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『過去へ出す手紙』

とある港町に来ていた。
冬の潮風を顔に受けながら辺りをうろつくと、それはすぐに見つかった――青い郵便ポスト。

「そんなのないだろ?」
「僕見たんだもん」
「どこで?」
「それは忘れちゃったけど。でも手紙が早く届くポストなんだ」
「ははは。ドラえもんだな」
六歳の息子としたやりとりを昨日のことのように思い出す。あの時、私は……

「父さんはいつもそうだっ。自分が知らないことは認めない。青いポストのときだって――」
久しぶりに帰省した息子と諍いの途中、唐突に言われて言葉を失った。小さな心はずっと覚えていたのだ。嘘だと決めつけられた悔しさを。
青いポストの実在を知ったのはあの晩すぐ。速達専用ポストとして各地に点在していた。息子は正しかった。けれど、その事実を私はずっと伝えずにきた。すぐに謝っていたら今の綻びも起きなかったやもしれぬのに。

ポストの前に来ると不意に風が止んだ。
「まだ間に合うかな」
ぽつりつぶやき手紙を投函した。


冬凪の青ポストより出す懺悔

(ふゆなぎのあおぽすとよりだすざんげ)

季語(三冬): 冬凪、寒凪(かんなぎ)



※日記を小説風に表現しています__🖋
子どもの言うことのどこまでがホントでどこからが想像か分からなくなってきてる昨今。早合点はいけませんね。記事のような大げさにならないよう今から謝ってきます――


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