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中小企業の経営者にデザイン経営をどのように伝えるか

 昨年度は大阪で、デザイン経営に知財の視点を加えた中小企業向けの連続セミナーを実施しました。
 これまでにあまり例がない取り組みで、参加者の皆様と一緒に作り上げたプログラムでしたが、今年度は北九州というユニークな産業集積のある地域において、その地域性を考慮するとともに、もう一歩進んだ最終成果物を目指すプログラムを用意し、伴走支援付きの5回連続講座として10月からスタートする予定です。

知財型デザイン経営セミナーの概要(https://dan-dan.com/ip_design_brand/ より)

 先日、参加者募集のためのオリエンテーションセミナーを実施したのですが、いつも悩ましいのが、「デザイン経営とは何か?」をどのように伝えるかという問題です。
 「デザイン経営宣言」や特許庁のホームページにその定義や本質が説明されているものの、要するに今までの一般的な経営の考え方と何が違うのかわかりにくい。
 3月9日付日経新聞の春秋に「かみくだいて言えば、おしゃれな感覚でモノやサービスや新しい事業を生み出すこと」なんて説明されていたこともありますが(もちろんこれは大いなる誤解です)、ここをいかに的確に伝えるかが極めて重要。でありながら、最も難しかったりする部分でもあります。

 抽象的な概念を説明してわかりにくくなることは避け難いので、いろいろ悩んだ挙句、今回は次のような具体例を作って説明してみました。

仮想のお題

 このお題に対して、これまでの経営の考え方、一般的な経営コンサルティングではどのように考えるだろうか。

 まずは市場調査。北九州市内の焼きうどんの市場規模や今後の成長性を予測する。そんなデータが存在するかどうかは不明ですが、市場は頭打ち~縮小傾向にあることがわかったとします。
 その市場において、どんな競合が存在しているのか。競合の特徴を分析して、自社のポジショニングを明らかにすることも必要でしょう。
 性別、年代などを切り口にした顧客分析も欠かせません。ここでは仮に、主な顧客層は中高年男性であることが明らかになったとします。
 そうした中、外食市場全般に目を移すと、女性の外食増、インスタ映えするお店が繁盛している、といった業界の現状が浮かび上がってきます。
 さらに自社に目を向けると、現在の店舗や投資資金といった経営資源を有していることを確認できたとします。
 これらの情報を分析した上で、どういう方向性が導き出されるか。

経営コンサルティングの一般的なアプローチで考える 焼きうどんの未来

 このままではジリ貧になることが避けられない市場において、新しい顧客層を開拓していくことが必要である。そこでターゲットとなるのが、潜在的な需要を期待できそうな10-30代の女性であり、その層を惹き寄せるためには、インスタ映えするようなトッピングの工夫と、入りやすいカフェ風の店内改装が求められる。
 結論としては、手持ちの資金を投下して店舗を改装するとともに、インスタ映えする新メニューの開発に取り組むべきであろう。
 ロジカルに詰めていくと、そんな感じになるのではないかと思います。

 では、同じお題をデザインのアプローチで考えてみるとどうなるだろうか。

 デザインのアプローチの大きな特徴の一つが、対象の意味を深く掘り下げて考えることです(そのあたりがデザイナーは面倒くさい人たちと思われてしまったりしやすい所以でもありますが)。このケースであれば、「焼きうどんとは何か?」を、その歴史をたどり、実際に街の食堂で食べて体感し、焼きうどんについて考えていきます。
 小倉の焼きうどんのルーツは、鳥町食堂街という結構ディープな北九州らしい場所にある「だるま堂」という食堂にあり、焼きそば用の麺がなくてうどんで代用したのがきっかけだそうです。それがとても好評で、「小倉焼きうどん研究所」が組織されるなど、地元に広がったその味を地域で引き継ごうという活動も起こり、今に至っているとのこと。
 焼きうどんとは、ありあわせの材料を生かす工夫や、地域の思いが込められた存在であることが明らかになってきます。

 また、特許庁のホームページにもデザイン経営の本質と説明されているように、「人(ユーザー)を中心に考えること」もデザインのアプローチにおいて欠かせない要素です。このケースであれば、「人はなぜ焼きうどんを求めるか?」という問いを深掘りすることも欠かせません(このあたりも面倒くさいと思われやすい所以ですね)。
 地元の人がなぜ焼きうどんを食べるのか。焼きうどんの特徴は、うどんを使うことによるやさしい味、やわらかい食感であり、そのレシピは当初からほとんど変わっていないそうです。その変わらない味の安心感も、人が求める要素の一つなのではないでしょうか。

 こうした焼きうどんに関する思索の他にも、自社の歴史を深掘りし、店主の思いを引き出すことも、デザインのアプローチにおいては欠かせないプロセスです。「知財型デザイン経営」では、この部分に知財の見方を加えて、自社ならでは独自の要素を抽出して、自社らしさや自社のこだわりを見出していきます。

デザインのアプローチで考える 焼きうどんの未来

 以上のようなプロセスから明らかになってくるのは、ありあわせのものを生かす家庭的な工夫、地域で引き継がれる味、変わらない安心感といった、焼きうどんというメニューの存在の背景にある本質的な要素です。
 つまり、焼きうどんという存在を介して自分達が果たしている役割は、地域の家庭の味をつなぐ食堂であり、ありあわせで作る家庭の味で地域の人々に安心を届けていくことなのではないか。
 であれば、これから自分達にできることは、地域で愛され続けている家庭料理を探索し、それを次の世代にも引き継いでいくことであり、焼きうどんだけにこだわらず、地元の顧客がそれぞれ大事にしている家庭料理を教えてもらい、それを食堂のメニューにアレンジして週替わりで試してみる。
 こうした試しながら考え続ける取り組み姿勢も、特許庁のホームページにデザイン経営の本質と説明されている要素の一つ(実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出すこと)です。
 そして、こうしたコンセプトを的確に表現して、顧客をはじめとする地域の関係者に伝えていくことも、重要な取り組みの一つになってくるでしょう。

 このように、自社⇔競合、自社⇔顧客のような二項対立を前提にした分析的な見方ではなく、自社と顧客、家庭、地域などの関係性を統合的に捉え、それらが調和する姿を探るデザインのアプローチも、これまでの経営戦略や経営コンサルティングではあまり意識されなかった側面ではないでしょうか。

 インスタ映えするカフェ風の店舗に改装するか、それとも地元の家庭料理を掘り起こすか。
 このように、デザインのアプローチ、つまりデザイン経営の考え方を取り入れると、これからの方向性が大きく変わってくる可能性があります。(先の日経の定義によると前者がデザイン経営ということになってしまいますが…)
 近い将来の利益だけを考えるなら、前者のほうが大きな利益につながるかもしれません。でも、それでお店は持続可能な存在であり続けることができるのか。市場や競合の動向、時代の流行によって決まる未来って、それは自分達がやるべきこと・やりたいことなのか、だったら自分達は一体何のために存在しているのか。

 もちろん必要な利益を得られなければ企業は存在することができないし、企業経営を考える上でロジカルなアプローチも必要不可欠です。
 でも、自分達が向かう方向性(今回の事業の「北極星」)をそれだけで決めていいのだろうか。そんなモヤモヤの渦中にある北九州の次世代経営者の方がおられれば、ぜひこの講座にご参加いただければと思います(申込は9月末まで受け付けております)。

 最後にロジカル系っぽいまとめにはなりますが、この例で強調したいデザインのアプローチの4つの特徴を、以下に整理しておきます。
 ① 対象の意味を問い直す
 ② 人(ユーザー)を中心に考える
 ③ アジャイルに取り組む(試しながら考える)姿勢
 
④ 二項対立の見方を避け、関係性を統合的に捉えて調和を探る



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