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「息子と2ヶ月ぶりの再会」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記7
某月某日
週一回、1時間ばかりの妻との面会。1歳6カ月の息子の子育てと仕事を両立している妻の自由になる時間はほぼない。この日曜の昼だけ、ジジババに預けて、洗濯物や日用品を届けに来てくれる。私と息子との面会は、感染の問題があるため、入院以来2カ月間まだ一度も出来ていなかった。
息子の普段の様子は、妻が動画に撮ってくれている。それを見ながら話すのが面会時の定番。また大きくなったね。顔が乳児から幼児になってる。言葉も覚え始めたよ。「パパ、パパ」ってよく言ってる。次がなぜか「ウインナー」。お歌に合わせて創作ダンスをするのが最近のブーム。
私から息子へのメッセージ動画も撮影してもらう。毎晩寝る前に息子がその動画を見たがる、という話を聞かされ、毎週撮影するようになった。呼吸は苦しくなるが、おどけたりして何度も息子の名を呼びかける。
つかの間の時間が終わり、妻が帰るとなったとき、今日はジジババたちと車で来たので、息子ともども病院の一階ロビーで待っているという。
それを聞いて、どうしても会いに行きたくなった。
長時間ってわけじゃない。ほんの少し。一目でいい。マスクをもちろんつけるし、戻ったらすぐうがい手洗いをする。カメラ越しじゃなく、どうしても直接触れたいんだ。
先生の言いつけを破ることに躊躇する妻をどうにか説得して、車いすで1階まで連れてってもらう。休日で人のいないガランとしたロビーで、キャッキャッと遊びまわる息子がいた。
名を呼ぶ。かすれて届かない。妻が代わりに呼びかける。息子が振り向いた。
…………。
彼の瞳が、じっと私を見つめる。私も彼を見つめ返す。言葉を選んでるのか、出てこないのか、ずっと黙っている。不思議そうな。戸惑ったような。今にも笑ってくれそうだし、泣き出しそうな感じもする、複雑な表情で。
もう一度、ゆっくり名を呼ぶ。
恥ずかしそうに、ジジたちの後ろに隠れてしまう息子。「どうしたの? パパ来てくれたよ」 妻が促そうとするも出てこない。でも嫌がってるわけじゃなさそう。顔だけ覗かせてこっちを気にしてる。
「パパだよ。いつもありがとね。もうすぐお家にも帰るからね」
願望と決意を込め、息子に伝える。
息子は困ったような顔でママに助けを求めた。とっさに機転を利かしたママが、「ほら、いつも踊ってるやつ、パパに見せてあげたら」と歌い始めた。
♪ ある日パパとふたりで~ 語り合ったさ~
この世に生きるよろこび~ そして悲しみのことを~
グリーングリーン 青空には ことりがうたい~
グリーングリーン 丘の上には ララ 緑がもえる~
朗らかに歌うママに合わせて、踊り始める息子。笑う余裕はなく、真顔で、真剣に踊ってくれた。パパに見せようとしてくれてる。パパのためにという気持ちが伝わってくる。
1番だけの短い時間。歌が終わるとまたすぐ恥ずかしそうにうつむく息子に、もう一回名前を呼んでグータッチを求めた。自然と出た行為。昔よくやってた二人の挨拶だ。彼は、はっとした顔になった。やがてゆっくり手を出して、応えてくれた。
タッチ!
面会はそこまで。
直接的な言葉のやりとりはなかったけど、十分すぎるくらいの以心伝心をした気がして、私は満足だった。
病室に戻りしばらくすると、妻からメール。
「パパがいなくなってからずっと、パパ! パパ! って言ってたよ」
目頭が熱くなる。同時に、自分は幸せだな、と思った。不幸のどん底にいると思ってたけど、そうじゃないって。
*
『グリーングリーン』って曲。メロディは知っていたけど、歌詞はうる覚えだったのでネットで調べる。父と息子の心の会話がテーマだった。
(5番)
♪その朝パパは出かけた~ 遠い旅路へ~
二度と帰ってこないと~ ラララ ぼくにもわかった
グリーングリーン 青空には虹がかかり~
グリーングリーン 丘の上には ララ 緑がはえる~
あれ? このパパ死んでない !?
若干気になったけど、そこは見て見ぬふりをして、もう一度あの時の光景を思い出し、余韻に浸る。
ありがとね。
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