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この小説家を知らないのはマズイ!

★古内一絵さんという作家を知っていますか?★

古内さんの作品「マカン・マラン」四部作が最近、数多くの書店でフェアが組まれ、いま、書店員の間で非常に注目されているのです。

①『マカン・マラン~二十三時の夜食カフェ~』

②『女王さまの夜食カフェ~マカン・マラン ふたたび~』

③『きまぐれな夜食カフェ~マカン・マラン みたび~』

④『さよならの夜食カフェ~マカン・マラン おしまい~』


この小説がすごいのは、映像化や文庫化をされたわけでもなく、メディアで取り上げられたわけでもなく、何かの文学賞を受賞したわけでもないのに、売れ続けているということ。
今の小説界では、ほとんど奇跡です!

そして、そんな古内一絵さんの新作『アネモネの姉妹 リコリスの兄弟』が8月21日に発売となります。僕が編集を担当しました。

ということで、これから何回かにわけて、この本の制作秘話っぽい記事を書いていこうと思います。


★始まりは手紙から★

まず最初に、『アネモネの姉妹 リコリスの兄弟』というタイトルはちょっと長いので、これからは「アネリコ」と省略します。
もしもSNSでつぶやくことがあったら、
#アネリコ
でお願いできればと!

さて。
「アネリコ」は、2018年5月から2019年4月まで、キノブックスのwebマガジン「キノノキ」に連載していた原稿に加筆修正をしたものです。
まだこちらの原稿もすべて公開中なので、興味がある人は読んでみてください。


著者の古内さんに「うちで書いてください!」とはじめて連絡をとったのは、2017年の冬の終わりころ。
探してみたら、古内さんに出した手紙の原文がパソコンに残っていました。

少しずつ暖かくなってきた気がする最近、とくに街を歩く女性の服の色が、黒一辺倒から淡い色へと変わってきておりますが、古内さんはいかがお過ごしでしょうか。
はじめまして。出版社のキノブックス編集部の岩崎輝央と申します。
このたびは、古内さんにどうしても書いていただきたいテーマの小説があり、お手紙を差し上げております。

こんな書き出しでした。自分が書いた手紙を自分で公開するのは恥ずかしいもんですね…。

さらに手紙は、古内作品との出会いについても書かれていました。

元々は『十六夜荘ノート』で古内作品にのめり込み、『快晴フライング』『風の向こうへ駆け抜けろ』を経て「マカン・マランシリーズ」に入り、先ほど『きまぐれな夜食カフェ』を拝読しました。
とくに第一章の「妬みの苺シロップ」は、僕自身の内面のどす黒い部分を照らし出されてしまった感覚でした。
綾のような活動をしているわけではありませんが、ああいう妬みや嫉妬、そして自分を不幸だと思い込む気持ちは、すごく理解できます。
だからこそ、綾にシャールが伝えた言葉が僕の心に深々と突き刺さりました。
自分が持っているものは、他の人にとっては欲しくてたまらないもの、羨ましがられているものかもしれない。
そう考えると、「どうして自分だけがこんな理不尽な目に合うんだろう」というのは、捉え方次第でどうにでもなるのだと。
この本一冊をとおして、人生における大切な何かを教えてもらったような、これからの生き方が変わりそうな、そんな小説でした。

こう書いてあるように、「マカン・マランシリーズ」はすごく良いんですよ!
そういえば風のウワサで、古内さんが「マカン・マラン」の第一弾を書いている時点で、中央公論新社の編集者は、「四部作のシリーズ化にしますよ!」と言っていたとか。

まだ売れるかどうかわからないのにこう言えるなんて、尊敬しかありません。あとあと、「一発目が売れてないくて営業部が難色を示して、シリーズ化は無理でした」なんてことになったら、著者との信頼関係がボロボロになりますからね。作品に自信があったのと、そう言うことで退路を断ったんだと思いますが、本当に素晴らしい。

★初顔合わせは、あの小説のモデルのお店で★

ちょっと話がずれました。
手紙上ではこの後も作品について書きつつ最後に、一度お会いしたいと伝えています。

「姉妹」をテーマにした小説をキノブックスで書いていただけませんでしょうか。
先述したような「妬みの苺シロップ」で描写していた人間の黒い感情は、姉妹をテーマにした物語でもっと生きてくるはずです。
もちろん、「マカンマラン」シリーズ同様、最後には救いを書いていただければ、読者の感情を大きく振り回す、素晴らしい作品になります。
もちろん、古内さんのお考えもあると思いますし、このテーマに絞るわけでもありません。
そのあたりも含めて、一度、お会いする機会をいただくことはできませんでしょうか。


今もほとんど変わっていませんが、当時のキノブックスは設立3年の無名で小さな会社。ヒット作もほとんどなくて、まさに吹けば飛ばされてしまう状態。
そんな会社の、しかもよくわからない編集者からの依頼に、古内さんはよく時間を割いてくれたなと。もっと言えば、よく原稿を預けてくれたなと、これを書きながら改めて痛感しております。

その心意気に応えるためには、この「アネリコ」を一人でも多くの人に読んでもらうしかない!


と本のPRを入れつつ、では初顔合わせではどんなことを話したのか。

実は緊張であんまり覚えていないのですが、しっかり覚えているのは、打ち合わせに使ったお店のこと。

この記事に何度も出てきている「マカン・マランシリーズ」は、イケメンなドラァグ・クイーンのシャールさんのお店が舞台となっています。
そのお店のモデルとなっているカフェが、打ち合わせ場所だったのです。

都内某駅から徒歩3分。大通りから小さな路地に入らなければたどり着けないそのお店は、それはそれは素敵なお店でした。
ランチも美味しく、何よりお店の雰囲気が最高!
そこでの打ち合わせで、姉妹だけでなく兄弟も含めたテーマにすること、さらに兄弟姉妹についてのアンケートをとって、それを資料にして作品を書くという古内さん初の試みをすることが決まったわけです。

あの空気感を醸し出しているお店がなければ、「アネリコ」は生まれていなかったと思います。
本当はお店にこの本も飾ってほしいのですが……残念なことにお店はもうありません。


今回は「アネリコ」の話よりも「マカン・マラン」の話のほうが多くなってしまった気がしますが、次回はこの本について書いていきます。

都内は梅雨明けから一気に暑くなり、ついに35度を超える猛暑となりました。
しばらくはこの暑さが続くらしいので、ご自愛くださいませ!






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