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ドローン・オブ・ウォー(2014年/アメリカ) バレあり感想 ドローン攻撃が内包する問題を真っすぐ突き付けてくる映画。

※2020/1/13に『趣味と向き合う日々』で投稿した感想記事の加筆修正版です。だいぶ加筆してます。


情勢が情勢なのでこれを機にって意図もありますが、ドローン兵器による攻撃がどういうものなのかが端的によくわかる映画だと思います。

アメリカにしか作れない映画、と元記事では書いていましたが、その認識は今後改めていかないといけないかも。

『ドローン・オブ・ウォー』

(GOOD KILL)

ドローンオブウォー映画ポス

 以下、ネタバレを含む感想記事です。


■ストーリー


パイロットからUAVの操縦者に転身した男だが、そのあまりの非現実感と実際に敵兵の命を奪っている現実との板挟みに遭い、精神が疲弊し崩壊していく。

 

■感想


正義とは何ぞや?という問いかけと、その歪みに翻弄され精神をすり減らしていく男の姿を描いた映画。

無人攻撃機、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)による攻撃が内包する問題点にフォーカスしたような作風が特徴的でした。

特に操縦者達に降りかかる問題(特に人を殺している事実に対する認識について)と、誤爆による一般人への被害についてかなり切り込んだ内容になっていました。



トミー(イーサン・ホーク)はUAVの操縦者ですが、実は元ベテランパイロットである事が何度も強調され、パイロットへの復帰を望んでいるような節も時折見せていました。

軍人としてのキャリアもしっかりと積んできた男であるはずのトミー。しかし作中ではドローンを運用した作戦をこなすたびに、どんどんその精神状態が不安定になっていきます。

つまり、ベテランと呼ばれるほど長く軍属として生きていて軍隊というシステムに慣れた人間ですらドローンによる遠隔攻撃の異質さには対応できないという事を強く示しているんじゃないかと思います。

一見すれば、敵の戦力を味方の被害も無く 一方的に削ぐ事の出来る超兵器であるドローンですが、その操縦者への心的負担が考慮されていないという点がひとつのデメリット、問題点なのかもしれません。

あるいは、それに対応できるような、非現実感を最初から強調するような訓練を受けた兵士(作中でもトミーの同僚はそのような訓練を受けた兵士達でした)がたくさん生み出され、無機質に命を奪える戦闘手段が常態化する事も、やっぱり倫理的な部分も含め個人的には色々と良くない事になるように思います。



UAVによる一方的な攻撃は既存の戦争形態と大きくかけ離れたものです。安地から命令を受けた座標や標的めがけ一方的に攻撃を行う事ができます。

爆撃を行っても衝撃や音は伝わる事無く、ただ画面の向こうの建造物や人間が吹き飛ぶだけです。

この静けさは異様です。戦争映画ですが既存のそれらとは明らかに違う異常性を端的に感じる事ができます。

「画面越しでもゲームとは違い実際に人を殺している事実を忘れるな」とジョンズ中佐が新米兵士達にスピーチするシーンがありました。

しかしこの戦い方に現実感をもって挑んだトミーは結果として、冷房の効いた安全な基地の一室から一方的な殺戮を行う状況に精神を疲弊させていく事になります。


当所はトミー自身もどこか麻痺していたような雰囲気がありましたが、ストーリーが進むにつれどんどんUAVによる攻撃が内包する異常性が浮き彫りになっていきます。

更に中盤以降はCIAからの極秘任務として、無関係な一般市民を巻き込んででも標的を殺害するような命令が何度も下されます。

トミーと新米のヴェラとジョンズ中佐はこの任務に明らかな不快感を示しますが、一方で残りの仲間達は素っ気無く卒なく淡々とこの任務をこなしている点が恐ろしいです。

 


CIAからの極秘任務で一般人もろとも爆撃(誤爆というには余りにも意図的すぎます)して無関係の人々を殺害する一方、トミー達の監視する地区で女性を暴行した変態男は、標的では無いが為に放置され生かされます。

つまり生殺与奪の為の選択に人間性を伴う判断は介在せず、戦略目標というこれも相当無機質な見立てで一方的に人を殺している、という事です。

そんな新時代の戦争に参加し続けた結果、トミーを含むUAV部隊のメンバーは、いずれも人間性が破壊された兵士か感覚が麻痺した兵士か、そのどちらかしか居ない状態になっていました。部隊内狂気度たかすぎワロタ……。

 

 

トミーは最後、女性に暴行を働いていた一般市民の変態男を私的な理由で爆殺しました。

女性が爆撃に巻き込まれ死亡してしまったのではないかと一瞬ひやっとするトミーですが、その後女性が起き上がり、トミーは胸をなでおろします。

これ一見すると最後の最後でトミーが抵抗してひと泡ふかせたエンドっぽく見えますが、そんなハッピーエンドがちらつくような終わり方では無いように思います。

トミーが結局はUAVによる一方的な攻撃という手段で、自分の中の正義を全うしてしまったという事が、この映画で伝えようとしている新時代の戦争の一番の問題点を端的に描いていると個人的には捉えています。

これって「どうせ命令で散々無差別爆撃したしもういいや」的な、ある種の麻痺や諦めに近いものに思えますし、なにより安全地帯から一方的に殺戮を行うという、根本的な残虐性をトミー自身が肯定したようなものだと思います。



FPSなどのゲームが大流行した当初、それに対して「人を殺す現実感が麻痺するのではないか、現実の犯罪を増長するのではないか」みたいな事を危惧する意見がたくさん出ていたことがありました(日本では未だに言われてますよね)。

ところが現実の世界では、既にゲーム的に実際に人を殺すという戦い方が確立されている事実があります。

その状況下で自分を麻痺させても現実と向き合っても、行きつく先にまともな状況なんて無いんじゃないかっていう、そういう暗い世界の到来を示しているような気もしました。

 

 

 

■〆


個人評価:★★★☆☆

 

無人機による攻撃で露見する様々な問題や異常性に、精神を疲弊させてしまった男の姿を描いた映画でした。

ゲームと現実の境目が曖昧になりそうな新兵器とシステムに、全うな倫理観と人間性をもって挑んだ結果、ひとりの男が壊れていくというとても悲しくて虚しい作品ですが、冒頭で示される通り"事実に基づいた"映画である点がなにより恐ろしいと思います。

 

戦争なんだからお互い命を賭けて戦え!とかそういう事ではなく、一方的な殺戮を可能とするシステムがもたらす問題点、UAVによる攻撃という手段とシステムがもたらす問題点を浮き彫りに、かなり明確に描いていたと思います。

突き詰めて言えば、人殺しの正当化がなされる戦争そのものが抱える矛盾を描いた映画と言ってもいいのかも。

ではまた。



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