君の足音を聞き分くホワイトデー
青年は校門を出るや急ぎ足で駅の駐輪場に向かった。
……まだある。
目当ての自転車を確認すると、その場所である人を待った。
鞄から学ランのポケットにリボンの箱を移し替えようとしてふと、十年前のことが昨日のように蘇った。
自身、六歳の記憶。
その日は洋菓子屋で働く母が忙しく、父が保育園に迎えに来た。
帰宅するや言う。
「ちょうどよかった。今からママにお手紙を書くぞ」
きょとんとしているとベッドの下から包みを取り出し
「今日はお返しをする日なんだ、知らないか?」
そこで気が付いた。
「ホワイトデー。パパ、買ってくれてたの? ありがとう!」
書いた手紙をクッキーの箱と一緒に持って、母の帰りを待った。
「今、足音聞こえたよ」
「いや、階段上って行ったから違うよ」
喜んでくれる顔が早く見たくて、今か今かと急いていたあの気持ち。
カタン。
かすかな物音に直感が働く――この足音!
大好きな彼女の顔が浮かぶ。
青年のお返しを持つ手がかすかに震えた。
(きみのあしおとをききわくほわいとでー)
※日記をもとにして小説 風に表現してみました__🖋
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