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【試し読み第4話】エラー:お探しの条件に合うお相手は見つかりませんでした
…さて、どう切り出そうか。
掃除したてのエアコンを稼働させながら、遥はチャット画面を開いたまま悩んでいた。
〈この間はありがとう!〉
〈こちらこそ〉
〈また遊ぼ!〉
〈うん〉
会話は数日前からここで止まっている。
酔っていたなりにバーでのことを覚えているのだろう、千尋の返事はいつもに増して素っ気ない。
この素っ気なさは気まずさからなのか。それとも。
千尋への好意を否定せずにあらわにしたことで、千尋に距離を置かれたのではないかと遥はハラハラしていた。
どうにかしてまた会いたい。気兼ねせずに会える仲を失いたくなかった。
何か話せることはないかと話題を探す。今までに千尋と話したこと。初めて会った時のこと。
そういえば。
ふと思い当たる。
獅子座のドリンクを飲んでいた千尋。獅子座は確か、夏生まれの星座じゃなかったか。
千尋ちゃん、誕生日は誰かと過ごすの?、と打ちかけて、遥はその文を削除した。
これだと架空の誰かに嫉妬している感じがする。あくまで牽制にならないように文を組み立てるべきだ。
〈千尋ちゃん、誕生日は何かするの?〉
送ったとたんに胸がどきどきし始める。
千尋は誕生日に予定を入れているだろうか。大学生の千尋のことだ、きっと祝ってくれる友達はいるだろう。それとも、大切な時を一緒に過ごす大事な人をもう見つけてしまっただろうか。…もし予定が無かったら、自分と会ってくれるだろうか。
いや、と遥は記憶を反芻した。
“嫌いな女”と誕生日を一緒に過ごそうなんて思わないよな…。
遥の容姿が嫌いだと千尋は言った。話しぶりから察するに、遥は千尋のコンプレックスを刺激してしまう存在なのだろう。それでも遥は嫌われることに納得がいっていなかった。性格や言動が気に入らないというなら納得がいく。修正の余地もある。でも容姿ばっかりは変えられない。それを理由に人を遠ざけるのは、なんか卑怯だ。
遥は一ミリも千尋のことを諦めていなかった。
当日じゃなくてもいい。彼女の誕生日を祝いたい。…会いたい。
ずっと忘れていた、他人に焦がれる感覚を遥は徐々に取り戻していた。
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