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子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記

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2017年に指定難病「皮膚筋炎」翌年「間質性肺炎」と連続して発病し3年間入退院を繰り返してきました。気持ちの整理がついた今、入院中にしたためていた日記を再構成して文章にしていこう…
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2019年12月の記事一覧

「息子と2ヶ月ぶりの再会」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記7

某月某日 週一回、1時間ばかりの妻との面会。1歳6カ月の息子の子育てと仕事を両立している妻の自由になる時間はほぼない。この日曜の昼だけ、ジジババに預けて、洗濯物や日用品を届けに来てくれる。私と息子との面会は、感染の問題があるため、入院以来2カ月間まだ一度も出来ていなかった。 息子の普段の様子は、妻が動画に撮ってくれている。それを見ながら話すのが面会時の定番。また大きくなったね。顔が乳児から幼児になってる。言葉も覚え始めたよ。「パパ、パパ」ってよく言ってる。次がなぜか「ウイ

「肺、破れる」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記8

某月某日 ふたたび死にかけた。    * 大部屋に戻り三日。一人で立ち上がって出歩くことは出来ず、移動するには酸素ボンベをつけて車いすを看護師に押してもらう、という状態。 私は自意識過剰で、ベッドで尿瓶を使って用を足す行為がスムーズに出来ない。音が漏れたらどうしようとか、こんな場所でしちゃうなんて、という罪悪感がまさってしまう。ましてそれを看護師に「出ました」と言って手渡すなんて。 排便にいたっては完全に無理ゲー。個室でも出来ないのに、カーテン一枚向こうに人がいる大

「隣人トラブル」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記9

夜中。と言ってもまだ午後9時10分。突然、同室の親父がカーテンを開けて怒鳴り込んできた。 「いつまで電気つけてんだっ。9時過ぎてんだろっ!」 その剣幕、怒声にたじろぐ。 「消灯時間過ぎてんだよっ。迷惑だろがっ!」 時計を確認する。確かに10分過ぎてる。しかし、この言い方は……。    * 以前より、この親父には警戒していた。とにかく短気で、看護師や同室の他の患者に対しても愚痴や文句を言いまくる人。特に規則・ルールに厳しく、つい一昨日の夜も隣人のテレビの音漏れに激昂

「書いては書き直し」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記10

某月某日 再入院から3か月。前回の入院期間をあっさり更新する。今がどん底我慢の時、と毎日のように唱えているが、まったく先が見えない。 気胸、縦隔気腫に加え、間質性肺炎をはかる血清マーカーKL6が入院レベルの3,000台から落ちてこないのが辛い。血漿交換ワンセット(3回)をもう一度やり直すという。が、果たして効果のほどは……。心が頑なになる。 次なる治療として、新薬「ゼルヤンツ」を処方していく旨も伝えられる。薬価一錠2,500円もする劇薬。家族が呼び出され、手術並みの説明

「介護される気持ち」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記11

某月某日 「俺は家畜じゃねえぞ……」 入浴時、自分で動けない者は勝手にシャワーを浴びてさっぱりすることはできない。週一回、決められた時間に看護師の介助を受けながら入浴する。 マスクで10リットル/分の酸素を供給されながら、車いすで連れていかれ、基本的に自分で動くことなく、全ての洗浄作業を行ってもらう。デリケートな部分もすべて。 王様気分で至れり尽くせりのラグジュアリー? 否、現実は違う。決められた時間の中で移動、入浴、着替えをこなさなくてはならないこの一連は、看護師に

「車椅子のうんてんしゅ」~難病になった喜劇作家の"再"入院日記12

某月某日 入院から4カ月。髪の毛は白髪交じりでボサボサ、プレドニンで抜け毛も激しく、病人みたいな風貌に。病人だけど。 介護入浴を遠慮したため、週に一度ほど、優しくて心配りも知識も安心感もある病棟一美しいチェ・ジウ看護師の気まぐれにしてくれるシャンプーだけが癒しの時間。    * 朗報。新薬ゼルヤンツが効果を発揮、肺炎の進行が止まった。死への直線ルートはひとまず回避。もやのかかっていた行先に光明が差す。来月になったら、一時帰宅(外出)という話も出てきた。素直に嬉しい。こ

「ウォッチリスト ~心くすぐられる人」難病になった喜劇作家の"再"入院日記13

某月某日 今回の入院は、HCUや個室部屋にいることが多かったが、数週間後の退院が見えてきた今、再び大部屋生活に移ることになった。職業病よろしく、また人間観察がはじまる。    *    * 私の隣に珍しく20代と思しき若者。糖尿病予備軍との診断を受け10日間の教育入院。坊主頭の氷川きよしといった風貌の可愛らしい青年だが、かなりの理屈屋。医師に「10日間という短い時間では、僕という甘えた人間は変わらない」と自ら宣言するような人物。 「僕を変えて欲しい。僕はここに出家し

「一時帰宅」難病になった喜劇作家の"再"入院日記14

某月某日 「車椅子で乗れるわけないでしょうがっ!」 運転手からの怒声に頭が真っ白になる。平謝りする妻を横目に私はただ呆然と立ち尽くすだけ。    * 今日は外出許可が出て初の一時帰宅。昨晩から不安とワクワク感で、寝不足気味。外に出られる喜び。家に帰れる喜び。1歳9か月の息子と会える喜び。少しでも長い時間楽しみたいと、妻には面会開始時刻の朝10時に来てもらう。大きな酸素ボンベを抱えて、いざ出発。その矢先。タクシー乗り場での出来事だった。 「車椅子はトランクに入りません

「(((((((((ありがとう))))))))) の花束」難病になった喜劇作家の"再"入院日記15

某月某日 退院の日の朝 昨晩、Facebookにプライベート限定記事として、この1年間に起きた発病から入院までの経緯と、これからの闘病生活に対する覚悟を綴った。誰にも知らせてなかったから、その反響は大きかった。今朝見返したら、多くの友人・知人があたたかいメッセージを寄せてくれていた。とても励まされた。(ありがとう) 昨日は、ソーシャルワーカーが車椅子を手配をしてくれ、同時に、パルスオキシメーター購入の9割負担を市がしてくれる制度も利用することが出来た。金銭的負担が減ること