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引きが強い男の話

例えば家のトイレの紙。
最後の切れ端を掴むのは私。
ティッシュペーパーでも。
ラスイチの交換者となるのはいつも――

タイヤがパンクした。
普段は妻と五歳息子が乗る電動自転車。
一年ぶりに私が借りて、郵便局に向かう途中。
……なぜ私の時に?

炎天を歩いて行くのが億劫だった。
四時まで待ったが涼しくなる気配はなく。
酸素カートをチャイルドシートに乗せるチャレンジ。
意外と安定し、英断を自画自賛していた矢先――

違和感が後部車輪に。
バーストではなく、徐々に空気が抜けてく感じ。
降りて調べるも原因不明。

家に戻るか、どこかで空気入れを借りるか。
噴き出す汗に、近くの自転車屋を思い出す。

「内部チューブの劣化破損ですね」

自分では直せない。店を選んで(& 私の時で)良かった。
酸素供給されている私を見て、お兄さんが労いの言葉を掛けてくれた。
思わず我が運命を自虐する。

「引きいいですね」

悪びれもしない言葉に感化され、宝くじを買って帰ろうと決めた。


ペコペコの自転車を引く油照

(ぺこぺこのじてんしゃをひくあぶらでり)

季語(晩夏): 油照、脂照


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