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好きな少女小説4選

2018年12月3日に自サイトでtumblrで公開した「アドベンドカレンダー企画」から「本(少女向け)」の記事を転載し、加筆したものを公開します。おうち時間が長い方の読書の参考になれば幸いです。

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少女向けライトノベルで好きなものは本当にたくさんあるのだけれど、その中から四つ選んでみた。明日同じことを聞かれたら別の作品をあげるくらい好きな作品がたくさんあるので、今日はそんな気分らしいと思いながら気を楽にして読んでほしい。


1:樹川さとみ『時の竜と水の指環』

好きな本を聞かれたら、お前それサビかよと言われるくらい、だいたいこの本を挙げてしまうのだが、ライトノベルという言葉を知らなかった少女時代に胸を撃ち抜かれた作品なのでお見逃しいただきたい。

森の奥で男装の薬師として生きている少女アイリと、彼女を図らずも外の世界に引っ張り出すことになった領主の息子、騎士ク・オルティスのロマンスファンタジー。

イラストは桃栗みかんさんで、またこのイラストが不穏で儚げでとてもいいのだ。

薄幸の美少女と脳筋騎士という組み合わせに、当時そんな言葉はなかったけれど「禿げ萌えた」という読書体験をして、当時書店に在庫がなく問い合わせが必要な本だったけれどお願いして取り寄せてもらった。それ以来宝物にしているので、私の蔵書で一番古い類に属している。

薄幸で世間知らずゆえに鈍感なヒロイン。
脳筋だが締めるところはきっちり締めてくれる男前ヒーロー。
指環による変身というロマンチックなモチーフや、ケルトを想起させる世界観や創作民話など、想像を膨らませられるところが多く、とても美しいお話だ。ところどころくすっと笑えるところもあり、上下巻でちゃんとお話が終わっている。
ラストシーンがまたこの続きを読みたい! でも美しい! という終わり方なのだ。

樹川さとみさんというと『楽園の魔女たち』のイメージが強い方もいらっしゃると思うが、楽魔女が始まる前はこういう、叶わぬ恋やすれ違いといった儚い印象のロマンスも書いていらっしゃった。『エネアドの三つの枝』シリーズをお好きな方は機会があれば初期の頃の作品も読んでいただくときゅんとくるかもしれない。

<追記>
紙本は手に入りにくいですが電子書籍がありますので安心してお読みいただけます。



2:永野水貴『白竜の花嫁』

性癖に刺さりすぎて語るのが難しく、好きすぎて不用意に名前が出せない。そんな作品がこの『白竜の花嫁』である。

山城国の忌み姫である澄白は、亡き母から教わった薬の知識を磨きながら細々と暮らしていた。しかしある日天上の存在である竜の来訪により、国を守るために兄によって生贄の花嫁として捧げられてしまった。かりそめの夫となった竜シュトラールは澄白に強い興味を示し、やがて澄白も彼に心を許すようになるが、種族の違いやシュトラールの過去が思いを通じ合わせることを阻んで……。

異種族結婚、しかも竜(ドラゴン)というエッセンスをこれでもかと詰め込んだシリーズ。完結していないからと思われる方は、まずは一巻! 一巻だけ読もう! ドラゴンブレスを浴びよう!(語弊)

不遇な主人公が好きなわけではないのだが、薄幸のヒロインがヒーローとの出会いによって存在を肯定されるという展開は、やはりいつ読んでもとてもよい。

竜であるシュトラールは人間という種に強い興味を示すので、不用意に触ったり観察したりということを繰り返す。学習すると接触が過剰になる。
また彼は額面通りに言葉を受け取るタイプなので相手側の心の機微は読まず、ストレートな言葉や態度を用いる。ストレート豪速球な甘い台詞や接触を受けた側はもちろん動揺するのだが、正直に言うとたいへんエロい。シュトラールは色気の塊なのだが、澄白の反応も初々しくて、いけないところを覗き見ている気分になってくる。

そうしたラブシーンも多いが、竜同士の戦闘や、人間同士の争いなどバトルもあり、もちろん心理描写もふんだんに盛り込まれていて、かなり読み応えがある。

私は「分厚い本」が好きだ。ページ数という意味もあるけれど、一冊の本にバランスが崩れない限界までエピソードが盛り込まれている読み応えのある本が好きなので、永野さんの作品を読むといつも満足感を覚える。
この後の展開を是非知りたいと思っている作品だ。

<追記>
うん、とりあえず『白竜の花嫁』一巻読もうか。
永野先生の最新作はこちら。

現代物+親子モノ+交渉という、おっなんだその組み合わせは? と思った方におすすめです。親子関係を築く難しさや、子どもを「子ども」ではなく「人間」として尊重することなど、さらっと読めるのに奥が深い。
読者が感情移入するのが子どもの方なのか、それとも親の方なのか、気になりますね。ちなみに私はどっちも、かつ親寄りでした。


3:栗原ちひろ『レッド・アドミラル』

ヒロインにもヒーローにもベタ惚れするという経験はあまりなかったのだが、この作品でその味を知ってしまった。主人公格のみならず誰も彼も格好良すぎてくらくらする。

英雄オルディアレス艦長に憧れる軍属の男装の麗人ロディア。希望を出し続けてようやく配属されたのは、風変わりな船長ランセと船員たちのいるレーン号だった。一癖も二癖もある彼らには秘密があったが、ロディアは自らの魅力と実力で彼らにとってなくてはならない存在となっていく。

人たらしの象徴たるランセは、何もかも丸ごと包み込むような度量の持ち主で、大切なものは大切であると公言して憚らない。それを受け取る側であるロディアも多少照れつつも、感謝したり私もそう思っているという思いを告げる。
このやり取りが非常に爽やかで、清々しくて、かっこいい。
もじもじしたり照れるだけだったりはしない。彼女たちは心を偽ったり隠したりすることないと決めていて、常に剥き身で体当たりだ。ときには大人としてあるいは世間のルールに即して、常識の衣や仮面をまとうけれど、本質は変わらない。
『レッド・アドミラル』の登場人物はみんな独自の美学やルールを持っていて、それがどれも人間くさくて、かっこいい。

最終巻は駆け足気味だが最後、戦いが終わった後のロディアとランセにとって一番大事なシーンはきちんと描かれている。もしかしたらシリーズで一番どきどきしたシーンかもしれない。二人の心臓の音が聞こえてくるようだった。

タイトルを見れば華々しい戦記のように思えるけれど、中身は「粋」や「ロマン」という言葉がふさわしいお話だ。大人っぽい主人公が人をたらしこんでいくところを是非楽しんでほしい。

<追記>
紙本も手に入りにくければ電子もないという苦しみを乗り越えたいので電子化してほしい。知らない人に一気読みして最終巻で「はああああ!!」となってほしい。
栗原先生の最新作は顔がいい男のオカルトミステリーです。

生きるのが危うい人が好きな方は多分好き。糸一本で繋ぎとめられていて、それが切れるとふらっと消えてしまうような。


4:嬉野君『金星特急』

本編最終巻で胸が潰れる思いがした。こんな結末のためにひたすら駆け抜けてきたのだろうかと思うと、涙が溢れて止まらなかった。

彼女に選ばれればこの世の栄華は思うがまま。絶世の美女「金星」の花婿を選ぶ「金星特急」に乗り込んだ婿がねたちの中に、錆丸もいた。そこで巡り合った砂鉄、ユースタスたちとともに互いに協力しあって金星の要求に応えるが、数々の出会いと真実はこの世界の秘密につながっていて。

世界を巡る特急に乗り込むという、さあこれから冒険が始まるぞ! というわくわく感は、読み進めていくうちに、帰れないところに突き進んでいく錆丸への恐れに変わる。
何が彼を動かすのだろう? どうしてそこまで走っていこうとするのだろう?
それが明かされたとき、張り詰めていた緊張が緩むと同時にああもう仕方がないなあなんて思ってしまうのは、恋する者は強いからなのだと思う。

物語で描かれるのは様々な恋の形だ。幼い恋、禁じられた恋、報われない恋……「恋」という言葉はともすれば陳腐なものかもしれないのだけれど、それを抱いている者からすればそれは命そのもので、人生や世界の命運すら左右する。
だからこれは、世界を賭けた恋の話なのだ。

最終巻はたくさんの人たちの思いの行方が描かれる。もちろん錆丸の恋もだ。
胸が潰れるような思いをしたそのシーンだけれど、このとき錆丸は旅立ちを決めた少年ではなくなっていて、その強い姿に「最後まで見届けなければ」という思いを強くした。

最終巻を最後まで読んでページを閉じたときに「金星特急」の旅は終わったけれど、その後にはご褒美のような外伝が待っている。
旅が終わった後には、やはり旅の思い出を語る日常があるといい。

<追記>
続編連載おめでとうございます!!!

なお近日番外編も出るのでめちゃくちゃ楽しみです。


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