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涙鉛筆|毎週ショートショートnote

カリカリカリッて、紙と鉛筆の芯がこすれる音がいいんだよ。シャープペンシルってのは、どうにも風情と情緒がなくていけない。

ええ? 風情と情緒の違いだって?

この紙と鉛筆だよ。まぁ、シャープペンシルなんてモンを使ってる人には分からんだろうね。

この「涙鉛筆」は最後の1本なんだ。ずいぶんと短くなって、色も薄くなって、もう少しで握ることも、書くこともできなくなる。気に入ってたのに残念だよ。
「汗と涙の結晶」っていうけど、この「涙鉛筆」は涙しか受け付けてくれなくてねぇ。

何とか鉛筆の寿命を延ばそうと、何とか涙を流そうと、泣ける映画、泣ける本、泣ける音楽……ずいぶん努力したけど、ここ数年は何を観ても聴いても、出るのは涙じゃなくて、あくびばかりなんだ。

本来ね、涙なんてものは「流そう」と思って流すものじゃない。自然に「流れてくるもの」なんだ。

最後の、いや、最期の1本も、もうすぐ終わりだ。

お別れだよ。

――葬儀の時、みんなは涙を流していた。

【了】410字


たらはかにさんの「毎週ショートショートnote」参加用です。
今週のお題は「涙鉛筆」。

思い付きとひらめきでパパっと書いたところ、なんと390字。あとはちょいちょいっと足して、ドンピシャの410字となりました。

多分、ショートショートはあれこれ考えずに、こういう直感みたいなもので書いた方がいいのではないでしょうか。

「消しゴム顔」、「動かないボーナス」、「ショートショート王様」など、普段は結び付かない言葉が組み合わされているわけですから。

ある意味、頭の体操なのかもしれませんね。
面白くなってきました。

ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!