【ショートショート】ごめん、ありがとう、ごめん
「お誕生日おめでとうございまーす!」
突然暗くなった店内。耳をつんざくような音楽が鳴って、バチバチと音を立てるケーキのプレートが運ばれてきた。
困惑したまま正面に座る海斗を見ると、いたずらっ子のような顔で笑っている。
店内中の拍手が鳴り止み、私たちに集まっていた視線が外れていく。そうして、私たちカップルのことから周囲の関心が薄れていくのを感じた。
「美里、びっくりした?」
満面の笑みをたたえる海斗。店内にはガヤガヤと雑多な活気が戻っている。
「うん、そりゃあね」
緊張で高鳴った胸を押えながら、なんとか答える。
「サプライズはこれだけじゃないんだよ」
そういって、海斗は背後に両腕を回し、「じゃーん!」と小さな紙袋を私に向かって差し出した。
「えっ、何?」
「プレゼント。開けてみてよ」
開けなくてもわかる。これは、私なんかが貰ってはいけないものだ。
紙袋に金で押されたロゴは、私でも知っているハイブランドのもの。友達に連れられて表参道を歩いた時に、その店舗を見つけたことがある。白手袋をしたドアマンが恭しく客を迎え入れているのを遠目に見て、自分の住む世界とは違うな、としんみりしたのを覚えている。
「ごめん、こんな高価なものを私なんかに…」
中身の確認もそこそこに、気がつけば口から謝罪が出ていた。
「何言ってんの、俺があげたくてあげたの」
「いやでもこんな素敵なもの、申し訳ない…」
「もう、」
少し呆れたように笑う海斗。
「こういう時は、ごめんじゃなくてありがとうって言ってよ」
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