Valeur 2 -lamp black-
森から飛び出ると
空がどこまでも伸びていた
濃い色から薄い色へ変化していく空
何も纏わない真っさらな身体で
果てもなく広がる草原を行く
足先から草のやさしい声がする
きらきらとわらい、物語を話している
走るぼくの身体を包み
透明な力で運んでくれる
そうして遊んでいるとあたりは暗くなり
遠くにたった一つある灯がぼくを待っていた
はじめ、その奥には何もないように思えたけれど
次第にある輪郭が見え出した
慣れてきた目に映し出されたのは、巨大鯨のひとみ
深い青を超えた色
小さな砂星たちが住む空の色
鯨は身体を動かさずにぼくを見た
大きすぎる風が吹いた
この世界のすべてを、どこかへ持ち去ってくれるような風
すこし乱暴だけれど
昔母が握ってくれた手のような暖かさを湛えた風
ぼくを乗せてかれは風に招かれて
巨体を夜のなかへ放り投げ泳いでいった
背には取りこぼされた星たちが息づき点滅している
ぼくの手のひらや膝は光にまみれ きれいだった
闇に翻るかれの姿はまるで運河で
虚を舞うかれのひとみにいるのは、はじめて見るぼく自身だ
古屋朋