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「仕切ることでつながろう」 展 市ヶ谷のDNPプラザで27日まで開催中です!

 突然ですが、下の写真には何か写っているように見えるでしょうか?

これは何の写真?

 この写真は一昨年、東大阪にあるひし形金網メーカー、共和鋼業さんで実施したビジョンデザインプロジェクトの社内ワークショップで使用したものです。
 普通であれば「グランド」「野球場」「サッカー場」といった答えが多くなりそうなところ、同社ではもちろん、参加者全員が「ネットフェンス」「金網」といった回答になりました。

 「ルビンの壺」についてご存知の方も多いのではないかと思いますが、ある対象に触れた際に、人が知覚する部分が「図」となり、それ以外の背景は「地」となります。ルビンの壺を見て、人の顔が見えると思えば人の顔が「図」となり、黒色の部分は壺とは知覚されず「地」となります。逆に、壺が「図」となれば、白色の部分は人の顔とは知覚されず「地」になります。このように、人が何を「図」と捉えるかによって世界の見え方はさまざまであり、「地」となった部分には意識が向けられなくなる、ということですね。

ルビンの壺

 先ほどのグランドの写真についても、多くの人にとってはグランドが「図」であり、ネットフェンス、つまりひし形金網は「地」。普段は「図」として意識されることがないひし形金網ですが、実はこの金属の線材を編むことによって作り出される連続するひし形の空間が、人びとの安全を守りながらも視界を遮ることがない、心地よい空間を生み出すことに役立っているのです。
 そんな「図」と「地」の関係を反転させ、普段は意識されることがないひし形金網を「図」として中心に置き直すことで、ひし形金網の新たな可能性の開拓に挑んでいるのが、共和鋼業という会社なのです。

 その共和鋼業さんが、DNPさん、近畿大学さんと一緒に進めているのが、今回の企画展の対象である「インターフェンスプロジェクト」です。本来は空間を「仕切る」ために用いられているひし形金網を、逆説的に人と人、人と場、人と街を緩やかに「繋げる」ために活用しようという発想で取り組んでいるプロジェクトで、今回の企画展ではプロトタイプの展示やワークショップを実施し、このアイデアを社会に提案するとともに、興味をもっていただける皆さまからのアイデアを募り、新たな協業の可能性も探っていきたいと考えています。

企画展の展示の一部

 上の写真は展示されているプロトタイプの一部ですが、ネットフェンスの空間に小さなパネルを取り付け、パネルの色彩や角度を調整することによって、さまざまな装飾が可能になることを示しています。ひし形金網のネットフェンスはあちこちに存在していますが、それらにこうした装飾を施すことによって、地域の特徴(海沿いの街なら魚が回遊しているように見せるetc.)や季節感(春には桜色、秋には紅葉色で彩るetc.)を表現し、街の風景を変えていくことができるのではないか。パネルの取り付けが面倒なことが弱点のように思われるかもしれませんが、それも逆手にとって取り付けを地域のイベントにすれば、人びとの交流にもつながる、つまり「仕切ることでつながる」はずです。

 このプロジェクトで自分にとって驚きだったのが、ひし形金網のアイデアを持ち込んだ際のDNPさんのポジティブな反応、さらにはその規模の違いからは想像し難かった、共創的でフラットなスタンスです。そのあたりの感覚は、上の2つの記事でおわかりいただけるのではないかと思います。
 中小企業支援者界隈でよく耳にする「大企業は~(ムニャムニャ…)」なんて、いつまでも言ってると時代に乗り遅れますよ、なんて感じたりもします。

 ただ、そうなるためには中小企業の側にも変革が必要。そこで中小企業にとって重要になるのが、「会話の質」を変えていくことです。

 詳しくは「あらためて考える 中小企業のデザイン経営」に書きましたが、中小企業が自社の製品やサービスの機能や価格にこだわり、顧客である大企業に対して機能や価格の優位性ばかり語っていると、発注者である大企業からは、当然ながらスペックや納期、価格などの条件が提示されることになります。そうした両者の間に成立するのは「外注先」としての関係であって、そこから共創的な取り組みはなかなか生まれてきません。
 ところが、中小企業が機能や価格だけでなく、多面的な見方で捉え直した自社の製品やサービスの「意味」、しっかりと考え抜かれた自社のビジョンを語るようになると、大企業との関係性にも変化が生じてくるはずです。なんだか面白くて、前向きな会社と見られるようになれば、一緒に何かを考えませんかという相談を持ちかけられる機会も増えていくでしょう。
 まずは自社が発する言葉、顧客や社会に対する「会話の質」を変えていくことが、中小企業が変革に乗り出す第一歩となるのではないでしょうか。

「会話の質」の変化

 こうした「会話の質」を変えていくために効果的なのが、デザイン経営のアプローチです。共和鋼業さんもデザイン経営の実践例として取り上げられることが増えている企業であり、同社をデザイン経営の視点から分析した情報が、近畿経済産業局・関西デザイン経営推進研究会がとりまとめた小冊子、「中小企業をアップデートする!」にも掲載されています(同社のビジョンデザインをサポートした経緯から、解説は私が執筆させていただきました)。
 ここで分析のベースになっている「デザイン経営の好循環」モデルは、昨年7月に特許庁さんが公開したガイドブックで提案されたものですが、「『デザイン経営の好循環モデル』 の意味するところ」や「『開発マインド』と『デザインマインド』」の記事にもいろいろ書いたように、噛めば噛むほど味が出てくるスルメのようなモデルです。
 このモデルにあてはめてみると、共和鋼業さんの場合、森永社長の行動力に「デザインマインド」(当初は潜在的なものだったかと思いますが、今やすっかり顕在化されています)が重なり、デザイナーとの出会いを活かして、ひし形金網を用いた新しいプロダクトの開発(=価値創造)に取り組んできた。ただ、そこから機能の深掘りや販路の開拓、つまり「開発マインド」が暴走して価値創造のループから抜け出せなくなってしまうのではなく、「デザインマインド」に基づいて自社の存在意義やビジョンをあらためて問い直し(=人格形成)、それを社内外に発信することで仲間づくり(=文化醸成)にも努めている。新規事業の社会実装はまだまだこれからではありますが、さまざまな可能性が着々と広がってきていることは間違いないでしょう。

近畿経済産業局発行「中小企業をアップデートする!」P.17より


 ちょっと余談になりますが、先日久しぶりに、某所でロジカルな経営戦略に関するレクチャーを受ける機会がありました。例えば下の図にあるような、ピラミッド型の構造で説明される経営戦略に関する話です。

経営理念と戦略レベル~『グロービスMBAマネジメント・ブック』より
(https://globis.jp/article/2122/)

 こうした戦略ピラミッドのモデルと「デザイン経営の好循環」モデルをあらためて見比べてみると、同じ企業経営の骨格を示すモデルであるにもかかわらず、そこから受けるイメージがずいぶん違うなぁ、と感じざるにはいられません。

戦略ピラミッドとデザイン経営の好循環

 左の戦略ピラミッドが、機械のように構造化され、システマティックな印象を受けるのに対し、右のデザイン経営の好循環は、あたかも生命体のような動きが表現されているとでも言うか。これらを見るときの目線も、戦略ピラミッドは上から下へとリニアな動きになるのに対して、デザイン経営の好循環はまさに循環、サーキュラーな動きになると思います。
 このあたりの捉え方の違いが、これからの企業の方向性を左右するようにも思えてきます。

 話を戻して、インターフェンスプロジェクト企画展「仕切ることでつながろう」 ですが、今月27日(土)まで、市ヶ谷のDNPプラザ(東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル1階、市ヶ谷駅から徒歩数分)で27日まで開催中です。
 残り期間が少なくなってきましたが、デザイン経営の効用がどのように表れてくるかを体感してみたい皆さまに、ぜひご来場いただけますと幸いです。その際には会場にある付箋に、ぜひアイデアや感想を書き残してください!




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