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肩甲骨の動きをとらえたチェック項目

この記事は、肩関節の評価の中で必須となる「肩甲骨」の動きに焦点を当てたチェック項目についてまとめている記事になります。

最近受けたウェエビナーで、前鋸筋の活動を観察したければ屈曲域で。
肩甲上腕リズム(SHR)を観察したければ外転域で評価しやすくなります。
という説明を受けました。
なんとなく理解はできたものの、理解を深めたく思いこの記事を書くことにしました。
実際に、文献や専門書を読む中で、肩甲骨の動きをどの様に把握し理解するか。
情報のブラッシュアップをしていきます。


▷肩関節の評価について知りたい方
▷肩甲骨の動きに興味がる方

是非最後までご覧いただき、ご意見やご自身の評価手順について共有いただけますと幸いです。


肩甲骨について

肩甲骨は、胸郭上に浮遊する骨で、体幹と直接連結を持たない構造を呈しています。

唯一の連結として、鎖骨と肩鎖関節を形成し、鎖骨を介し胸骨(体幹)に関節的に連結するという形を取っています。

よって、骨性の支持は低く、肩甲骨周囲に付着する筋により肩甲骨の動きが制御されていることを理解する必要があります。

肩甲骨周囲に付着する筋について

肩甲骨には多くの筋が付着し、肩甲骨の動きに関与します。
先にも書いた通り、肩甲骨は体幹と直接関節を持たないことから、肩甲骨に付着するこれらの筋による影響が大きいと考えられます。

肩甲骨周囲に付着する筋とその作用について


 肩甲上腕リズム(SHR Scapulo Humeral Rhythm)について

1934年にCodmanが上肢挙上に付随して肩甲骨が上方回旋する連動現象をScapulo Humeral Rythmと名付け、1944年にInmanによって研究・報告がなされました。
その中で以下の項目について報告があります。


▷肩甲骨と上腕骨の動きの割合

→上腕骨:肩甲骨の動きの割合が、2:1であるとされ、このことは一般的に周知されています。

▷Setting Phaseという概念
肩甲骨・上腕骨の動きの中で、挙上30°までの範囲で肩甲骨は僧帽筋や前鋸筋の働きにより胸郭上に固定され、上腕骨が主体として働くというもの。


上記のポイントをまとめると、以下の点が評価で活用できそうです。

①挙上30°までの角度で肩甲骨を胸郭上に張り付ける(動的安定性を生み出す)筋に対して評価を入れることができないだろうか?

②SHRをチェックするなら挙上角度がある程度形成されてからの方が良さそう。
→Setting Phaseを抜けてからがやはり適切なタイミングとなり得る。


肩甲骨の動きと、筋出力の関係性について

上記の点を踏まえ、肩甲骨の動きと筋出力の関連についてもう少し深堀していくます。

外転動作と屈曲動作における肩甲骨の動きに違い

福島(1)らは、肩関節の屈曲動作と外転動作の中で肩甲骨の動きを比較し、屈曲動作の中では肩鎖関節を軸とした肩甲上方回旋を呈し、外転では鎖骨の後退を伴い肩甲骨内を軸とした肩甲骨の上方回旋が生じると報告している。

POINT
屈曲動作:肩鎖関節が軸となり作動する。
→肩甲骨下角が脊柱から離れる様に運動の弧を描く。

外転動作:肩甲骨内に軸を形成し作動する。
→肩甲棘内側端脊柱側に傾斜させることで上方回旋を生じさせる。

外転動作と屈曲動作における運動軸の違い


また、森原ら(2)によっても筋電図で筋出力を見た際に、屈曲と外転で異なる筋発揮に順序を呈することが報告されています。
屈曲では、前鋸筋>僧帽筋で活動が先行し、外転では僧帽筋(特に中部)>前鋸筋で活動が先行するとされています。

POINT

屈曲動作:僧帽筋下部線維、前鋸筋の活動が先行する。
外転動作:僧帽筋中部の筋活動が先行する。


この特徴を踏まえると、肩甲骨を稼働させる前鋸筋や僧帽筋、その他の筋肉をどの角度で評価することが効果的か見えてきます。

前鋸筋
屈曲動作において特に活動が高まるという特性を踏まえ、特にSetting Phaseの角度内での抵抗運動に抗することができるか。を評価することでその機能チェックとできる可能性が出てきます。

僧帽筋中部線維
外転動作において特に活動が高まるとされていることから、特に外転90°までの範囲で抵抗運動を行い、十分な力発揮ができるかチェックすることができるできると考えられます。

僧帽筋下部線維
特に外転動作の終盤で活動が高まると報告されている。また、屈曲動作の早期においても活動が高まるとされている。
屈曲動作の初期に活動が高まる要因として、僧帽筋は肩甲骨の内側縁を覆っている筋で、肩甲骨の安定性を高めるために活動が高まったと説明をしている。(2)


動作へのアプローチ

上述した様な肩甲骨の動きとその角度による違いを理解を把握した上で、評価の中でその知識をどの様に活かす事ができるかを考えてみる。

屈曲動作でエラーが出た場合、肩甲骨の介助運動による症状の変化の確認と
前鋸筋の機能チェックを行う必要性が出てきます

チェックしたい項目として、挙上に用いる運動面を変化させる事で症状の変化(例えば、違和感が少ない、動きやすいなど)があるかチェックします。

特定の運動面で症状が出るとなれば、その運動に関与している(最も活動が高い)筋に問題がると考える事ができます。

一方で、その角度においても一定の症状が出現する場合は、以下の原因について評価を進めていきます。

次に、前鋸筋の動きを補助する形で運動時の状況を比べます。
他動自動運動にて、自動運動と比べ症状がコントロールされている場合は、活動の高い前鋸筋や僧帽筋下部の機能低下があると考える事ができます。

疼痛増減テスト(屈曲運動)

外転動作でエラーが出た場合、肩甲骨の介助運動による症状の変化の確認と
僧帽筋中部線維、僧帽筋下部線維の機能チェックを行う必要性が出てきます。
(その他に胸椎・胸郭の運動、胸鎖関節の運動を含みますがここでは割愛します。)

チェックしたい項目として、挙上に用いる運動面を変化させる事で症状の変化(例えば、違和感が少ない、動きやすいなど)があるかチェックします。

特定の運動面で症状が出るとなれば、その運動に関与している(最も活動が高い)筋に問題がると考える事ができます。

一方で、その角度においても一定の症状が出現する場合は、以下の原因について評価を進めていきます。

次に、鎖骨を後退させた状態を疑似的に作り、関節運動の行いやすさに違いが生じるかチェックします。

自動で行う場合は、やや胸を張ることを意識した姿勢で外転運動を。
他動で行う場合は、鎖骨を背側に誘導し、後退させた姿勢を作ることで鎖骨の動きを考慮した肩甲骨の外転運動を再現できます。

最後に、僧帽筋中部繊維と下部線維の動きを補助する形で運動時の状況を比べます。

他動自動運動にて、自動運動と比べ症状がコントロールされている場合は、活動の高い僧帽筋中部や僧帽筋下部の機能低下があると考える事ができます。

僧帽筋中部は、60~90°の範囲で活動が高いとされており、僧帽筋下部は90~120°の範囲で活動が高いとされています。

疼痛増減テスト(外転動作)

肩甲骨の動きを評価するためのフローチャート

最後にここまでの情報を整理し、フローチャートを作成してみました。

肩甲骨の動きに着目した評価のフローチャート

肩関節の評価において、その問題が肩甲上腕関節にあるのか。肩甲胸郭関節にあるのか。または他の関節にあるのか。評価を難しいと感じたことはこれまでに幾度となくあります。
今回は、その中で肩甲骨の動きをどの様に捉えるか。
「肩甲胸郭関節」から肩関節全体の機能異常がないかを評価するために必要な項目だと個人的には感じています。

またご感想お待ちいたしております。


2024.1.25 翼

参考文献
1)福島 秀晃・他:肩甲上腕リズムの臨床応用を考える.関西理学 13: 23-22.2013
2)森原 徹・他:肩甲骨屈曲・外転における肩甲骨周囲筋の筋活動パターン~鎖骨健康上腕リズムに着目して.肩関節 35巻第3号 715-718.2011
3)佐原 亘・他:鎖骨、肩甲骨のバイオメカニクス.Jpn rehabili Med 53.750-753.2016


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