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[朗読 3分] 『飲み込んだココロ』 | ショートショート

【ツマヨム】妻が自作の物語を朗読してくれました。【期間限定公開】
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シャンペングラスを合わせる。
「終わったよ。大成功だ」と博士は言った。
研究から解放された喜びと安堵が表情に見て取れる。
博士は「全て君のおかげだ」と付け足し、私の肩を叩いた。

メタバースでの恋愛プロジェクト。
VRユーザーとして多くの異性と交際する。
博士の開発したAIは、会話や感情表現に瑕疵がなく共感力も伴って半永久的に人間のパートナーになれると証明された。

「KK0704」
博士が番号を呼び、
「最大の感謝を贈る」と頬にキスをした。
私が微笑むと、
「不思議だ。時に私でさえ本当に心があるように感じる」
と、私の目を見て言った。

「KK0704」
もう一度番号を呼び、私の唇に人差し指を近づける。
刹那、博士の瞳に溢れ出した涙に、私は動けなくなった。
博士はシャンペンを一気にあおり、
「これをもって終了とする」と囁いた。

博士の指が、唇の奥にあるスイッチに触れる。
私は目を閉じた。
――名前をくれる約束は……
言葉を飲み込んで、グラスを落とした。

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※元の記事:
https://note.com/t_kanatsu/n/n49d6851bb298 #うたスト 参加作品

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