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ゆしま、ときどき「デリー」上野店

地下鉄湯島駅、上野広小路駅、御徒町駅…どの駅も、よほど何か用がないと使うことがない。そして、御徒町から湯島駅への大通り沿いは、今や知る人ぞ知る、都内屈指の治安の悪さで知られる「湯島地区」の入り口である。

数年前までは、夕方五時を過ぎるあたりから、湯島三丁目近隣のチョットした小路に入ると、薄ら笑いを浮かべた客引きの執拗な勧誘が後を絶たず、また深夜になると身ぐるみはがされて路上に寝ている人も(本当に、パンツ一丁)。行政の働きかけで大分状況は収まったといえるが、土地柄だろう。マスコミに取り上げられることは少なく、周辺住民の口コミで、なんとか安全を保っていた時代も短くはなかった。

聞くところによると、地方でコツコツ働いたお金を貯めて、夜行バスでわざわざやって来て、湯島で豪遊を洒落こもうとする若者も少なくないという。田山花袋や泉鏡花の小説の舞台…という触れ込みに誘われたものなのか?…悪いことは言いません、今の湯島は古き良き花街の面影は消え失せ、東アジア地域の歓楽街のサンプルブックのような場所になっています。飲みに行くのは十分気を付けて。

もしも、コツコツ貯めたお金を使って湯島で楽しみたいのなら、昼間に来るべきでしょう。一番のお勧めは湯島駅と上野広小路駅のちょうど中間辺りにあるデリー上野店。カレー店だが、侮るなかれ。ここでカレーをぱくついたことはきっと友達に自慢できるから。おそらく。

デリー上野店はカウンターと小さなテーブル席がいくつかある街の中華食堂のような様子をしている。お店でランチをいただくなら開店前に並ぶのが無難。こんなマニアックな風貌の店に並ぶ?と思うかもしれないが、開店三十分前には6、7人は必ず行列が作られている。これはデリーの昔からの風景なのだが、店の入り口から脇道まで等間隔で寡黙で深刻な面持ちでみんな並んでいるのだ。この風景を見るたびに「カレーが好きな人」というのは真面目なんだなと感慨深い。

メニューは様々だが、当然カレーメインである。私はデリーカレーかカシミールカレーをルーティーンで頂く。デリーが初めてという方は、あえての「カシミールカレー」をどうぞ。ステンレスの器に入った、しゃばしゃば汁気たっぷりのカレーは、ぱっと見は少し色が濃くて…具が少ないようにも思える。

しかし、ルーを一口口に含んだなら、野菜のうまみと肉のうまみ、そしてスパイスの鮮烈がはじけ飛ぶ。辛い!からい!カライ!!…しかしやめられないカシミールカレー。なんと、デリー創業者のオリジナルメニューだとか。多くの人が使った言葉をあえて使わせてもらうと、ほんとにインド人もびっくりだ。濃い色合いはカラメルで、これによりカレーにコクと深みが出るのだそう。卓越したセンスと研究が積み重ねられてきた結果を一皿で楽しめるなんて、ありがたいことだ。

デリーで一服したら、すぐ近くにある湯島天神でお散歩を。寒い冬でも額に汗がでてくるので、ちいさなタオルがあるとよい。



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