2023年2月1日のスケッチ

時刻は7時35分。私は椅子に座って腿の上にラップトップを載せている。
眼を上げるとスーサイドのポスターがある。1年くらい前に出たベスト盤についていたポスターだ。スーサイドというのは1970年代後半から活動をはじめた破壊的なロックデュオだ。数多の後進バンドに影響を与え、有名どころではREMがスーサイドの曲ををカバーしている。またイギリスのスペースメン3というバンドは『スーサイド』という曲を作った。

スーサイドのポスターから視線を下げると、ジーザス&メリー・チェインのシングル盤『ヘッド・オン』のジャケットが見える。この曲は1989年のサードアルバム『オートマティック』からのシングルカットで、米国のピクシーズにもカバーされた。

ちょっと視線をずらすと、永井博のアートワークによる大滝詠一「ア・ロング・バケイション」がある。1曲目に収録された「君は天然色」は近年でもカバーされている。
ちなみに、大滝詠一はレコーディングに凝って独自の「ウォール・オブ・サウンド」を構築した。「ウォール・オブ・サウンド」というのは元々、アメリカの音楽プロデューサーだったフィル・スペクターが考案した考え方だ。それに影響されたミュージシャンはたくさんいる。ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソン、メリー・チェインのリード兄弟も、独自の「音の壁」を作ってきた。
フィル・スペクターは殺人の罪で長いこと服役していたが、新型コロナウイルスで2021年に亡くなった。

コロナ渦のなか亡くなったミュージシャンはたくさんいる。デイヴ・カスワースもその1人だ。2020年にドッグズ・ダムールのタイラと初めて来日したが、東京だったのでライブに行くのは断念した。
カスワースが亡くなったのは、その半年後だった。今生きている人が明日もそうだという保証はない。生で彼の音楽を聴く、たった一度のチャンスを逃してしまった。

色々な音楽を探して聴くようになって、12年くらいになる。流行の音楽はほとんど聞かず、周囲と音楽の話もできないような人間だが、自分なりに色々なつながりをたどって音楽を聴いてきた。
そうやって、考え方の大枠のようなものを形成してきた。何がどう役に立っているのか、自分自身でもわからない。具体的にこうと言うことはできない。それでも、誰に言われるでもなく自分でコツコツと続けてきたことは、何らかの形で人生に役立っているのだと思う。

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