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ポップコーンは買わない派です。vol.23

カツベン!

日本映画における吹替の原点をみた!

予告編


あらすじ

「Shall we ダンス?」「それでもボクはやってない」の周防正行監督が、サイレント映画時代を舞台に一流活動弁士になることを夢見る青年を主人公にしたコメディドラマ。当時の人気職業であった活動弁士を夢見る俊太郎が流れ着いた小さな町の閑古鳥の鳴く映画館・靑木館。隣町にあるライバル映画館に人材も取られ、客足もまばらな靑木館にいるのは、人使いの荒い館主夫婦、傲慢で自信過剰な弁士、酔っぱらってばかりの弁士、気難しい職人気質な映写技師とクセの強い人材ばかり。雑用ばかりを任される毎日を送る俊太郎の前に、幼なじみの初恋相手、大金を狙う泥棒、泥棒とニセ活動弁士を追う警察などが現れ、俊太郎はさまざまな騒動に巻き込まれていく。


活動弁士ってなんだ

活動弁士というのは活動写真(サイレント映画)の上映中に場面の解説を行う人物である。現在で言うナレーターの立ち位置らしいが、私は現在の日本映画における吹き替えの原点というか『吹き込み』になってると言っても過言ではなく、日本独自の映画のスタイルを築いていた。

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かつての映画には音声がなく、ひとセリフごとに字幕のカットが入ってくるのである。チャップリンの映画をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれない…!

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このカツベン!では主人公の活動弁士の活躍を描いていて、弁士によってサイレント映画に対して各々の表現技法でお客さんに娯楽を提供していた。各々で自らのスタイルを築きあげていて、キャラクターもはっきりしているので弁士によって人気も分かれていたそうだ。

その弁士によって集客も大きく異なってくるため劇場所属の弁士は人気があると非常に重宝されていた。人気が噂になると他の劇場から引き抜きという形で移籍する弁士も多かったそうな。その模様も本作では描かれている。まるで野球選手の移籍のような感じですな。


トーキー映画について

トーキーというのは映像と音声が同期した映画のこと。この語は「talking picture(トーキング・ピクチャー)」から出たものでサイレント映画(無声映画)とは対義語である。日本では活動写真に弁士が言葉を吹き込んでいたためにトーキーは根付きづらかったらしい。

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実際にトーキーが1900年のパリで上映されてから商業的に成り立つまでに10年はかかったらしい。当初は映画フィルムとは別にレコード盤に録音したものを使っていたため同期が難しく、しかも録音や再生の音質も不十分だったらしい。

廃業に追い込まれる活動弁士

徐々に台頭してきたトーキー映画に対して弁士たちは活動弁士としての仕事を追われていく。しかし、活動弁士の仕事はなくなっても、漫談や講談師、紙芝居、司会者、ラジオ朗読者などに転身した。

活動弁士には映画の解説を行う際に話術が高く要求されるため、その優れた話術や構成力がそのままタレントなどとなっても活かせたらしい。

しかし、少なからずいまだに無声映画を上映している劇場はあるらしく、副業として活動弁士の活動を続けている方はいるみたいで、まさに日本が誇る職業遺産。残していくべき伝統芸能であると思うわけで…。


吹き替え

吹き替えというのは別名で替え玉とも呼ばれ、昔から歌舞伎や舞台などで主演の代わりに演じるという立ち位置にあった。なぜそんなことをしていたのか。映画には時たま危険なアクションシーンとかも存在するわけだ。演技のみやってきた俳優だけでは危険すぎるということで、アクションシーンだけ別の俳優が演じるという形がとられていた。これがいわゆるスタントマン。当時はそんな言葉存在しないから。替玉俳優などと呼ばれていたらしい。でもプライドの高い俳優はそういったことは嫌ったそうだ。
吹き替えという職業は主演の代わりに演じるという立ち位置だったんですね。

さて、ここからは日本の吹替映画と活動弁士との共通点について考察を進めていこうと思う。

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玄田哲章(げんだ てっしょう)
日本の声優、舞台俳優、ナレーター
声質はバリトン。独特の太い低音の声質の持ち主である。多数の洋画作品で吹き替えを担当しており、アーノルド・シュワルツェネッガーのような鍛え抜かれた体を持つ俳優の吹き替えを多く担当している。

玄田さんはシュワルツェネッガーが持ち役でシュワちゃんが出てる作品の吹替は玄田さんがすべて担当しているらしい。
一度聞いたら忘れられないあのバリトンボイスはテレビや街中のビジョンなどで聞いたとしてもフッとシュワちゃんが降りてくるはずだ。

このアーノルド・シュワルツェネッガーが主演している作品の中で今回紹介したいのが、『コマンドー』

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この作品はどちらかといえばB級に近い映画で、興行的にもそこまでヒットしていない。11億程度らしい。
ちなみに歴代興行収入の1位は『千と千尋の神隠し』で約308億円とされている。

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しかし幾度となく日本ではテレビ上映されていて非常に人気が高い。2013年当時だが、日本で一番放映されている洋画が『コマンドー』なのだ。
それはなぜか。ここに吹き替えの面白さが詰まっている。

先ほども述べたようにシュワちゃんの声は玄田さんが担当している。吹替は日本語訳でその役を演じるわけだが、その日本語訳をただ言い回すだけじゃないのすごいところで、独特の言い回しがこの作品の中では目立っている。字幕だけではなかなか目には止まらない言い回しばかりで、これに関しては玄田さんだけでなく他の演者さんの言い回しも面白いので、吹き替えの監督が素晴らしいのでしょう。それか何か吹っ切れたのか。

コマンドーは吹替が本編を超えてオリジナル作品としてその地位を築き上げていった気がする。

カツベン!でも主演の成田凌君演じる染谷俊太郎が、オリジナルの言い回しで客を惹きつけているのが非常に印象的だった。

作品の中でも『弁士によってつまらん作品も一級品になるんや』という言葉が印象的で、まさにコマンドーはその言葉の通りになっているなと思うわけで。

また作品によっては吹き替えを演じる声優も異なってくるのでその違いに困惑したり、納得したり、議論が多く交わされているのは事実だ。

ここまで吹き替えの地位が上がってきたのも元はと言えば活動弁士たちの類稀なる稽古の努力があってこそだと感じる今日この頃である。日本映画のアイデンティティのひとつを感じることができたそんな作品であった。

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