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リノベーションよもやま話

かくして、私の暗室は出来上がったわけだが、

ここに至るまでのエピソード、金銭面について多少赤裸々に語っていきたいと思う。

空き家購入を考えてる人、リノベーションを考えてる人の参考になれば嬉しい。



1.空き家の購入


私が今回の空き家を購入したのは2021年5月だった。

おらが町は過疎が進む田舎町だ。古い空き家が非常に多い。
その問題を打破するため、数年前に空き家バンクなるものを町がつくり、利用者が増えていることを知った。
「いつか自分の暗室を」と思っていた私は、日々空き家バンクを眺め今回の物件に出会い、担当者さんに声をかけたのだった。

内見をした当時の物件は、人の暮らしがそのまま残っていた。
家具や食器が多少埃を被りつつしっかりばっちり残っていた。
大きな窓から入る大量の光が家の内部を隈なく照らす。
第一印象は「案外綺麗だな」
聞けば、この家が空き家となったのは20年前。以来この家は人間がいたであろう景色を抱き続けていたのだ。

持ち主さんは高齢だがご存命であり、息子さんと共に直接やり取りをすることができた。(やり取りのメインは息子さん)
空き家バンクでは物件の紹介はするが、売買のやり取りには介入しない。
ここから先は持ち主と私の間で交渉が始まるのだ。(ただし何も知らず頼りない私を見て空き家バンク担当者さんがついていてくれた。心強かった)

持ち主の息子さんが提示した売却金額は20万円。破格だ。
曰く「もう住めるような建物ではない」「評価額とは異なるが処分できればいい」と。
そもそも住む目的では無く改修もするつもりだった。普通に考えて渡りに船のような話だ。

しかしここで一つの問題が浮上する。
この家に残された大量の家具と日用品。
処分するのは持ち主か、買い主か。

この問題は、空き家売買ではまあまあある話らしい。
持ち主にとっても、買い主にとっても、元々ある家具・日用品はいらないことが多い。
例によって私もこの家に残された物たちは不要だった。
正直なところ、持ち主さん側で処分してもらいたかった。

揉めずに、しかし自分の要望も通すために至った結論が、
「売却金額から家具処分代を値引き、18万円」

「20万円ぽっち素直に払え」と言われそうだが、今後嵩むもろもろ費用を考えると少しでも節約したかったのだ。
だって私は貧乏だから。

その後、空き家バンクから紹介して頂いた司法書士さんに全てをお願いし登記情報を書き換え、私は戸建てという固定資産を手に入れた。
この時に司法書士さんには約10万お支払いした。家の売買に紐づく手続きは個人でもできるらしいが、私から見たらあまりにも煩雑だった。専門士にお金を払い依頼することでその手間を無くした。

さて、この時点で約28万かかっている。

この直後私は鬱病にかかり空き家のリノベーションどころか半年以上何もかも出来なくなった。今では笑い話だ。


2.不用品の処分

鬱から立ち直りかけた頃、あの家に残された不用品をどうやって処分するか悩んでいた。
自分でゴミ集積場に持って行けたら一番安上がりなのだが、土台無理な話だった。
この家にあるのは棚、折り畳みベッド、洋服ダンス、冷蔵庫、洗濯機…。
そして実は外に後付けの物置があり、ここにも大小様々な「モノ」が放置されていた。

冬の雪かきが未だに不安要素 右側にあるのは物置だ
立派な洋服箪笥だった 衣類はある程度引き取られた
年季を感じる
常日頃使われている出立ちだが
この状態で20年経っていた
ここが後の暗室となる台所
正直想像つかなかった
玄関
何故か室内に放置された自転車
何故か新品未使用 謎深い存在だった


こんな大型家具を大量に運べる車は持っていない。あったとしても運転できない。
悲しいことに私にはそういうことを頼める友人知人もいないのだ。

「業者に頼むか」
割とすぐにこの考えに至った。
この時点で家の購入金額より諸費用が上回ることも仕方のないことだった。

過疎が進んだこの田舎町にできるだけお金を使いたい。
その思いから地元に不用品処分ができる業者を探した。
思いついたのは役場が運営する人材活用センター。60以上の元気なお年寄りがいろんな仕事を引き受けているはずだ。そこそこ安価で受けてくれるのではないか。
期待を持って電話をかけた。帰ってきた返事はこうだった。

『うちに入ってる人たち70、80くらいの人が多くて、あんまり大きいモノ運べないんですよ。』

いやそうだよね。
人活の線は速攻で消えた。

じゃあこの田舎町にそういうことしてくれる業者っているのだろうか?
全く検討がつかない。
町外業者は出張料がかなり痛い。覚悟すべきか。

ふと目に入った新聞広告が、私に一縷の希望を与えた。
その新聞は北海道新聞ではなく、ましてや全国紙でもなく、週一回発行されている地元紙だった。
そこに書かれていたのは【不用品処分】。
早る気持ちを抑えつつ電話をかけた。

『じゃあ見積もり取りたいから今度現場見せてくれますか?』

決まった────。
その場にいた友人(リノベーション関係者)と共にガッツポーズをした。
2022年冬の出来事である。

それから何ヶ月かが経ち雪が溶けた頃、処分の時が来た。
現場では予定時間よりも早く作業が始まっており、私が着いた時には既に家の中の家具類が粗方取り出されていたのだ。
そこにいるは屈強で経験を積んでいそうな男性5人(後に3人増えて計8人)。
テキパキテキパキと見るも鮮やかにそして豪快に作業が進んだ。

作業日当日、到着時に見た景色がこれだ


小さな家に詰まっていた思い出が取り出された時間だった。この家には神棚があった。天井から外すと、お札が置き去りにされたままだった。

床に置かれた神棚を見るのは初めてだった

「きっとこの神棚が、この家を20年間ずっと綺麗な状態で守ってくれていたのだなぁ」思わず手を合わせた。

家具も家電も、神棚も、4tトラックに運び出された。恐らく2往復はしていた。他にも別のトラックがあったから意外にも大量のモノがこの家にはあったのだ。
その量こそ「人が住んでいた証」なのだろう。

物置の屋根のトタンを剥がす
処分の分別がとても丁寧だった
そして豪快に
破壊

作業は1日で終わった。
後日請求された額は約8万円だった。

ちなみに、この家にあった食器やその他使えそうなものは蚤の市に出した。
ちょうどこの町でリノベーション物件をメインとしたイベントが行われており、そこに出品させてもらったのだ。
小さいモノはこのようにして別の人に貰われていった。長く愛されることを願う。

さて、この時点でこの家に掛かった費用は36万円だ。


3.リノベーション開始〜水道問題

リノベーションの依頼も地元業者に頼んだ。先述と同じく、この町にお金を回したかったからだ。
信頼も実績も充分にある。そして知り合いがおり話がしやすい。一択だった。
何もかもが早かった。家を見せたその日の内に設計図が届いたのには本当に驚いた。

これは3回目くらいに送られてきた設計図

最初に家を見てもらった時に言われた「この家はとてもよく作られている。腐りもカビもない。土台もしっかりしている。大きな問題はない。」この言葉がとにかく嬉しかった。私はこの家が何かしらの問題を抱えているかどうか、一見しても分からず不安だったからだ。専門家が言うならこの家は大丈夫だ。

伝えた予算は、300万。
貯蓄の全てだった。
後日届いた見積もりは280万。
私は正式に依頼をした。

6月上旬に起工。
工事は極めて順調に進んだ、と思われた。

水道が止められていたのだ。

購入当時、水道の事情が全くよく分からなかったが、説明するとこうだ。
この町には、「本管」という水が流れている管が地中にあり、その周辺に住む人たちは、自費で「給水管」を敷き水道を引く流れになっている。
この「給水管」がこの家には無かったのだ。
というか、20年間家を空けられた間に給水管が古く朽ち、漏れ、水浸しになり、撤去されてしまったらしい。(私自身よく分かっていないので間違いかも知れない)
とにかく、このことを知らなかったばかりに、時間と代金が更にかかることになった。

さて、この水道通ってない問題をクリアするには。
単純に本管から引っ張ってこられたら一番簡単なのだが、生憎この家は本管から多少遠いところに立地していた。本管から遠ければ遠いほど、給水管は長くなり、工事費もかかってしまう。
そこで業者さんからある提案をされた。
「近所の人から給水管を分岐させてもらいましょう。」
業者さんはそれがベストだと見越してすでに現場周辺の配水管地図を用意していた。
工事が一番簡単だと思われるのが、隣の家だった。
ここで更に問題が発生する。

この隣家。
空き家だった。

正確には整備されているのだが、持ち主は常駐していない上に町外者だという。いわゆる別荘扱いの建物だった。周辺の住民とも付き合いがあまり無いようで誰も知らない。
配水管の分岐を頼みたいのに、隣人との連絡手段が全く無いのだ。
当たり前だが、水道代を請求している町役場からは情報をもらえなかった。当たり前だ。

建物はリノベーションはほぼ完了に近づき、あとは水道工事のみという段階だった。ここまで来て頓挫するのか。
「マジか」しか言えなかった。

無い頭を捻りに捻って出た手段がこれだ。
「法務局に聞こう」

私は覚えている。
物件購入時に司法書士さんが法務局に電話をして即座に様々な情報を得ていたことを。
なんとかならんか。
藁にも縋る思いでネットを開いた。
そして驚いた。


なんじゃこりゃ。

お金を払えばその住所の持ち主が分かるサービスがあったのだ。
「マジか」
いくらかかるのかは分からずとも、藁にも縋る思いだったので、特に深く考えず「一時利用」コースを申し込み、

手続きも含めものの3分程度で
隣家の持ち主を知ることができた。

こんなのその気になったら個人情報は手に入りまくりじゃないか。
ツッコミが止まらない中、なんとか、難なく、隣家の持ち主を突き止め配水管分岐をお願いする手紙を出したのであった。
ちなみに一件142円だった。
マジか。

かくして問題は解決された、と思った。

なんとこの隣人から手紙の返事が一向に来ない。

建物の引渡し日は迫っている。非常に困ったことになった。

業者さんと再度話し合い出た結論は、
「隣家は諦め、別の近所の人から配水管をもらおう」
ということだった。
周辺近所の人達は隣家と違い、元々この辺りに住んでいる人達ばかりだ。
恐縮する心を抱えながら、配水管を引けるであろう家を訪ねた。

「ああ、いいよいいよ。家の裏が草ボーボーなんだわ。水道管引くってんならそれも刈ってくれるのかい?いやありがたいわ。」

話が早すぎる。
無駄に時間だけがかかった水道問題はこうして解決した。

この交渉から1週間後、無事に建物が完成し引渡しが済むことになる。
一括支払いを済ませた夜、例の隣人から手紙の返事が来ていた。
そこには非常に丁寧な表現でお断りの文章が綴られていた。
向こうも独自に調べてくれたのであろう、誠実な対応だと思う。
未だ見ぬ隣人に会える時が楽しみだ。

リノベーション工事が完成し、実際の請求額は302万円となった。
当初の見積もりよりも高くなったのは材料費の高騰と水道工事と私の対応が遅くなったこととのあれやこれやである。
一括で振り込み無一文。なんと軽々しいことだろう。

ここまでで総額338万となった。


4. 現時点での総額

空き家購入費 18万円
登記情報書き換え 約10万円
不用品処分 約8万円
隣家の登記情報提供 142円
リノベーション費用 302万円

この他にかかっている費用は以下の通りだ。

・暗室用品 約8万円
 ヤフオクやメルカリで細々と買い集めている。親切な方から頂いたりもするが、未だに足りないのが現状だ。
 ちなみに私は普段中判フィルムを使っているのだが、手に入れたネガキャリアは35mm対応のみである。このままでは印刷ができない。
 富士フィルム F670MFに対応している66、67ネガキャリアを鋭意捜索中だ。この記事をみて心当たりがある方は是非一度連絡をいただきたい。

並べてみるとニヤけてしまう
この引き伸ばし機が果たして良いものかどうか
それはまだ知る由がない(ネガキャリアがないから)

・掃除&日用品 2000円
こないだダイソーで買いそろえた。クイックルワイパーもどきは思いもよらない方向に動くのでやはり正規品を買わなくてはいけないと思っている。

総額にして、約346万円。


私はこれくらいかかった。
周囲にはセルフリノベーションということで自分で、もしくは仲間を集めてやっているケースもあるが、残念ながら私にはセルフする技術も時間も仲間もいない。
利用できるものはなけなしの貯金のみだった。金だけでここまで出来た。
本当に今はお金がないから私を詐欺っても何の旨味もないし、資金運用なんて話を持ち掛けようがその資金がない。笑ってほしい。


今後必要な物としてスタジオ用品やクッションフロア、壁紙、薬品を保管するための冷蔵庫など、実用に向けて費用がどんどん嵩んでいる。水道、電気代もあるので尚更である。
空き家を買い、リノベーションして、実際の目的として使えるまで、果たしていくらかかるのか。
貧困層のくせにとんでもないことをしでかした自覚はある。
しかし「やっちまったなぁ」と笑顔でいられる。その正体は満足感だ。
なんといっても自分の夢が形を成そうとしているのだから。
今後もいろいろあるだろうが、後悔が無いように利用していきたい。

無駄に長く、間抜けさに溢れたエピソード群だったが、今後空き家購入、リノベーションを考えている人たちの参考になれば幸いだ。

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