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悪い人たちの活かし方①――サイコパスの養育法、援助行動の促進法――

前回と前々回では、闇のパーソナリティであるダークトライアド (サイコパシーマキャヴェリズムナルシシズム) とダークテトラド (サディズム) について紹介した。

簡単にダークトライアドとダークテトラドを説明すると、社会的に望ましくないとされている性格特性およびそれらを備えている人物の総称である。

これらの性格特性は生得的にもっている場合もあれば後天的に備わる場合もある。
では、先天的なダークトライアドの場合、どうしても社会的に望ましくない存在であり続けなければならないのか

答えはノーだ。
ダークトライアドの汚点は抑えることや、逆に生かすことも可能である

では、ダークトライアドはどうすればく生きていくことができるのか
今回 (と次回) はそれについて、増井・浦 (2018) による「『ダークな』 人たちの適応戦略」という論文をベースに紹介しよう。

また、このテーマを語るには長くなってしまうため、2回に分けて紹介する。
今回は①サイコパスの攻撃性を抑える養育法、②サイコパスの向社会的行動の促進法の2つを小テーマとして紹介しよう。

○サイコパスの攻撃性を抑えるには、どのように育てればいいか?

まずは、サイコパスの攻撃性を抑えるには、どのように育てればいいかに関する研究を紹介しよう。
現実問題、自分の子どもがサイコパスかどうかを判別することは不可能だが、万が一その素質があった場合、以下に紹介する研究を参考にすれば、もしかしたらその攻撃性を抑えることができるかもしれない。

● 家族からのサポートが多いサイコパスは攻撃性が低い

Masui, Iriguchi, Terada, Nomura, & Ura (2012) は、サイコパシーの高い者でも、家族からのサポートが厚ければ、攻撃性が低くなる可能性を見いだした。

研究者らは、48名の被験者のサイコパシー得点と家族からのサポート度を調査し、そのあとポイント分配ゲームを被験者にプレイさせた。
その結果、サイコパシーの高い被験者でも、家族からのサポートが多ければ、相手から奪取するポイントが少なくなることがわかった。
つまり、家族からのサポートが多いサイコパスは攻撃性の低い傾向があるのである。

しかし、もしかしたらサイコパシーには攻撃性を伴わない下位分類があり、そのようなサイコパスは家族からのサポートを比較的に受けやすい性質がある可能性もあるため、一概に、「家族がサポートすれば攻撃性はなくなる」や、逆に「家族が適切にサポートしなかったから攻撃的になったのだ」と考えるのは危険だろう。

● サイコパスでも、幼少期に恵まれた環境で育てば、侮辱的なユーモアを抑えられる

Masui & Ura (2016) は、サイコパスでも、幼少期に社会経済的地位が高ければ、攻撃的ユーモアを抑えられる可能性を見いだした。

社会経済的地位とは、教育、収入、職業、婚姻状況、子供の数を含む多様な要因に基づいた指標である。
攻撃的ユーモアとは、他者を侮辱することによって笑いを取ろうとするユーモアのことであり、サイコパシーと正の相関があることがわかっている。

研究者らは、137名の大学生を対象に、サイコパシーと社会経済的地位の攻撃的ユーモアに対する影響を調査した。
その結果、社会経済的地位が低い被験者のうち、サイコパシーの高い者は低い者に比べて攻撃的ユーモアを多く用いていた
しかし、社会経済的地位の高い被験者では、サイコパシーの影響は見られなかった
つまり、恵まれた環境で育ったサイコパスは、侮辱的なユーモアの使用を抑えられる可能性が示唆されたのである。

ただし、社会経済的地位は様々な要素の複合であるため、ただ地位が高ければいいというわけではないかもしれない。
また、「あの人は恵まれた環境で育っていないから危ない」と考えることは浅はかであることに留意しよう。

○サイコパスが向社会的行動をとる条件とは?

ここまでは、どうすればサイコパスの攻撃性を抑えられるかに関する研究を紹介してきた。
次は、どうすればサイコパスの向社会的行動が促進されるかに関する研究を紹介したい。

向社会的行動とは、他の個人や集団を助けようとしたり、こうした人々のためになることをしようとしてなされた自主的な行為のことをいう。
つまり、他者や社会のための行動のことである。

一見、人情味のなさそうなサイコパスだが、どのような条件であれば人を助ける行動をとるのだろうか?

● サイコパスは損する可能性があると向社会的な選択をする

Masui, Iriguchi, & Ura (2014) は、サイコパシーの高い者は損する可能性がある場面では向社会的行動をとることを見いだした。

研究者らは40人の被験者を分配ゲームに参加させた。
しかし、これらの被験者は分配者でも受け手でもなく、第三者として参加した。

どのような実験かというと、まず、コンピューターの分配者がコンピューターの受け手 (被験者は生身の人間だと思っている) に対して不公平な分配を行う。
それに対して被験者は、分配者を罰するか、受け手を援助するか、それとも不介入かを選択する。
罰するあるいは援助を選択した場合は被験者自身の持ち金を消費しなければならない。
一方、不介入の場合、被験者は以下の各条件ごとにルーレットを回す。
被験者が確実に報酬をもらえるルーレット、②被験者が確実に損するルーレット、③報酬と損の可能性が半々のルーレットの3つである。
研究者らは、分配者に罰を与える、あるいは受け手を援助する選択を利他的行動、不介入を利己的行動とし、実験を行った。

その結果、①条件 (不介入によって確実に報酬がもらえる) では、サイコパシーが高い被験者は低い被験者に比べて不介入を有意に多く行った
それに対して、②と③の条件ではサイコパシーの高さに影響されなかった
つまり、サイコパスは、不介入によって確実に損する、あるいは損する可能性がある場面では、自身が損してでも向社会的行動をとるということである。

ただし、これはサイコパシーが低い人と同程度にそうするということであって、サイコパスがとりわけ向社会的行動をとるというわけではないことに注意しよう。

しかしこれは、サイコパスに何かを頼むときは、「○○してくれないなら、○○するぞ」と脅せば、依頼を受け入れてくれる可能性を示唆している。
とはいっても、それは効果的な方法とは言えないだろうが。

また、White (2014) による、ある条件下で向社会的行動をとるかを回答させる研究では、サイコパシーの高い者ほど、誰も見ていない状況下では向社会的行動をとらないと回答したが、誰かが見ているところでは向社会的行動を積極的にとると回答したという。

● サイコパスが援助行動をとる状況と性別とは?

Mahmut, Cridland, & Stevenson (2016) は、高サイコパシーの援助行動に影響を与える環境と性別を検討した。

具体的には、サイコパシーの高い被験者 (男性15名, 女性13名) と低い被験者 (男性14名, 女性16名) を対象に、以下の3つの状況下で被験者が援助行動をとるかを実験した。

  1. 道に迷った女性が道を尋ねる

  2. 腕にギブスをはめた女性がペットボトルを開けようとする

  3. 女性が大量の書類を落とす

その結果、以下のことがわかった。

  • 条件1では、サイコパシーの低い被験者のほうがより援助した

  • 条件2では、サイコパシーの高い男性が低いほうより援助した

  • 条件3では、サイコパシーの高い女性が低いほうより援助した

サンプルがやや小さいため、この結果は示唆的なものに過ぎないが、興味深い現象だ。

● 転職率の低い地域に住むサイコパスは援助行動をとりやすい

増井 (2017) はサイコパシーと援助行動の関係性を人の流動性 (2012年における都道府県の転職率) と関連づけて検討した。

その結果、転職率の高い都道府県に住むサイコパスは援助行動意図が低かったが、転職率の低い都道府県では、サイコパシーの程度による差はなかった。
つまり、転職率の高い地域に住むサイコパスは進んで人を助けようとすることが少ない一方で、転職率の低い地域では平均と同じくらい人を助けようとすることがわかった。

また別の研究では (浦・増井, 2017)、転職率の高い地域に住むサイコパスは身体的暴力意図と心理言語的暴力意図の程度が高いという結果も出ている。

以上のことから、サイコパスは環境によって利己的行動と利他的行動を使い分けている可能性がある。
したがって、サイコパスは転職率の低い地域 (和歌山県や山口県) や業種 (電気・ガス業界) に置いておいたほうがいいのかもしれない。

○今回のまとめとオススメ本

さて、今回はここまでにして、残りは次回にしよう。
今回の内容をまとめると以下の通りだ。

  1. サイコパスの養育法

    • サイコパスの攻撃性を抑えるには家族からのサポートを厚くしよう

    • サイコパスの侮辱的なユーモアを抑えるには、教育環境を充実化しよう

  2. サイコパスの援助行動の促進法

    • サイコパスに向社会的行動をとらせたければ、損する選択肢を提示しよう

    • サイコパスは人の変動性の低い環境に置こう

今回は「ダークな人たち」と謳いながら、サイコパスに関する研究しか紹介しなかったが、次回はそのほかの特性 (マキャヴェリズムとナルシシズム) に関する研究も紹介できるだろう。

最後に、今回のテーマに関連していそうな書籍を紹介する。

● ダークサイド・スキル 本当に戦えるリーダーになる7つの裏技

著者の木村 尚敬さんは主にビジネス面で活躍するグロービス経営大学院教授である。
肩書きから察せられるように、本書はダークトライアドといった心理的なパーソナリティ特性を取り扱ったものではない。
しかし、本書で紹介されている「ダークサイド・スキル」とは、人や組織を動かす力や嫌われても動じない精神力などのことを指し、これはダークトライアドの特性に通ずるところがある。
そのため本書は、「俺サイコパスっぽいなぁ」や「マキャヴェリストっぽい」と思った方が、自身の特性の強みを生かすのに役立つかもしれない。

● 悪いヤツほど出世する

著者のジェフリー・フェファーは、専門を組織行動学とするスタンフォード大学ビジネススクール教授であり、先ほどの木村さんと同様にパーソナリティ心理学とは異なった領域の人物だ。
しかし、本書は科学的 (あるいは統計的) 視点から「悪いヤツ」とリーダーシップ論を関連づけて論じている。
しかも、『ダークサイド・スキル』よりも、ダークな人間あるいは行動に焦点を当てているため、ダークトライアドとの関連も強いと言えよう。
『ダークサイド・スキル』が典型的なビジネス書であるのに対して、本書は専門性が高めなので、やや内容は難しいが、非常に面白い本である。


さて、次回はダークトライアドの社会的成功、印象的な魅力、人間関係について紹介したい。
乞うご期待!

○参考文献

Mahmut, M. K., Cridland, L., & Stevenson, R. J. (2016). Exploring the relationship between psychopathy and helping behaviors in naturalistic settings: Preliminary findings. The Journal of General Psychology, 143(4), 254-266.

Masui, K., Iriguchi, S., Terada, M., Nomura, M., & Ura, M. (2012). Lack of family support and psychopathy facilitates antisocial punishment behavior in college students. Psychology, 3, 284–288.

Masui, K., Iriguchi, S., & Ura, M. (2014). Assured rewards facilitate non-intervention in unfair situations by high psychopathy individuals. International Journal of Psychological Studies, 6(4), 56.

Masui, K., & Ura, M. (2016). Aggressive humor style and psychopathy: Moderating effects of childhood socioeconomic status. Translational Issues in Psychological Science, 2(1), 46.

増井 啓太・浦 光博 (2018). 「ダークな」 人たちの適応戦略 心理学評論, 61(3), 330-343.

浦 光博・増井 啓太 (2017). 転がる石は坂道で加速する―暴力意図に及ぼすダークトライアドと雇用の流動性の影響― 日本グループ・ダイナミックス学会第64回大会.

White, B. A. (2014). Who cares when nobody is watching? Psychopathic traits and empathy in prosocial behaviors. Personality and Individual Differences, 56, 116-121.


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