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集団に馴染めない社員

*人と接することが苦手な「高機能自閉症」について理解して下さい。人と接することを苦手とする発達障害を自閉症と言います。自閉症の多くは知恵遅れを伴っていますが、知恵遅れのない自閉症を高機能自閉症と言います。

 A氏、28歳女性。一般職。地元短大を優秀な成績で卒業して、短大からの推薦で入社。
 人事担当者から産業医へ「会議室で昼食を食べさせて欲しい」という申し出が休職中のA氏からあったのですが・・・という相談があった。
普通なら断るところだが、この社員はうつ病の診断で2度の休職歴があり、復職にあたり主治医と相談して会社にこのような申し入れをしてきたということであった。
 本件の経過は、短大を卒業して入社8年目。5年目当たりから勤怠が悪くなり、1ヶ月の休職、復職後も勤怠は安定せずに上司と面接を繰り返すようになった。7年目に勤怠が悪いので再び休職し、今回が2回目の復職となった。
そこで産業医として、復職前に事情を確認すべく面接を行った。面接時に確認したところ、「人が多いところはストレスとなる」「昼の食堂は人が多くてストレスとなるので、別室で弁当を食べさせて欲しい」ということであった。

*あまり前例のない申し出に対して、復職前に面接をしたケースです。時間をかけて話を聞いてみると、どうも高機能自閉症という発達障害がベースにありそうなので、本人と詳しく話をしてみました。自分が会社という集団に適応出来ていない自覚はあったが、その理由が分からずに8年間苦しんでいた。しかし、高機能自閉症という発達障害が自分にはあって、それが原因でストレスを感じていると分かったら、日頃抱いていた不快感や不安感がやわらいだ。

 この会社は食事については食堂以外での食事は認めていなかった。更に詳しく聞いてみると人が多いところは不安になるということで、特に製造現場で働く若い男性の乱暴な言動を聞いていると恐怖を覚えて落ち着かないということだった。
 例外を認めると他にも影響を与えるかも知れないので、診断書を出してもらえば最大3ヶ月であれば対応するとして復職した。

*疾病が原因として何らかの配慮が職場で必要なときには期限付きの診断書の提出を求められることがあります。

 本人と何度か面接をして、「うつ状態の元になるストレスは何ですか?」と聞いたところ、仕事の内容は全くストレスにならないが、休憩時間や出退社時に多くの人のいるところへ行くことや、予期しない他人からの会話に強いストレスを感じるという事であった。
 本人に「高機能自閉症という言葉は知っていますか?」と聞いたところ「初めて聞きます」という事であったので、「人間には色々な特色がありますが、人と接することが大変苦手な性質を持っている人のことです」と概要を説明した。
 復職後に何冊か本を読んでみたところ「確かに自分にはこの傾向があって、子供の頃から悩んでいた」と言って、「どうしてこう不安になるのか分からなかったけど、自分の性格傾向をある程度理解できて安心した」と言っていた。
 その後、勤怠は安定し、昼食も普通に社員食堂で食べている

*出身短大では、優秀な成績の学生を地元の優良企業に推薦枠で就職させることが恒例となっていたために、この会社に就職したのですが、自分のそのような性質が学生時代に分かっていたならば、例えば図書館秘書のようなもっと静かな就業環境を求めていたでしょう。将来的にはもっと静かな就業環境を探すにしても、今ではこの職場にも慣れたし、当分、このまま仕事をしていようと思っています。

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