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好きな中短編集4選

2018年12月5日に自サイトでtumblrで公開した「アドベンドカレンダー企画」から「本(中短編集)」の記事を転載し、加筆したものを公開します。

他人のおすすめを読みたい方は参考にしていただけると嬉しいです。

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時々読む中短編集が好きである。同一作家の作品集でも、たくさんの作家が集まっているアンソロジーでもいい。長編と比べて短編はユーモアのセンスがないと書けないものだよなあと思っているところがあり、ほのかな憧れを抱きながら読んでいる。


1:恩田陸『光の帝国 常野物語』

常野と呼ばれる一族にまつわる短編集である。
「大きな引き出し」を持つ春田一族、「裏返す」ことのできる拝島一族など、ここから別の作品として派生しているものもあるが(『蒲公英草紙』『エンド・ゲーム』)『光の帝国』はその最初の物語であり導入といえる作品が収録されている。

時代の流れの中にひそやかに存在する一族。それが常野一族だ。
彼らは何かしら超常的な力を持っているが、カテゴライズされない、どこかしら抽象的な能力を持つ者もいる。わかりやすい春田一族の「引き出し」は「忘れない・記憶力」に言い換えることができるが、拝島一族の「裏返す」は独特の能力だ。この辺りの塩梅が恩田陸作品の味であると思う。

世界と戦っているか、あるいは大いなる流れに抗うか、という作品が多い気がしている恩田陸作品の中において、『光の帝国』はそれらとは異なり、この世界をあるがままに受け入れ時には翻弄されるある種の無力さと、日常の中にぱっと入り込む不可思議をどのようにこの世に溶け込ませるか、という優しさと大らかさがある。
背筋を伸ばして前を見据え、張り巡らされる謎や罠や不思議に対抗しなくてもいい。そういう人たちが登場するのが『光の帝国』なのだ。

それまで児童書を読んでいた頃に「大人の本を読もう」と決めて、図書館で探したのが当時ドラマが放送されていた『六番目の小夜子』だったのだが、貸出中だった。だが棚に並んでいた他の作品の中で『光の帝国』というタイトルが、それまでファンタジーに親しんでいた子ども心に響き、それを手に取った。いま思えば偶然で運命で幸せな出会いだったと思う。

<追記>
8月に何か新しい本が出る様子。


2:ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』

運命の女、というモチーフが好きである。褪せていた世界がその存在によって鮮やかに彩られることもあれば、その人物に抗いがたい選択させてしまうこともある。

表題作はそうした、偶然出会った少女の巡り合いと別れの物語だ。初対面のときは少女だったジェニーは会う度に少しずつ成長する。主人公のイーベンは貧乏画家で、ジェニーは芸術家としての天啓の象徴なのだろう。二人の数度の邂逅はお互いの運命を大きく変え、その結末を迎える。

もう一つ収録されている「それゆえに愛は戻る」は妻を亡くした童話作家が精霊を思わせる不思議な女性と交流を持つ中編だ。その彼女、キャスリーンは癒しや救いを与えていずこかへ去る。彼女が何者なのかというのは作中で牧師が語る。運命の女の宿命として、彼女は去る。

「運命の女」というと悪女だったり破滅をもたらしたりするものだと思うが、私はどちらかというと、その存在が消えることによって自分の心が失われる、そういう存在を運命の女と呼びたい。
どちらも美しい中編である。

<追記>
いつの間にか創元推理文庫版の『ジェニーの肖像』も絶版?
そしていくつかある翻訳作品も絶版の様子。

他の作品も読みたいなあ。


3:深緑野分『オーブランの少女』

時代も場所も、世界すら違う作品が収録された短編集だ。どこか外国作家が描いたような香りがする。ミステリーかと思ったら次はファンタジーが出てきた、という驚きと喜びを味わえる一冊である。

収録されているうちの一作「片想い」は女学校で百合である。しかも語り手はどちらかというと不美人のように描かれている。ミステリー要素もありながら、私はこの主人公たる薫子が好きになってしまった。

「氷の皇国」はスラヴ民話のような、架空の国の物語だ。圧政を敷く皇帝による処刑が繰り返される息が詰まるような中編で、初読時はここまで本格的なファンタジーが他の作品と一緒に収録されていいのだろうかと困惑したくらいだ。

表題作は現代から過去を回想するものだし、現代のどこかの外国の街を舞台にしたものもあれば、ヴィクトリア朝を舞台にしたものもある。
ここまで幅広い作品を読めていいのか、お得すぎないか、いやそれよりもこれらの続きを読みたいんだが!? もっと他にも読ませてくれ!
思わず本音が漏れてしまうが、面白い分体力が持っていかれるのも事実だ。特に「氷の皇国」は凄まじいシーンが続くこともあってページを開く手が恐る恐るになってしまう。力のある作品というのはがっつり読者の体力を削っていくものなのだなあと思う。

<追記>
文庫落ちになったこちらが最新作でもないけれど新しいやつ。


4:『新釈 グリム童話 めでたし、めでたし?』

集英社オレンジ文庫から出ているアンソロジーである。少女小説のアンソロジーは数が少ないので、もっと読みたいと思っているのだが、まあそれはともかく。

グリム童話の「ルンペルシュティルツヒェン」「白雪姫」「かえるの王様」「眠り姫」「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」それぞれ題材にした、現代が舞台の短編集だ。
やはり少女が主人公で、謎を解いたり、かけがえのない友を見つけたり、恋をしたり、仕事に励んだり、というお話が好きだ。もちろん人間のどろっとした嫌な部分を描いてくれるのも歓迎である。この『新釈 グリム童話』はそれらを美味しく味わえる。

私が一番好きなのは「のばらノスタルジア」である。傾いたホテルを立て直すため政略結婚をしなければならなくなる主人公なのだが、ところがそれだけではない。
結婚もので、相手との関係は当初は険悪であるためどのように仲を縮めるかという展開など、少女小説らしさが詰まった作品だ。ほんわかヒロインに見える寧々が意外と……という部分も楽しく、このアンソロジーで一番のお気に入りである。

<追記>
オレンジ文庫のアンソロジーで最近読んだのはこれ。


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