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【高校生座談会②〜国の取組みと新たな対策案を知る】―インターネット・SNSの誹謗中傷対策

「インターネット・SNSの誹謗中傷対策」をテーマにした第3回オンライン投票に向けて、ch FILES高校生スタッフが座談会を行いました。3回にわたる座談会の1回目は誹謗中傷被害の現状についてを話し合いました。

第2回目は、被害対策の現状〜厳罰化した際のメリット・デメリットについて勉強します。皆さんもご一緒にお考えください。


1.今施行されているプロバイダ責任制限法とは?

...まずは「学校総選挙プロジェクト」の吉田さんから今思考されている制度について説明していただきます。

吉田 第1回目の座談会でもみんなが悩んだように、どうやって誹謗中傷で苦しむ人をなくすか、ということについては、民間からの署名も多く届いていますし、国も対策を考えています。

誹謗中傷に遭った人が使える制度として、すでに

「プロバイダ責任制限法」

というものがあります。

これは、誹謗中傷に遭った時、「プロバイダ」=TwitterやYouTube、TikTok、5ちゃんねるといったSNSや掲示板などを運営している事業者に対して、投稿者の個人情報の開示をお願いする権利を認めるものです。


2.投稿者を訴えるまでの長い道のり

日本では、相手が特定できないと、訴えることができません。
だからまず、匿名で投稿されたSNSについて、誰が自分を傷つけたのかを特定する必要があるんです。


でも、SNSに電話番号や住所の登録が必須でないものもありますよね? だからプロバイダ側が個人情報を持っていないという場合もあるし、「第三者に個人情報を教えることはできません」と拒否される場合もある。プロバイダには拒否する権利があるんです。

そうなると、誹謗中傷に遭った人は、プロバイダに対して投稿者の情報を開示してもらうための裁判を起こすところから始めなければいけません。

これが、面と向かって悪口を言われた場合と違って、相手が誰かわからないSNSの誹謗中傷で今起こっている問題です。

吉田 被害を受けたら、まず投稿した人を特定するための裁判に、3ヶ月〜1年ほどの時間がかかり、弁護士さんを雇うのに60〜70万ほどの費用がかかります。プロバイダの会社は東京にある場合が多いので、裁判のために東京まで行く必要があり、ここまでしても、情報開示されない場合もあります。

情報が開示された場合、やっと次に投稿者を訴える裁判に進みます。

解決までには1年半〜2年かかり、100万円を超える費用がかかることも多いそうです。
裁判のためには誹謗中傷をされた投稿も何度も見なければいけなくなるので、心理的な負担も大きくなってしまいます。


3.個人情報開示を迅速にする改正案

吉田 そこで、今、総務省が、投稿者を特定するための手続きをもっと短期間にできるよう、制度を変えようとしています。

現在は、誹謗中傷された被害者が、サイト運営会社などに対して裁判を起こす手続きを行うことで相手を特定しています。今検討されている新しい制度では、被害者の申し立てに対して裁判所が情報開示の必要性を認めれば、裁判所からサイト運営会社などに直接、個人情報の開示命令を出してくれるようになります。

これにより、開示までの手続きが簡単になり、投稿者を特定するまでの期間が数か月早くなると言われています。この制度は今開会している通常国会で話し合われる予定なので、早ければ今年中には整うと思います。

ここまでが、今すでに動いていること。
何かここまでで質問はありますか?


4.質問タイム

ときわ 裁判にかかった費用は、いずれ相手に請求できるんですか?

吉田 全額は請求できない場合が多いようです。特に、最初の段階の相手を特定するためにかかった弁護士費用は、基本的には請求できないそうです。

あや それまでのお金も時間も無駄になっちゃう、ということですか?

吉田 残念ながらそうなりますね。

ときわ 改善策が施行されても、プロバイダの事業者側の条件が変わるわけではないから、そこで開示されない可能性もまだある、ということですよね?

吉田 証拠として提出したスクショなどを見て、これは開示できるような内容ではない、とプロバイダ側が判断することはあります。

ゆき SNSの登録時に個人情報を必ず登録するようにしてもらう、というような強制力もないってことですか?

吉田 ありません。「プロバイダ責任制限法」は、そもそも事業者側を守る法律でもあるんです。誰かから誹謗中傷を理由に投稿の削除を求められたとして、事業者側が削除した時に、投稿者から「誹謗中傷ではないのに勝手に消された」と言って逆に訴えられて板挟みになることがあり得るんです。

ゆき そうか! それも大変だ。

吉田 その心配をなくすために、2001年にこの法律ができました。会社を守り、その代わり、個人には個人情報の開示を求める権利を与える、というものなんです。

みゆ でも誹謗中傷って、一人から、というより大勢からきて苦しい、ということも多いじゃないですか。そういう場合って、大勢を一度に訴える、ということはできるんですか?

吉田 訴えることはできるけど、そのためには全員分の個人情報を手に入れる必要があります。

あや 果てしなさすぎるね。芸能人とか、大変だよね。それはみんな諦めちゃう気がする…。


5.誹謗中傷ってどんな罪に問われるの?

吉田日本には匿名での誹謗中傷を直接禁じる法律がないんです。

だから、内容によって、社会的に信用を落とした、ということであれば「名誉毀損罪」に問われます。この場合だと50万円以下の罰金または3年以下の懲役。ただ、これはなかなか認められません。

「名誉毀損罪」までには当たらないというところで「侮辱罪」という罪があって、30日未満の拘留、1000円〜1万円の科料、というのが今裁ける範囲の法律です。

全員1万円ですか!?

吉田 そう、だから「今の法だと罪が軽い」という声もあります。

まず投稿者を特定するために60〜70万かかるから、学生などお金がないとそもそも裁判も起こせないし、訴えて賠償請求をしたとしても、実際慰謝料としてもらえるのは最大50万ほどらしいんです。だから訴えても赤字になるんですね。そこで諦めてしまう人も多いのが現状です。

企業側も誹謗中傷の投稿を消す努力はしてくれるものの、削除しなくても原則として責任はないので、削除までに時間がかかっているうちに誹謗中傷のツイートが何万リツイートと拡散されていってしまう、ということが起こっています。

そこで今、ちゃんと法律を作って対策をするべきなのではないかという声が上がっているんです。

まな 気持ちも弱っているのに、お金のことまで心配できないよね。泣き寝入りして終わりになってしまうだろうなぁ。

みゆ 訴えたら訴えたでまた叩かれる可能性もありそう。心の問題って見えないからその人が夜どんなに泣いていても、表で笑っていれば周りにはわからないし、その罪がどれくらい重いことかを伝えるって難しいよね。

しかも拡散した人も含めて何万人を訴えるなんてこと、絶対にできないもんね。

とり 芸能人やYouTuberって、ファンのことも気にしないといけないから、一部のファンからは「そんな時間があれば本業に力を入れて欲しい」みたいに言われることだってあるだろうし、なかなか訴えることもできないんじゃないかなって思う。でもこのままだと、どんどん悪化しちゃうよね。


6.2つの対策案とメリット/デメリット

吉田SNS等での誹謗中傷の対策案として、今、こんな2つの案が出ています。

1つ目は
誹謗中傷した人への罪を重くする。

2つ目は
投稿の削除が遅いプロバイダ企業に対して罰則をつくる。

吉田 1つ目の個人に対する罪を重くすると、投稿の抑止力になったり、罪が重くなると慰謝料も高くなるので、裁判費用が赤字にならない可能性も出てきて訴えやすくなる、という効果が期待されています。

その反面、匿名だからこそできていた批判や告発、といったことも、捕まるかもしれないとなると萎縮してしまって声を上げづらくなるという可能性も出てきます。

吉田 2つ目のプロバイダ事業者に対する罰則に関しては、ドイツでは2017年にSNS事業者は悪質な投稿を24時間以内に削除しなければ最大約60億円の罰金が科されるなどの内容を盛り込んだ「SNS対策法」が定められました。

この法律によってSNSの違法な投稿は減っているようです。

ただ一方で、罰金を恐れた企業によって投稿が過剰に削除されるという可能性があること、それを国が求めるのはおかしいのではないか、という点も懸念されています。

りりか 誹謗中傷のラインも人それぞれだから難しいね。


7.みんなはどう考える?

あや 海外では、SNS投稿に特定の言葉が含まれていたら投稿前に「その投稿大丈夫?」というポップアップが出るようにしている国もあるらしくて、それだけでも一度考える時間ができるから誹謗中傷が減ると聞いたことがあるので、日本も取り入れてもいいんじゃないかなって思いました。

いぶき 僕は罪を重くして正当な発言もできなくなるというデメリットもあるだろうけど、誹謗中傷されて亡くなる方がいるわけだから、命の方を優先させるべきかなと思います。

まな 私もまずは個人の意識を変えないといけないと思うから、罪を重くする方がいいかなと思った。

ゆき 何かしらの対策は絶対に必要だとは思うけど、私は法律を作っちゃうのは怖いかなと思う。例えば言論統制された戦時中みたいに、「日本は勝ってる」ということしか言っちゃいけません、みたいに、罰されないために法に合わせた発言しかしなくなって、じわじわとうちらの自由がなくなっていくんじゃないかなって気がした。

はやて でも校則が厳しくなっていくのと同じで、厳しくされたくなかったら、自分たちが誹謗中傷の発言をやめるべきだし、やめないから取り締まらないと仕方なくなるんやと僕は思う。

つかさ 私もSNSの誹謗中傷が原因で亡くなられた方のニュースを見て、絶対に罪を重くするべきだと思ったんだけど、その罪がお金を払って償いになるのかなとか、被害者の方にとってどうメリットになるのか、というのがわからないでいます。投稿した側も「そんなつもりではなかった」という気持ちもあるかもしれないし、やっぱり誹謗中傷のボーダーラインが難しいかなと思います。

みゆ 心の傷に対してどんな罪を課したらその傷が癒えるのか、何があればメリットになるのかが本当にわからないよね。裁判中に何度も繰り返し思い出さないといけなくなるし。だからどう罪を重くするかより、被害に遭った人にどう援助をするかも、もっと大切なんじゃないかなと思いました。


今回もたくさん勉強しました。
そしてさまざまな意見が出ました。

いよいよ次回、第3回の座談会では、「インターネット・SNSの誹謗中傷の罰則強化」に賛成か、反対か。
二手に分かれてさらに議論を深めていきます。

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