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ウェディングパーティ茶会へご招待します

 2021年8月15日、ウェディングパーティー 兼 誕生日会 兼 第五回毬茶会を催しました。来てくれた人にはタネ明かしを、来れなかった人には追体験を。

 お客様は青蓮院門跡の向かいにパビリオンコートを見つける。


「在釜(ざいふ) 第五回毬茶会」
のウェルカムボードが出迎える。在釜とは、ここでお茶会をしていますよ、という意味でお茶会をする際に門のあたりに掲げられる。

 会費は振込式で席次表などは渡さず、ペーパーレスを推進した。

 ウェルカムスペースには単細胞から多細胞へ、植物から動物へ、海から陸へと生命の歴史・時間の流れを描いてもらった友人作の絵を飾った。その横にガルシア・マルケス『百年の孤独』を添えた。実在すると思っている世界が灰燼に帰す、あると思ったものがない、たとえ消えゆく世界だとしてもウルスラは一生懸命生きる。科学的に解き明かされた生命の歴史の美しい絵画と、虚実入り混ざる1世紀の物語。この2つを組み合わせたかった。絵画はお客様に好評で、描いてくれた友人Rさんに感謝。

 待合は本来挙式場として使われている、カメリアの間。天井から柱、レースカーテン、床までもが美しい。

 待合にはミュージカル・ロミオとジュリエットのプロローグがかかる。新郎新婦のプロフィール、事前にいただいた質問の答え。いこちゃんは、新郎は出発進行をしてるように見えるという。新婦は天上天下唯我独尊をしてるように見えるという。ホワイトデーに貰ったプリザーブドの大輪の薔薇。たくさんの文章をQRコードに潜ませ、好きな言葉たちを並べ置いた。最近のお気に入りは

強くて厳しいものは美しい 上田久美子(宝塚歌劇 演出家)

 開宴が近づくと2階へと案内される。高砂の後ろには二幅の軸がかかる。

掬水月在手(水を掬すれば月手に在り)
弄花香満衣(花を弄すれば香衣に満つ)

 最初は「掬」の字が「毬」となんとなく似ていますね、というところから友人Jさんへの依頼が始まった。水を掬って月を映す情景も美しい。今日はたくさんのお花に囲まれ、まさに香りが衣に満ちる。
 4年前、院卒時の第四回毬茶会で「掬水ー」を作ってもらった時には十分な予算をかけられず、簡素な表具が限界だった。12月の結婚式に合わせて作ってもらった「弄花ー」は社会人パワーできちんとした表具ができた。並べてみて初めて長さが違うことに気づいた。二幅を並べると私の成長がわかる。

 席に座ると石が転がっている。席札は貴船の奥宮近くの川底から拾ってきた石たち。この石はずっと川の中で洗われ続け、いつしか砂塵となる。どれだけの時間がかかるだろう。でもそれと同じくらい長い時間、生命が生まれ、次の代に引き継がれ……という営みが続けられてきた。その一端を全ての人が担っていることを感じてもらいたく、貴船川に入って石を拾ってきた。帰り道に名前を書いたマスキングテープを剥がして鴨川に流してもらえれば石は時間をワープする。
 欠席となった方の分は、時空間を歪ませるべく渡月橋のふもとから大堰川に投げ入れてきた。

 12:00になると司会がえぇ声で語り出す。青蓮院門跡には青不動が祀られている。東山は青龍が守る。雨は神仏の祝福かもしれない、という素敵なスピーチをいただいた。
 色には意味があった。今日のドレスコードは青。毬乃は海を表し、翔一は空を想起させる。ブーケとブートニアは青。指輪は青いお花。
 テーブルクロスは黄色。装花は赤、黄、橙をベースとし、真夏のエネルギッシュなパワーを感じさせつつ、盆地の京都の夏らしい花を選んでもらった(海辺のようなイメージやひまわりは少し違う)。青と黄の補色が美しい会場をさらに引き立てる。

 ♪Aimerに合わせて私たちは階段を上がる。早速一段目でつまづいて手をついてしまった。

Aimer c'est ce qu'y a d'plus beau  愛すること それはこの世で一番美しいこと
Aimer c'est monter si haut  愛すること それはこんなにも高くのぼること
Et toucher les ailes des oiseaux  そして 鳥のつばさに触れること

Aimer c'est voler le temps  愛すること それは時を奪うこと
Aimer c'est rester vivant  愛すること それは真に生きること
Et brûler au cœur d'un volcan  そして 熱く激しく胸を焦がすこと
Aimer c'est c'qu'il y a de plus grand  愛すること それはこの世で一番偉大なもの

♪Aimer / Romeo et Juliette les enfants de Verone

 挨拶は新婦から。感染防止について、今日のテーマについて、新郎について(レアキャラです)。次に新郎から。前日夜に①自分が何者か、②この会についてどう思ってるか の2点を話して欲しいと依頼し、当日本番ぶっつけ。当然私も本番で初めて聞き、感動的内容で私がビックリ。

 乾杯はノンアルコールスパークリングワイン。ファンタ白ぶどう味ではないらしい。お料理は京大生御用達(?)La Tourより。

 マスクを外す際は透明扇子を使って飛沫を防止。医療従事者の友人にどう思われたかは不明。

 途中でクリエイター紹介を挟み、作品を作ってくださった皆様からひと言いただく。

 お料理がひと段落したところで、可愛らしいケーキが運ばれてくる。ウェディングケーキ兼バースデーケーキの趣向。2人の誕生日は3日しか変わらない。

 蝋燭を吹き消す。私はこの可愛らしいケーキを食べられると思っていたのだが、なんとこれは食べられないらしい! お客様にはタルトフリュイが運ばれるなか私たちだけホールケーキを独り占めできるぞ♪ とほくそ笑んでいたのだが、企みは失敗に終わった。

 ケーキが運ばれてくるときには♪(You make me feel like) A Natural Woman, Aletha Franklinを選んだ。私の名前は、マリノになるかアレサになるか、という感じだったらしい。多くの曲を知っているわけではないが、今この曲を聴くとまさに私のことだ、と思う。

Looking out on the morning rain
I used to feel so inspired
And when I knew I had to face another day
Lord, it made me feel so tired
Before the day I met you, life was so unkind
But you’re the key to my peace of mind
Cause you make me feel like a natural woman

♪(You make me feel like) A Natural Woman / Aletha Franklin

 ふふ。ありがとう。

 テーブルラウンドで皆様とお話する。今回、多くの子どもに来てもらった。私としてはお子さまエネルギーを分けてほしかった。0歳から小学生までが8人、大人が31人だから子ども割合が20%! ニコニコしてる子、恥ずかしがってお母さんに隠れようとする子、緊張して喋れなくなる子、ドレスを物珍しく見つめる子、たくさんの子どもたちにパワーをもらった。そしてどの子も父親or母親の顔そっくりでびっくりした。こんなに似るか、と思う遺伝の力。

 お食事を終え、階段を降りると踊り場に盆略の点前座が組まれている。

主茶碗 黒吉向
棗   桐に鳳凰
茶杓  優遊
茶筅  青
帛紗  茜 よしおか染
水指  砂金袋
香合  吉祥紋
古帛紗 経錦 ナーガ 龍村美術織物

 私たちの周りの全ての良いものがこの茶碗に向かい、美しい黒となる。カオスを体現したお茶碗を岩倉の先生からお借りした。他にも友人から借りたもの、もらったものばかりの点前座。


 待合だった部屋に入ると、大量の茶碗が並ぶ。クライマックスは呈茶。茶会は最後に一服の茶を飲むために、それまでのしつらえがあり、歓談があり、美味しい料理とお酒があり、甘いお菓子がある(今回はお酒は出せなかったけど)。

抹茶  銘 優霧 詰 茶来
菓子  銘 en     製 青洋
小皿  銘 風・海・山・花 製 sione

 抹茶は先生の特別なお茶。混じり気のない、昔から残るチャノキから作られたもの。
 お菓子はどんな無理難題をお願いしても素敵なお菓子に仕上げてくださる青洋さん。まだテーマが自分の中で定まっていない状態でご依頼し、この2つを選んだ。銘は直前まで考え、2つ合わせてアルファベットの “en” とした。テーマの円と今回の縁につながること、接頭語として「〜にする」という意味があることから、自然界の材料から新たなものを作り出すクリエイターの皆さん、今日のこの場を成り立たせてくれた全ての皆さんに感謝の気持ちを込めて食べていただくのにふさわしい銘を考えた。

 小皿は千年残る器を作っていらっしゃるsioneさん。ブランドコンセプトからして今回のテーマにピッタリで、必ずご依頼しようと思っていた。抽象的なオーダーにも関わらず、4種のデザインを作ってくださった。全ては風から始まり、海、山、花と美しい自然が作られた。千年と言わず、もっと長く残る可能性もある器に一瞬で体内に溶けてしまう干菓子が乗る。この情景で「永遠のなかの一瞬」を表現した。小皿は引き出物としてお客様に持って帰ってもらった。
 水屋とお運びは大学の茶道部同期と現役の茶道部学生にお願いした。茶道部の皆はこの時が一番楽しそうだった。

 茶席には席札がわりに鳩居堂の絵葉書とボールペンが置かれている。テーブルにはディレクションがある。

1. 今回のお茶会で一番気に入ったのはどこですか
2. その理由はなんですか
3. 新郎新婦にメッセージがあればお願いします

 1. は絵画やお軸を挙げてくれた人が多かった。貴船の石も何人かの心に響いたようで、川に入って拾った甲斐があった。でも一番多かったのは「全部!」という回答。コンセプトやしつらえ、来ているお客様、会場、そして新郎新婦、全てをひっくるめて気に入ってくれたようで良かった。

 最後はミュージカル・ロミオとジュリエットのエンディングがかかり、私たちは退場した。お客様は門を通って帰られた。のれんには

 ポーの一族、エドガーの台詞がかかっていた。永遠の時を旅するエドガーのように、今後も人と人との出会い、生命の物語は続く。一人でも行けるけど、二人で行ったらどんな世界が見えるだろう……?

 今回、全ての場面が友人の協力を得ている。欠席となった人・お呼びできなかった人から教えてもらった要素も多分に取り入れている。あらゆる人とものとの縁がつながり8月15日の場が完成した。

 結婚式ビジネスは「人生で一番の思い出を作る」というお題目のもと、莫大な広告費をかけ型に当てはめお金を使わせようと脳内ゆるふわハッピー状態の新郎新婦を格好のカモとして狙ってくる。その渦に飲み込まれるのが快感ならいいのだけど、徹底抗戦するのも楽しかった。本来会場でつけるオプション(司会、カメラ、ドレス、タキシード、ペーパーアイテム、引き出物etc)を全て自前でやっても何も言わず、 何をやりたいか意味不明だったであろう私のオーダーにも答えてくださった会場・パビリオンコートに感謝。

 そして受付、司会、水屋撤収と獅子奮迅の働きを見せてくれたYさん、1日中カメラを構え、素敵な写真を残してくれたKさんに感謝。

 このウェディングパーティ兼誕生日会兼茶会レポがどこかの新郎新婦の役に立ちますように。

茶席作りの経緯とコロナ対応の詳細はこちらから。

《終わり》

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