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良い眠りが取れていますか?

 睡眠に関して大切なことが3つあります。今回は、この3つのことについて詳しくお話しします。
 その3つとは、
 1. そもそも睡眠をおろそかにしていませんか?
 2. 次に、眠れない状態を放置していませんか?
 3. 最後に、眠っているはずなのに昼間眠くて困っていませんか?
という事です。順番にいきますよ。ただし、今回は「ストレスがあって眠れない」という話は除外して話を進めます。ご了承下さい。

1. そもそも睡眠をおろそかにしていませんか?

 どうも日本人の国民性として、「仕事を頑張る」とは睡眠時間を削って「寝ずに頑張る」ということが当たり前のように行われていると思います。日本人と韓国人にはそのような国民性があるようです。最近、「四当五落」という言葉(受験勉強で4時間しか睡眠を取らずに必死になって勉強すると大学に合格し、5時間も悠長に睡眠を取っていると希望大学に合格できないという意味)が死語になっているのは良いこととして、頑張る日本人の中にはまだ睡眠は無駄なものと思っている人が多いようです。

 睡眠不足になると脳の前頭葉への血流が減ることが知られています。ここは「思考や判断」を司る部分なので、睡眠不足により単純ミスや判断の乱れが起きやすくなります。また、イライラ感やひどくなると感情が抑えられなくなることもあります。

 睡眠が何故必要か?という基本的なことがあまり知られていないので、睡眠を切り詰めて頑張るという行為が美化されやすいのではないかと思います。実は、睡眠は脳を保護するために必要な行為なのです。睡眠中に脳の血液量が増えて、脳の細胞が回復し、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβ等の老廃物が睡眠中に除去されたりしています。

 さて、問題はどれ程の睡眠が適切な睡眠時間か?ということです。睡眠時間は個体差があります。しかし、良くない睡眠というのもあります。それは、平日の休日の睡眠時間の差が大きい状態です。平日と休日の睡眠時間に2時間以上の差がある場合は、平日の睡眠が不足している危険性があります。この睡眠不足を「睡眠負債」と言っています。睡眠は借金は出来ますが貯金が出来ないという厄介やもので、その都度、借金(負債)を作らないようにして下さい。

 ある大学で、ボランティアを使って睡眠に関する実験をしました。A群は全く眠らないで3日間を過ごしてもらいました。B群には通常7-8時間の睡眠時間を取っている人達に6時間睡眠という短時間睡眠で14日間を過ごしてもらいました。それぞれの群である刺激に対する反応(分かりやすく言えば、ライトが光ればボタンを押すというもの)の時間を測定しました。

 結果は、B群の14日後の反応時間はA群の2日後の反応時間とほぼ同じでした。しかし、実験時に取ったアンケートからA群では「自分の反応時間が遅い」という自覚があったものの、B群ではその自覚がありませんでした。

 つまり、短時間睡眠が14日継続された場合、2日全く寝ていないのと同じ反応速度になり、なおかつその自覚がないという実験結果が示されました。「自覚症状のないパフォーマンス低下」が生じるというものです。

 この睡眠不足状態を「睡眠不足症候群(慢性の睡眠不足のために日中に過度の眠気に襲われたり、能力の低下が見られる状態)」と言っています。また、睡眠不足は2-3日で麻痺してしまい、自覚がなくなります。眠らずに仕事を頑張っている状態がどれ程異常なものか理解して下さい。若い頃の私がそうであったように、自分でその状態を作り出して、「頑張っている」と思い込んで生きている人がいます。この状態に絶対に陥らないようにしましょう。産業医としても、「疲れた状態で仕事をする」ことは絶対に止めていただきたいことです。

 また、睡眠は一度に取らないと効率的ではないということを理解して下さい。関東地方で産業医をやっていると、こんな人が結構いらっしゃいます。千葉県の会社に勤めていて、家は埼玉県、通勤に90分以上かかり、残業もあるために家に帰って睡眠時間は4時間。しかし、電車では座れるために睡眠時間は合計7時間なので睡眠時間は十分取れているというものです。しかし、睡眠は一度に取らないと有効ではありません。

 また、帰りの電車での睡眠はその夜の睡眠の邪魔をしている可能性さえあります。一度しか寝ない睡眠の取り方を単相性睡眠。何回かに分けて睡眠を取る取り方を多相性睡眠といいますが、多相性睡眠の場合、長い睡眠と覚醒時期の中央に近い時間での短い睡眠というパターン(お昼休みのちょっと寝)意外のパターンは、疲労回復効果が良くないという結果が出ています。十分な時間の単相性睡眠が望ましいとされています。

 睡眠に問題がる場合、昼間の眠気という自覚症状があります。昼間の眠気で困っている場合は自分の睡眠を見直して下さい。くれぐれも、寝ずに頑張ることが良いことだという誤った考えは持たないようにして下さい。

2. 次に、眠れない状態を放置していませんか?

 ある会社で社員全員との面接の依頼があったので面接してみました。内容としては、強いストレスを感じていないか?また、そのストレスの原因は?実際に困っている症状は?と色々と聞いてみたのですが、ストレスのために眠れない状態になっている場合は、すぐに人事的に対応してもらいましたが、ストレスがそれ程ないのに眠れないと言う人が1割強いたことは意外でした。

 聞いてみると、中学生・高校生の頃から寝入りが悪い人って結構いらっしゃるようです。私自身を振り返っても、小学生の頃からたまに眠れないことがあり、家族が寝静まった後でも一人だけ起きていたり、中学生の頃になると眠れないので小説を読み出し、高校生の頃になると午前2時頃まで参考書や小説を読んでいたりと結構な量の読書が出来ました。読書をしながらの寝落ちが習慣化されていました。

 それで、眠れていない社員さんと話をしてみて思ったのが、眠れないという状態を病気だと思っていないということです。

 睡眠が取れていないということは病気です。早く直しましょう。

 眠れない社員がいれば、一応、次のこと
  1. 運動をする。ただし、寝る2時間前には終える。
  2. お風呂に入る。
  3. 太陽を浴びる。
に取り組むようにアドバイスします。

 それでも眠れなくて困っている場合は、睡眠外来の受診を勧めています。

3. 最後に、眠っているはずなのに昼間眠くて困っていませんか?(また、眠れない病気について)

 寝入りにも問題は無く、睡眠時間も十分あり、朝まで起きることはないけれども、朝から眠い、疲れが取れていないという人はいませんか?また、眠りを妨げる代表的な病気は3つです。
  1. 睡眠時無呼吸症候群 → 睡眠不足の自覚がない
  2. 周期性四肢運動障害、レストレスレック症候群 → 中途覚醒
  3. むずむず脚症候群 → 入眠障害
順に説明しましょう。

 1.睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠が深くなると身体全身の力が抜けるのに伴い、舌根に力が入らなくなり舌根が重力により落ちて気管を塞いで呼吸が出来なくなるというものです。呼吸が出来なくなると意識は戻らないまでも睡眠状態は浅くなり舌根が戻ります。そして、再び睡眠が深くなり舌根が落ちて気道を塞ぐということを繰り返します。

 眠りが浅いときに音や光という刺激があれば目が覚めることもあります。橋下徹大阪府知事が政治家引退後に病院に行ったら睡眠時無呼吸症候群の診断を受けたというエピソードがあります。弁護士時代も短時間睡眠で仕事をされていて、政治家時代も大活躍ですが、睡眠時無呼吸症候群の治療を受けたら「びっくりするくらい快眠ができた」とテレビで話されていたのを覧たことがありますが、それ程治療が有効です。

 軽症の場合はマウスピース、重症の場合はCPAP(シーパップ)という強制的に空気を送り込む機械を付けて寝ます。可能性のある場合は、耳鼻咽喉科や睡眠外来を受診して下さい。

 2.周期性四肢運動障害、レストレスレック症候群は、睡眠中に手脚や脚が急に動き出して中途覚醒となります。そのような場合は神経内科の専門医を受診して下さい。

 3.むずむず脚症候群は、こちらは夕方から寝る前に主に脚の深い部分に違和感を覚えて中々眠れなくなる病気です。こちらも神経内科の専門医を受診して下さい。

4. まとめ

 まず、睡眠は絶対に必要なものです。それを削って仕事をしても最後は上手くいきません。毎日の睡眠を大切にして睡眠負債を抱えないようにしましょう。
 睡眠時間は一度に多くの時間を取ることが重要で、疲労の回復にはつながりません。
 眠れない時には、眠る努力をしましょう。それでも眠れないときには「睡眠外来」を受診しましょう。
 眠れているのに、昼間の眠気がひどいという場合は睡眠時無呼吸症候群を疑って耳鼻咽喉科か睡眠外来を受診して下さい。
 また、中途覚醒や入眠障害を起こす病気も知られていますので、お困りの場合は専門医の受診が必要です。

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