。

認知症でなくともパーキンソン病の人が料理をするケースもあります。途中で全く動けなくなって立ち上がれず、目の前でサバが焼け焦げになり、煙を出して火災報知器が鳴ってもまだ動けない状態になった人もいます。

こういう場合、テクノロジーが進んだ昨今では、いろいろな解決方法があります。でもよく失敗するのが、IHへの変更なのです。
もともとガスコンロを使っていた人は、高齢になってIHをうまく使えない人が多いです。こういう人たちには例えば、こういう安全性により意識を向けたコンロを勧めたりします。



ただ、ボタン式なので、スイッチが回すタイプのコンロの人だと、うまく使えないかもしれません。とにかく操作が変わると、とたんに使えなくなる高齢者は多いと思います。

一緒に調理してもらう機会を作るのも一つです。家族でもよいのですが、けんかになってしまう、注意したくなる方は、控えたほうが良いと思います。

例えば訪問リハビリで作業療法士と一緒に調理をしてもらい、安全性を確認してもらうのも良いでしょう。また訪問看護でもやってくれる場合もあります。医師はそのために訪問看護指示書というものを発行して、訪問看護や訪問リハビリを受けられるようにします。

また、小規模多機能型居宅介護という訪問と、通い、泊まりのサービスを利用できる仕組みや一部のデイサービスでは、調理を一緒にすることもあります。そういう場所で、困り事などを知るのも一つです。

ちなみに、介護保険を持っていない人でも、主治医が認めれば、医療保険を使って訪問看護や訪問リハビリを使うことは可能です(ただし介護保険を申請した日からは、大半の人は介護保険の利用者となるため注意)。

お弁当の宅配サービスなどで、作る頻度を減らすことも試しますが、なかなかうまくいかないことのほうが多かったです。味が合わない、量も少ないし、冷たいなどという不満をいう人もいますし、言わずに残している人もいます。飽きるという声もたくさん聞きました。

また小規模多機能型居宅介護を利用して、毎日の見守りをしていただくのも有用です。毎日誰かが入ることで、ストーブの前に燃えやすいものがあったり、ストーブの上で衣類を乾かしている人もいるので撤去してくれたりします。また小規模多機能からお弁当を持ってきてくれたり、お土産と言って夕飯を持たせてくれたりすることもあります。これは、だんだん作れなくなってきた人の栄養管理上も大変良いと思います。

医療側でできることとしては、あまりベンゾジアゼピン系の睡眠薬、抗不安薬を処方しないようにしています。健忘を引き起こしたり、二重に服用して火の元の戸締りがおろそかのなるのが心配だからです。なるべくベットに入ってから睡眠に関連するホルモンを調整するようなお薬を服用するようにすすめています。

そうやって、誰かがちょっとずつ未然にケアをしていくことが、火事などを起こさないことにつながっていくと思います。


11月29日12時53分 一部加筆修正しました。



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